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ホッブズ、ロック…生命、自由、財産の権利をどう守るか

日本人が知らない自由主義の歴史~前編(2)「自由主義」の誕生

柿埜真吾
経済学者/思想史家
情報・テキスト
自由主義の登場は17世紀にさかのぼる。その頃、社会は相次ぐ宗教戦争等で政府への不満が高まっていた時期でもあった。そうした背景のもと、政府について議論を展開したのがホッブズやロックといった思想家たちだった。ホッブズとロックの思想で、まったく違う点はどこで、似ている点はどこなのか。ロックの思想が後世の歴史に与えた影響とは? この2人の思想を読み解きながら、自由主義の誕生について解説する。(全17話中2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:56
収録日:2022/07/01
追加日:2023/04/25
≪全文≫

●自由主義の起源と当時の社会的背景


―― それでは、いよいよ深掘り講義に入っていきます。最初は「自由主義の萌芽」ということで、どのようにして自由主義が生まれていったのかという部分です。ここをぜひ教えていただけますでしょうか。

柿埜 自由主義が出てきた背景ですが、これは基本的には、ヨーロッパでものすごい宗教戦争があったということがあります。

―― 宗教戦争ですね。

柿埜 「個人の自由など全然認めない、特定の宗教をとにかく信じるんだ、プロテスタントを信じろ、あるいはカトリックを信じろ、そうでないと殺してやる」といった恐ろしい社会だったわけです。ですが、そんなことで殺し合いするのは良くないのではないか、もっと個人の自由を尊重して宗教も選択できるようにしたらいいのではないか、という考え方が出てくるわけですね。「他人が何を考えていたって、別にいいではないか」といった寛容の思想が出てくるのです。

 これと同じくらいの時期に、近代科学が発展してきます。近代科学が発展してくると、あまりに非合理的な発想で国民に特定の宗教を押しつけるといった考え方は、若干、後退してくる。そして、ますます「寛容な社会がいいのではないか」という発想が出てくる。これが、基本的には自由主義の起源だったのです。

 それまでは「宗教とは神さまが決めたもので、信じることは自明だ」「政府とは、神さまがつくれと言ったものだから、こういうものなのだ」という感じだったのですが、近代的な発想が出てくると、「そもそも、なぜ政府に従わなければいけないのか」、それから「宗教を押しつけるのはおかしいのではないか」という考え方になってくるわけです。

 そして、相次ぐ戦争で軍事費の負担もかなり重い。そこで、「政府がなぜ必要なのか」をきちんと考えてみるべきではないかという考え方が出てきたのです。


●ホップズが説いた「宗教の寛容」


柿埜 いろいろな方がいますが、自由主義につながる重要な発想として、ホッブズという人の『リヴァイアサン』という本があります。

 このホッブズ自身は、自由主義者とはお世辞にも言えない人です。ですが、自由主義が出てくる少し手前の思想で面白いものとして取り上げたいと思います。

 ホッブズは、「自然状態(=政府がない状態)」というものをまず考えます。そもそも政府はなぜ必要かということを考えたわけですね。「政府がなかったら、どうなるか」ということを、ホッブズは仮想的に考えました。

 政府がなかったら、皆が互いに殺し合いをするという状態(「万人の万人に対する闘争状態」)になってしまう。すごく悲惨で、惨めな生活を送る羽目になる。そうならないため(戦争を終わらせるため)には、皆が契約を結んで、政府に従うことにしようと決めればいい(「社会契約論」)。そうすれば、戦争が終わる――これがホッブズの発想です。

 これは、「神さまが政府に従えと言った」というものよりは、ずっと近代的・合理的発想です。ただ、ホッブズの残念な点は、「政府に服従すると皆が決めた。政府がなかったら社会は大混乱になる。皆が政府に服従すれば、混乱は収まる。だから政府は絶対権力を持つべきだ」となってしまうことです。これは自由主義とは全然違う発想です。

―― はい。

柿埜 だから、「国民には逆らう権利などない。抵抗する人が多かったら崩壊するかもしれないけれども、とにかく政府に皆が絶対服従だ」という。では、、その政府はどういった政治をしなければいけないかというと、ホッブズの考えでは、宗教に関しては寛容の政治をしなければいけないとします。宗教上の迫害はやってはいけない、と。この点についてはやや自由主義っぽいのですが、ホッブズは「絶対君主が正しい」といった、やや困った発想だったのです。

―― まさに時代的制約というか、当時の時代背景もあって、そのようになってくるのでしょうね。

柿埜 ええ。これに対して、その後、本当の自由主義が登場します。


●自由主義の先駆者はジョン・ロック


柿埜 同じ時期にスピノザなども似たような考え方をしているのですが、本格的な自由主義といえば、やはりロックの『統治二論』といわれる本ですね。

 これは名誉革命の後に出版された本なのですが、ロックは合理的な発想で政府を正当化しながら、「ホッブズのように、絶対君主に皆が服従しなければいけないなどという結論は出てこないのだ」という話をしています。

 ロックの『統治二論』が書かれた背景として、当時の絶対王政の考え方はアダムとイブの『旧約聖書』です。当時の絶対王政は、聖書に基づいて絶対君主を正当化していました。ロックはまず、これに対する反論を本の中でして...
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