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アダム・スミスと見えざる手…自由にしたほうがうまくいく

日本人が知らない自由主義の歴史~前編(3)アダム・スミスの『国富論』

柿埜真吾
経済学者
情報・テキスト
自由主義の発想は、「政府が介入せずに、自由にしたほうが、社会も経済もうまく回る」という自由市場経済とともに発展していくことになる。そのような思想を代表するものこそ、まさに、アダム・スミスの『国富論』であった。アダム・スミスは「見えざる手」を論じたが、だが、けっして神学的な議論でその結論を導いたわけではない。また、「市場万能主義者」でもなかった。では、アダム・スミスは何を説いたのか。今回はアダム・スミスの指摘したことを読み解きながら、自由主義や自由市場の基盤的な考え方について解説する。(全7話中3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:14
収録日:2022/07/01
追加日:2023/05/02
≪全文≫

●政府は万能ではない、自由にしたほうが社会はうまく回る


―― 今度は「自由主義」と「自由主義経済学」との関連ですね。

柿埜 ええ。先ほど(第2話)ロックの話でもしましたけれども、政府が何でも命令しなくても社会はきちんと機能するという発想が、自由主義的な経済学の発想です。

 これは、ロック自身が経済に関しても、高利禁止法のようなもので極端に金利を低くする政策はかえって逆効果になるといった、やや不十分なのですが、そういった指摘をしています。ロック自身が経済学に関心があった方なのですが、自由主義的な発想と経済学は非常に相性がいいわけですね。

 近代以前は、好き勝手に哲学者が考えた発想・アイデアで「人間はこういうものであるべきだ。こういうことをすればいいのだ」ということを書いている人がたくさんいたわけですが、近代になって「人間の社会には、きちんと法則がある」ということが認識されてきます。

 例えば、「パンの価格は安いほうがいいから、パンは低い値段にする。あるいは無料にする」という法令を政府が出したら、パンをつくる人は誰もいなくなります。これでは、かえって逆効果になってしまいます。あるいは「金利を取るなんてけしからん」と言って、金利を取ること自体を禁止してしまったら、お金を貸す人は誰もいなくなります。

 人間の社会にはきちんとルールがあって、それで回っている。政府が勝手に適当な法律を決めたからといって、その通りになるわけではない。極端な話、「息を止めなさい」という法律を政府がつくっても、誰も守らないし、それでは何もなりません。あるいは、「空を飛べ」という法律があっても、できませんよね。そういったように、政府は万能ではない、自由にしたほうが社会はうまく回るのだ、という発想が出てくるわけです。

 これは、ロックのあとに出てきたヒュームや、アダム・スミスがそうで、彼らは自由主義の代表的な哲学者でもあるわけですが、「(そうすれば)市場経済は非常にうまく機能するのだ」ということを指摘します。

 19世紀になると、ベンサム、リカードといった人たちが出てきて、自由主義の考え方に基づいて自由貿易や規制改革を進めていくことになります。

―― 実際、それで社会が変わっていくことになるわけですね。


●アダム・スミスの「見えざる手」


―― その有名なアダム・スミスの『国富論』が出てきますけれども、ここで「政府の恣意的な介入はかえって有害な結果を招く」とあります。スミスが説いたのはどういうことでしょうか。

柿埜 アダム・スミス以前の経済学者は、しばしば社会をゼロサムゲームで考えていたわけです。つまり、誰かが得をしたら、誰かが損をする。どこかの国が得をしたら、どこかの国が損するに違いないと考えていました。

 ですが、考えてみると、実際の社会はそんなふうにはできていません。自発的な交換が起こるとはどういうことかというと、「自分が持っているものをあげて、相手が持っているものを貰ったほうが、自分は得をする」とお互いに思っている状態です。だからこそ交換が起こるわけです。もし、そうではなく、相手の持っているものよりも自分の持っているものに価値があると思ったら、交換などしません。ということは、「社会の中で交換が起こって市場が機能するのは、実は皆にとって良いことなのだ」というのがスミスの発想です。

 これは国同士でも成り立ちます。だから、自由貿易をして、お互いに自分の国が上手につくれるものをつくって、相手から相手が上手につくれるものを買ったほうがいい、とスミスは指摘したわけです。

 当時は、政府はそういうことが起こらないように、貿易を自由にしないで統制して、国が強くなるなどと言って――これは今でも言っている人はいますけれども――自国産業を保護するなどしていたわけですが、これはかえって社会全体としては、むしろ結果的に貧乏になる、ということをスミスは言ったわけですね。


●論理的に「自由市場のメリット」を説いた


柿埜 スミスは「見えざる手」という言葉を使ったのですが、市場経済の中では、誰かが経済全体を統制したり、調整したりしているわけではないけれども、価格メカニズムが働くことによって、例えば不足しているものは値段が高くなって、皆がたくさんつくろうとする。値段が高いから、消費者は節約しようとする。そうして、需要と供給がうまく釣り合い、社会全体が機能する。誰かが設計しているわけでもないし、誰かがそれを全部調整しているわけでもないけれども、皆が自発的に価格に反応して行動することによって、社会全体で最も必要なものがきちんとつくられて、社会全体が便利になっていく。そういうふう...
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