ユークリッドは多数の定理をより根源的な5つの公理へと集約し、体系化した。紀元前のことである。この思考のプロセスが共有されたことで、彼の頭の中身は2千年以上、人類共通の知の基盤となった。また、「アルキメデスの原理」という世紀の大発見がある。なぜ発見できたのか。そこに問題があったから、彼は知識を使い考え抜いた。だからこそ、外にある情報と結びついて生まれた新しい発見なのだ。情報はそのままでは何も生み出さないが、頭の中にある知識と結びつくと新しい体験や創造の源泉となる。(全7話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●ユークリッドの頭の中身が、みんなの頭の中身になった
―― 先生の「頭の中にあるものが教養で、外にあるものが情報だ」というところでいいますと、今、面白いお話が頭に浮かんだのですが、ある先生がおっしゃっていたことです。例えば、虫とか、鳥とか、葉っぱとか、花とか、昔はこれらを図鑑で調べなければいけなかった。(虫の)足がこうだとか、花びらがこうだと特徴をよく覚えて図鑑で調べてたら、「これはこの花だ」とか「これはこの虫だ」ということが分かる。
そのようにしたものは、すごくよく頭に残る。(しかし)最近スマートフォンで写真をパシッと撮って画像検索すると、「これは何何という花」とか「これは何何という虫」と出てきてしまって、「これはこうなのね」とその場では分かるけれど、全然、頭に残らない。そういうことをおっしゃっている方がいました。
「頭の中にあるものが教養で、外にあるのが情報」といったときに、頭の中にどう積み重ねていくか。結構難しいというか、どう考えるべきですか。
橋爪 頭はとりあえず自分のものです。でも、みんなのものなのです。頭は人々が共有できるものなのです。
数学を例にしましょう。ユークリッドという人がいたとします。彼は数学が得意です。だからいろいろな過去の計算例や証明というものをもっぱら集めて、そういうものをいっぱい読んでいく。(だから)覚えている。よく知っているわけです。それだけだったら情報でしょう。でも、彼はその先を考える。(例えば)二等辺三角形の両底角が等しい。事実等しい。どんな二等辺三角形を書いてみてもそうです。なぜか。証明できるから。証明は、二等辺三角形の両底角が等しいということよりも、もっと基本的なことから出発して、それを結論として論理的に導くという作業です。いろいろなことが証明できる。だから正しい。
さて、全ての正しい内容を証明して、これを一冊の本にしたら幾何学の本ができる。幾何学の本を書くとしたら、どうやって書けばいい? 証明されたものは定理です。証明された定理を使って別な定理を証明しても構わない。だから定理はどんどん増えていく。
逆の方向にたどっていくと、定理はどんどん簡単な定理になっていって、最後は定理ではなく、ある前提から出発するのではないかということを考えたのです。これは彼が考えたから、初めてそのことが分かったのです。...