経営学者の野中郁次郎氏は日本敗戦の屈辱をリベンジするためにも、アメリカに渡って経営学を研究した。アメリカの思想に対し、日本の思想で戦おうとしたのである。野中氏の経営学は日本の文明論でもあり、そこから「欧米の形式知」と「日本の暗黙知」という二項対立を生み出した。そもそも言葉に出さなくても、わかりあえるのが日本人である。日本人は戦後、アメリカ式の競争戦略を懸命に学んだが、却ってそれが日本に悪く作用してしまっている。いまこそ日本は「日本とは何か」を明らかにする必要がある。(全10話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
人生と仕事観
経営とは数字やフレームワークではなく「生き方」である
人生と仕事観(2)「欧米の形式知」対「日本の暗黙知」
9.「喜んでもらいたい」が自由を生み、自由が勇気を生む
2025年11月7日配信予定
10.本当の自分とは「見つける」のではなく「出会う」もの
2025年11月14日配信予定
時間:10分42秒
収録日:2025年7月4日
追加日:2025年9月19日
収録日:2025年7月4日
追加日:2025年9月19日
≪全文≫
●「欧米の形式知」と対抗する力としての「日本の暗黙知」
―― 今のお話の流れの中で、日本の経営に帰ろうというとき、どういうものになるのか。単純に昔に戻るということではなく……。
執行 (レジュメに)野中郁次郎さん(の名前)が出ていますね。野中さんはカッコいいですからね。日本の経営学者の中で、野中さんが一番好きです。
―― 田村さんは、いかがですか。
田村 私は野中さんと何度も対談させてもらっています。すごく謙虚な人で、びっくりしました。対談する前に、私の本に細かいメモを書いた付箋がいっぱい貼ってあった。すごく謙虚な人だと思いました。
野中さんの最後の本だと思いますが、『二項動態経営―共通善に向かう集合知創造』(野中郁次郎著、野間幹晴著、川田弓子著、日経BP)。
執行 ありました。「二項動態」という言葉を作りました。
田村 そこに私のことが紹介されていて、非常に評価もしていただき、ありがたかったですね。
あの方はアメリカのカリフォルニア大学のバークレー校で教鞭を執られましたが、私も40歳前に会社から派遣されて、バークレー校の大学院で勉強しました。当時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の一番いいときで、「なぜ日本はそんなにいいのか」と聞かれました。でも私も含めて、誰も答えられなかったのです。
執行 日本のよさは、そこにあるのです。
田村 「日本は何か」と聞かれても答えられなかった。野中さんの本をそのとき読んでいれば、(答えられることは)多少何かあったと思います。
野中さんと話をしていて、よく「リベンジだ」とおっしゃっていました。戦争で、敵のアメリカの戦闘機に追いかけられたらしいのです、機銃掃射で。「あのリベンジをするんだ」と。そのためにアメリカに渡って、敵を研究したと。
執行 戦後の最初の学者は、そういう人が多いです。あの戦争で負けたから、今度は経済または知識、学問、こういうもので絶対に勝つのだと。
田村 それが原動力なのです。
執行 野中さんはその代表者の一人です。
田村 そうですね。私が入社したときの課長は、大体そういう世代でした。野中さんの世代でしたから。やはりみんな同じことを言っていました。
執行 高度成長して頑張ったサラリーマン自体が、みんなそうです。「あの戦争で負けたけれど、今度の経済では負けないぞ」みたいな。
田村 昔...
●「欧米の形式知」と対抗する力としての「日本の暗黙知」
―― 今のお話の流れの中で、日本の経営に帰ろうというとき、どういうものになるのか。単純に昔に戻るということではなく……。
執行 (レジュメに)野中郁次郎さん(の名前)が出ていますね。野中さんはカッコいいですからね。日本の経営学者の中で、野中さんが一番好きです。
―― 田村さんは、いかがですか。
田村 私は野中さんと何度も対談させてもらっています。すごく謙虚な人で、びっくりしました。対談する前に、私の本に細かいメモを書いた付箋がいっぱい貼ってあった。すごく謙虚な人だと思いました。
野中さんの最後の本だと思いますが、『二項動態経営―共通善に向かう集合知創造』(野中郁次郎著、野間幹晴著、川田弓子著、日経BP)。
執行 ありました。「二項動態」という言葉を作りました。
田村 そこに私のことが紹介されていて、非常に評価もしていただき、ありがたかったですね。
あの方はアメリカのカリフォルニア大学のバークレー校で教鞭を執られましたが、私も40歳前に会社から派遣されて、バークレー校の大学院で勉強しました。当時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の一番いいときで、「なぜ日本はそんなにいいのか」と聞かれました。でも私も含めて、誰も答えられなかったのです。
執行 日本のよさは、そこにあるのです。
田村 「日本は何か」と聞かれても答えられなかった。野中さんの本をそのとき読んでいれば、(答えられることは)多少何かあったと思います。
野中さんと話をしていて、よく「リベンジだ」とおっしゃっていました。戦争で、敵のアメリカの戦闘機に追いかけられたらしいのです、機銃掃射で。「あのリベンジをするんだ」と。そのためにアメリカに渡って、敵を研究したと。
執行 戦後の最初の学者は、そういう人が多いです。あの戦争で負けたから、今度は経済または知識、学問、こういうもので絶対に勝つのだと。
田村 それが原動力なのです。
執行 野中さんはその代表者の一人です。
田村 そうですね。私が入社したときの課長は、大体そういう世代でした。野中さんの世代でしたから。やはりみんな同じことを言っていました。
執行 高度成長して頑張ったサラリーマン自体が、みんなそうです。「あの戦争で負けたけれど、今度の経済では負けないぞ」みたいな。
田村 昔...
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