●自由主義の起源と当時の社会的背景
―― それでは、いよいよ深掘り講義に入っていきます。最初は「自由主義の萌芽」ということで、どのようにして自由主義が生まれていったのかという部分です。ここをぜひ教えていただけますでしょうか。
柿埜 自由主義が出てきた背景ですが、これは基本的には、ヨーロッパでものすごい宗教戦争があったということがあります。
―― 宗教戦争ですね。
柿埜 「個人の自由など全然認めない、特定の宗教をとにかく信じるんだ、プロテスタントを信じろ、あるいはカトリックを信じろ、そうでないと殺してやる」といった恐ろしい社会だったわけです。ですが、そんなことで殺し合いするのは良くないのではないか、もっと個人の自由を尊重して宗教も選択できるようにしたらいいのではないか、という考え方が出てくるわけですね。「他人が何を考えていたって、別にいいではないか」といった寛容の思想が出てくるのです。
これと同じくらいの時期に、近代科学が発展してきます。近代科学が発展してくると、あまりに非合理的な発想で国民に特定の宗教を押しつけるといった考え方は、若干、後退してくる。そして、ますます「寛容な社会がいいのではないか」という発想が出てくる。これが、基本的には自由主義の起源だったのです。
それまでは「宗教とは神さまが決めたもので、信じることは自明だ」「政府とは、神さまがつくれと言ったものだから、こういうものなのだ」という感じだったのですが、近代的な発想が出てくると、「そもそも、なぜ政府に従わなければいけないのか」、それから「宗教を押しつけるのはおかしいのではないか」という考え方になってくるわけです。
そして、相次ぐ戦争で軍事費の負担もかなり重い。そこで、「政府がなぜ必要なのか」をきちんと考えてみるべきではないかという考え方が出てきたのです。
●ホップズが説いた「宗教の寛容」
柿埜 いろいろな方がいますが、自由主義につながる重要な発想として、ホッブズという人の『リヴァイアサン』という本があります。
このホッブズ自身は、自由主義者とはお世辞にも言えない人です。ですが、自由主義が出てくる少し手前の思想で面白いものとして取り上げたいと思います。
ホッブズは、「自然状態(=政府がない状態)」というものをまず考えます。そ...