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河合栄次郎、石橋湛山、ルーズベルト…日米自由主義者の主張

日本人が知らない自由主義の歴史~前編(6)日本とアメリカのニューリベラリズム

柿埜真吾
経済学者
情報・テキスト
「ニューリベラリズム」は日本やアメリカにも影響を与えていった。日本では河合栄次郎や石橋湛山が紹介に努めることになる。アメリカでは、大恐慌で市場経済への信頼が失墜したことが決定的となり、「ニューリベラリズム=リベラル」が優勢となっていく。そこで今回は日米でのニューリベラリズムの広がり方の違いを見ていく。(全7話中6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫

●日本のニューリベラリズム――河合栄次郎と石橋湛山の思想


―― 続きまして、「日本とニューリベラリズム」です。これは先生の経済学の講義でもお話しいただきましたけれども、ニューリベラリズム的な「政府が介入して福祉国家的なものをつくっていくべきだ」という主張に近いものを、日本の場合は河合栄治郎や石橋湛山が紹介していったのですね。

柿埜 ええ。河合栄治郎は、トマス・ヒル・グリーンの思想をすごく熱心に紹介して、「グリーンの考え方に基づいた自由主義が真の自由主義だ」ということを言った人でした。

 河合は社会主義に基本的に賛成で、「共産主義者とその点は一緒である。ただ、やり方が議会主義ではないから、共産主義に反対なのだ」と言いました。そういう形で、戦間期に一生懸命、右翼の軍国主義と左翼の共産主義に反対して、自由主義を唱えたわけです。ある意味で、この立場は「民主的ならば社会主義でもいい」ということで、社会主義批判としては非常に弱いものです。ただ河合は、非常に熱心に民主主義を支持した人としては、もちろん立派だったと思います。少し前の民社党に近い考え方ですね。

―― なるほど。

柿埜 石橋湛山はニューリベラリズムを紹介して、福祉国家やケインズ主義的な景気対策を確かに支持している人ではあるのですが、自由市場、自由貿易の重要性を主張している点では、旧来の古典的な自由主義とも共通点がある人です。

―― それは、ケインズ本人の考え方とは微妙に違うということになるのですか。

柿埜 ケインズ本人も実のところ、自由貿易、自由市場経済を否定していたかというと、時期によっては肯定していたりするので、微妙なのです。

―― なるほど。

柿埜 石橋はある意味で、より古典的な自由主義に近い部分がある人ですね。


●「植民地や軍国主義は、自国にもデメリットがある」と喝破


柿埜 石橋は、「そもそも植民地を持ったり、軍国主義を行ったりすることは経済的にも引き合わない。日本はむしろアメリカとの貿易で成り立っている国で、植民地貿易など大したメリットはないし、植民地の資源を獲得するよりも、貿易で相手の国に投資したり、貿易をしたりして獲得するほうがはるかに安上がりで、しかも国全体を豊かにする。お互いにメリットになるのだ」ということを主張した人です。

 要するに、相手にも自分にも得なのだ、と。自分は犠牲を払って相手に何かメリットを与えるのではなくて、植民地主義はそもそもよくないし、自分にもデメリットがあるという、面白い主張を展開した方なのです。

 石橋は「満洲が日本の生命線だ」といった主張がナンセンスであるということを、貿易の統計やさまざまなデータに基づいて、きちんと示しています。非常に現実的な発想だったと思います。

 アダム・スミスがそもそもアメリカの植民地を放棄するべきだということを唱えました。自由主義は原点に立ち返って考えると、スミスは植民地を持つ必要はないと言った人でしたし、ベンサムも植民地を放棄せよと書いています。それから、コブデンやブライトといったイギリスの自由主義の代表的な政治家も植民地主義に反対でした。

 だから、植民地主義に反対することは、自由主義の――中には自由主義者でも残念ながらおかしな妥協をしてしまった人はたくさんいるのですが――基本的なスタンスだったわけです。

―― そうですね。まさにここ(スライド)に先生がお書きいただいているように、それがなければ日本が第二次世界大戦に突入したかどうかも正直分からなかった、ということになってくるわけですね。

柿埜 植民地を持ったりすること、そのいっさいを棄てるべきだと石橋は書いています(一切を棄つる覚悟」)。実際、それを全部、捨てたほうが日本はむしろ世界中から尊敬されて、はるかに平和的に、しかも安全で豊かな国になるのだということを、第一次世界大戦が終わったあとに言っていたのです。

 これが実際にその通りになっていれば、あんな悲惨な戦争など絶対になかったのです。残念ながら、日本では自由主義は弱くて、これは全然実現しなかったわけですが。

―― 確かに先生がおっしゃるように、自由主義的な考えがもし強ければというところは出てくるわけですね。

柿埜 ええ。


●アメリカでは当初、「プログレッシブ」といわれていた


―― 続きまして、「アメリカのプログレッシブ」です。「プログレッシブ」という言葉が出てきましたが、これと「ほぼ等しい(≒)」として「ニューリベラリズム」とあります。イギリスとアメリカで言葉の使い方が違うということになるわけですか。

柿埜 そうです。これは、「リベラル」(つまり「自由主義」)という言葉が非常に...
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