●中曽根・福田両氏にみる右派勢力との関係
―― しかし、周囲のあの右派勢力の中でいろいろやるのは、安倍さんも非常に難しいようですね。
若宮 ちなみに、中曽根康弘さんは、靖国参拝まではいいのだけれど、見事に右派を裏切ったのです。靖国参拝をする前も、彼は、全斗煥さんを呼んだりしていましたし、それから、「侵略戦争」とは言わないまでも、「侵略的行為」という言葉を使っていたのです。総理としては初めてだと思いますね。それで、靖国に参拝しますが、中国の反応を見て、すぱっとそれをやめます。「政治家に大事なのは反省だ」「国際協調なくして英霊は浮かばれない」というようなことまで言うのです。しかし、実はそれで、右派から、あいつはけしからん、とものすごく言われることになるし、靖国神社との関係も悪くなるのです。ところが、見事に国際的な政治家として名を成すわけですよね。
―― いや、本当におっしゃる通りですよね。毛沢東さんがリチャード・ニクソンさんに向かって、「私は、右派は信用できる」と言ったことと同じですよね。
若宮 「あなたは(右派の)共和党だから信用する」と言っていますね。半分皮肉ではあるけれども、あれは見事で、やはり政治力学としては正しいので、そういうことだと思うのです。
それで、福田赳夫さんが、日中平和友好条約をつくりましたよね。あの人は、ご存じのように、佐藤栄作内閣の外務大臣で、国連への中国の加盟や、台湾の追放に反対する決議をアメリカと一緒に出したけれども、敗れて、福田外相不信任案まで食らった人ですね。それから、その翌年の総裁選挙で、田中角栄さんと戦って負けますが、その時は、日中国交は時期尚早だ、と言っています。その後、彼本人はそんなに全面に立たなかったけれど、彼を支持した右派の方々、今の安倍晋三さんにつながってくるような人々は皆、日中国交正常化に抵抗し、平和条約をつくるのにものすごく抵抗したのです。
しかし、福田さんは平和条約をやるわけです。その間に、三木内閣が入って、三木武夫さんもやりたくて仕方がなかったのですが、三木さんはできませんでした。これは、ハト派だったからです。
―― ハト派だからですよね。
若宮 ですから、僕は、福田さんからも聞いたことがありますが、やはり自分の周りには、福田派でなくても、灘尾弘吉さんや椎名悦三郎さんなど、台湾派などの名だたる人たちが大勢いて、そういう人たちも、まあまあなだめることができた、ということを言っていました。そういうメカニズムがあるのです。
ただ、安倍さんに連なっているような人々は、そういう福田さんや中曽根さんが許せない方向で純粋培養されたような人がいるので、そこが安倍さんの苦労のしどころだと思います。しかし、これだけ世界中を駆け回っているのは、やはり素直に、僕らは見事だなと思いますし、そうであれば、中国や韓国を何か敵に回してしまうような形では、やはり限界がありますよね。
●中国との連携が不可欠な時代だからこそ
若宮 周辺国や、その他のいろいろな国々にも、もちろん中国を警戒している国は多いけれど、さりとて、中国と決定的に仲を悪くするような同盟をつくろうとか、そんなことは思っていないですし、アメリカが一番そうでしょう。今、中国をどうしようか、ということで悩みつつも、やはり中国と連携しなければいけないという時代です。そういう意味で、安倍さんは、難しい時期に来ていますが、うまくやれば、立場は非常に強くなると思うのですけれどね。
―― 安倍さんは名宰相になれる可能性がありますし、もう世界最大の自動車マーケットは中国ですし、アップルのiPhoneにしても、一番のマーケットはアメリカではなくて中国になりました。これはもう仕方がないのですよね。
若宮 全くその通りです。
―― 東アジアの諸国、東南アジアの諸国、日本もそうです。ですから、やはりここでうまくやれれば、安倍さんは大宰相ですよね。
若宮 もちろん、中国の向こうを張って、ある程度、日本を無視するな、というポーズをとるのはいいけれども、それを力で何かやろうとすると、まずいのです。中国を警戒するのはいいけれど、中国だって日本を警戒していますからね。やはり日米同盟がどんどん強化されて、日本がアメリカの肩代わりをしていくことについては、中国だって警戒しているわけですからね。あまり日本が中国の軍を警戒する行動をとっていくと、向こうがそれを我慢するのではなく、また膨張する要素にたくさんなるわけですから、そこはうまくやる必要があります。
中国だって、決して戦争をしようとは思っていないのです。中国は、あれだけの人民を抱え、あれだけの国内の矛盾や格差を抱え、人々を食べさせていかなければならないし、そのために改革開放をやらなければいけな...