世界各地で語り継がれる英雄神話は、私たちにとってどのような意味を持つのだろうか。第6話では、ギリシア神話や日本の神話、インドの『マハーバーラタ』などを題材に、多様な英雄像とその構造を分析する。力や名声を重んじるアキレウスなど武力主体の英雄がいる一方、知恵を駆使して生き残りにかけるオデュッセウスやスサノオなど文明的な英雄との対照的な類型が存在する。英雄の活躍と限界、危険性という両面を描く物語は、人々に何を与えてきたのか。さらに、ギリシアと異なり、今なお信仰や歴史の根幹として神話が生き続けるインドとも比較し、人間を超える存在の物語が果たす役割を読み解く。(全9話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●アキレウス、スサノオ、ヘラクレス…世界の英雄神話の構造を分析
―― ちょうど今『オデュッセイア』のお話をいろいろ伺ってまいりました。『オデュッセイア』はある意味でギリシア神話における英雄神話ということになろうかと思いますけれど、世界中に英雄神話はあり、日本だと一番はヤマトタケルノミコトの物語が英雄神話になるでしょう。
松村 そうですね。よく知られています。
―― 英雄神話は本当に各国にあると思うのですけれど。英雄神話というものが人間にとって何だったのか、どういう役割を果たすものだったのかということをぜひお聞きしたいと思います。
松村 つまり、普通の人間ではないのですね。普通の人間にはできないことを成し遂げる。それがその社会にとって貢献してくれるということなのです。スポーツでも、普通の人にはできないような、とんでもないことをするヒーローが求められているし、実際にそのように活躍をする。
もともと一番古いところでは、それは何だったのかというと――おそらく人間は(昔からずっと)人間なので旧石器時代からそういう英雄の物語はあったと思いますが――遠くまで出かけて行って、危険を冒して、普通は手に入らないような獣を倒して持ってくる、そういう男たち。昔はそれを男たちしかやらなかったので。
そうすると、獲物を持ち帰ったら、その家族とか親戚とかその集団で「もうすごいよ、あいつは」ということで物語られるわけです。「あの時はあんなものを獲ったんだよ」ということで、代々それが「お前のおじいさんはこんなやつだったんだ、すごかったんだぞ」ということで伝わっていく。
それが、武器などが発達して、今度は征服戦争のようなものが始まっていくと、その集団の中で1つのモデル、伝説的な存在として英雄像がやはり作られてくるのです。
ただ、今回ここで取り上げているオデュッセウスという英雄は、特異な英雄だと思っています。つまり、彼は「新しいタイプの英雄=知恵の英雄」なのです。腕力がないわけじゃない。けれども、彼が他の英雄に勝るのは、知恵を使うところ。腕力だけじゃない。耐えることを知っている。我慢することを知っている。生き残るためなら恥をかくこともいとわない。そういう、ある意味ではとても近代的な英雄像を作り上げているということです。
(一方、)『イリアス』のほうの英雄は誰かというと、アキレ...