今は会社でも規範がいろいろと崩れてきているが、キリンビールでは規範を作り直すことができた。それは、絶対的なものに向かうことで真の自由を得て、自分が何者かに気づいたからである。会社には予算や人材などさまざまな制約があるが、その制約を乗り越えることで自由は得られる。逆に「いくら使ってもいい」と言われたら、イノベーションは起こらなかっただろう。これはたとえば、本を執筆することでも同じだ。編集者から「締切」や「分量の制約」を課せられるのは、一面において腹立たしくもあるが、しかしそれがなければ、本など書けるものではない。(全10話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●真の自由を得ることで自分が何者か気づく
執行 私はとんでもなく乱暴な人間で、ひどい青春時代を送ってきましたが、「一線を越えない」というところがありました。なぜかというと、やはり親です。「親が悲しむ」とか「親の顔に泥は塗れない」とか。そういうことなのです、人間が押しとどまるのは。それがなくてはダメなのです。
田村 その規範が今、崩れてきているではないですか。
執行 だいぶ崩れていますね。
田村 でも企業では、できたのです。キリンビールで。企業では規範を、もう一度作り直すことができた。その理由は、絶対的なものに向かったからです。そこへ向かっていると夢中になってくるし、「無」という感じになってくる。これは自由なのです。何をやっても。
執行 真の自由を得られると。
田村 そうです。真の自由が得られることによって、自分が何者か気づくのです。「真の自分はここにあるのか」という感じです。これが会社における規範になるのです。「絶対的なものに向かって進む」「決めたことは必ずやりきる」。これが会社の規範として出てくる。これは生き方です。
執行 そうですね。
田村 家庭に入っても地域に行っても同じなのです。「自分は誰かのために生きる」と。これが会社の中で作れると、変わっていくのです。会社でなぜそれができるかというと、利益が大事だからです。利益を生む。売上げ。売上げを上げるために、お客さんからもっと信頼してもらわないといけない。
そこへ向かっているうちに、お客さんからいろんな反応が来て、「自分の努力によって、これだけ世の中に貢献できている」というのが感覚としてわかってくるのです。それによって「『自分が何者なのか』『このために生まれてきたのか』がわかりだした」と多くの人間が言っていました。これは規範です。企業によってできるのは、やはり利益が必要だからなのです。
執行 もちろんそうです。新陳代謝です。
田村 もう家族は非常に難しいのです。これだけ崩れてくると、家族でもう一度、日本人の規範を一から作り出すのは。
元部下が「幸せな家族を作ろう」といろいろなワークをしていますが、大体のお母さんお父さんが自分の子どもに期待するのは「主体的に考えて行動できる子どもにしたい」というものです。ところが、(そうした)お母さんお父さんに、主体性がないのです。
執行 まあ...