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●クルド人に団結をもたらしたイスラム国の脅威
皆さん、こんにちは。今日は引き続き、中東におけるクルド民族とイスラム国の対決という問題を取り上げます。日本ではほとんど注目されない重要性について語りたいと思います。
クルド人は、イラクとシリア、トルコ、イランに分かれて住んでいます。彼らの住む地域を「クルディスタン」と呼びますが、これまで歴史的には、互いの間に主導権をめぐって相当な争いが展開されました。しかし現在では、強い愛国の感情と団結力が彼らにもたらされています。
その触媒になったのはひとえにイスラム国の脅威だと、前回申し上げました。それが四つの地域で、国を超えたクルド人の協力を刺激しました。北イラクのクルド地域政府(KRG)や北シリアのクルド人居住地域(ロジャヴァ)における戦いには、海外からも、あるいは、近接するイランやトルコからもクルド人たちが駆け付けているという現象があります。
例えば、イランのクルディスタン民主党が、義勇兵として一つの部隊をつくり、北イラクにおいてクルド地域政府の国防省指揮下にある部隊として戦争に参加したことが伝えられています。首都エルビル(アルビール)において、クルド地域政府とイランのクルディスタン部隊が一緒に戦っているという現象が起きてきたのです。
●テロ組織の傘下にある集団も女性部隊も、「死なばもろとも」の覚悟
また、トルコにはクルディスタン労働者党(PKK)という組織があり、トルコ政府やEU、アメリカなどから長い間、テロリストと目されてきました。クルディスタン労働者党の流れに位置するのは、シリア北部にあるクルド人居住地域の直系、あるいは、その流れをくむ「YPG」という組織です。YPGは「人民保護軍」とかりそめに訳すことはできますが、もともとトルコ政府が不倶戴天の敵として長い間憎んできたクルディスタン労働者党の傘下にある組織と言ってもいいでしょう。すなわち、彼らが北シリアにおける抵抗の源泉になっているということです。この人民保護軍は女性を含んでいて、シリアとイラクでイスラム国と戦っているのです。
最近の新しい進展として、クルド地域政府の「ペシュメルガ」と呼ばれる戦士たちと人民保護軍は、イスラム国と戦ったり、彼らの攻撃を阻止するために、場所を選ばず共同行動をとるに至りました。簡単に申しますと、クルド人たちは、「シリアだ、イラクだ」と言っていられなくなったということで、双方ともに「死なばもろとも」といった結論に達したのでしょう。互いが互いを必要とする依存関係が、非常に強くなってきています。
●テロ組織の子部隊である人民保護軍への国際世論も変化
トルコのクルディスタン労働者党は、いまだにアメリカはおろかEUにさえテロ組織と見なされていますが、クルド地域政府によって国際舞台に引っ張り出され、アメリカが苦しむイスラム国の掃討に参加することをきっかけに、クルディスタン労働者党の法的な適合性を図ることが不可欠になってきたのではないかと言う人も、観察者の中にはいます。
いずれにしてもクルド地域政府は、トルコのクルディスタン労働者党の軍事力を必要としています。今年、シンジャル等でイスラム国と戦う中、クルド地域政府はイスラム国の強さに驚愕し、彼らの驚くべき成功や残虐さをともかく阻止しなければならないと気付いたからです。
彼らの残虐ぶりは、クルド地域政府や北シリアのクルド人居住地域における人民保護軍に対する欧米の世論をも動かしています。人民保護軍は、もともとトルコの組織の子部隊だったのですが、それに対する国際世論にも、劇的な変化がもたらされつつあるのです。
●アメリカのイラク政策が変化し、クルド地域政府が浮上する理由
その理由は、他ならぬアメリカのイラク政策が変わりつつあるからです。アメリカは長くイラクに一体性を主張してきました。その結果として、イラクの中にあるクルド人たちの存在をなかなか認めようとしなかったのです。
ところが、最近の演説においてバラク・オバマ大統領は、「イスラム国に対抗する勢力としてのクルド人」を支援する必要性を語り出しました。すなわち、イラクとクルドを区別する発言になってきたのです。結局アメリカは、今や北イラクのクルド地域政府を、軍事行動や外交活動における中心にしようとしているのです。
なぜならば、イラクの国防軍が腐敗と汚職によって解体していたからです。兵員の20パーセントから25パーセントが事実上欠員で、現実には機能していなかったのです。国防予算は提供したのに、なぜこのようなことになっているのかと言うと、司令官レベルの搾取や詐取によって、軍が不完全なものとなったからです。


