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クリントン政権時の外交漂流と同様の現象がいま起きている

インド太平洋の基本的構造(2)米国の対外政策が漂流する理由

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
中国・江沢民国家主席との会談における米国・クリントン大統領
アメリカの外交政策が漂流している。それは、冷戦終結後、アメリカ一強時代に突入したことに起因すると、政策研究大学院大学(GRIPS)学長・白石隆氏は分析する。果たしてそこで何があったのか。クリントン以降の歴代大統領に共通する点を指摘しながら、漂流の理由を解き明かす。(全3話中第2話目)
時間:04:50
収録日:2015/01/21
追加日:2015/06/04
カテゴリー:
≪全文≫

●冷戦終結から始まったアメリカ外交の漂流


―― それから、アメリカですけれども、アメリカはよくぶれますね。

白石 ぶれます。

―― 先生は講演の中で、「ヒラリー・クリントンはとても学習能力が高かったが、必ずしもそうではない人も出てくる」とおっしゃっています。これは、やはりこれからも同じですかね。

白石 一番決定的な理由は、冷戦が終わり、外に大きな脅威がなくなったことだと私は思います。


●アメリカの対外政策が漂流している理由


白石 ビル・クリントンが大統領になった時、実は彼は初めて安全保障チームよりも経済チームを重視したのです。経済チームは、大統領といつでも会えましたが、安全保障チームは、ほとんど会えなくなってしまいました。その理由は、例の“It’s the economy,stupid”にありました。その言葉は、クリントンがアメリカ大統領選挙の時に相手候補に対して発したもので、経済が大事で、アメリカの経済を立て直すことが自分の一番大きい仕事だとして大統領になったのです。

 そうすると、外交は最大のプライオリティーではないのです。「対外戦略など後知恵だ」と考えた彼は、結局、安全保障チームよりも経済チームを重視したため、対外政策が漂流したのです。

 しかし、大統領が対外政策に関心がないと言っても、世界各地でいろいろなことが起こりますから、クリントン政権は結局、否が応でもそれに対応せざるを得なくなっていきました。

 同じことがブッシュ政権でもオバマ政権でも起こっています。ジョージ・W・ブッシュも初めて大統領になった時、「対外政策には関心ない」と言っていました。ところが、9・11によって、結局テロとの戦争が彼の一番大きな課題となります。バラク・オバマ大統領は、ある意味で世界金融危機の克服が最大の課題でしたが、イスラム国の問題や中国の台頭、ヨーロッパやウクライナの危機など対外的な諸問題をだんだんと相手にせざるを得なくなっていきます。しかし、本心では、それが一番重要で自分のやりたいことだとは思っていないはずです。そのことが、おそらく外交政策が漂流する最大の理由です。ただ、その中で戦略的に考える人と戦術的に考える人がいます。

 クリントン政権時代に書かれたものをいろいろと読むと非常にはっきりしているのですが、ビル・クリントンさんは、とても頭のいい人だと思います。しかし、決して戦略的にものを考える人ではなく、もっとタクティカル(戦術的)に考える人でした。一方、ヒラリーさんは、違います。彼女は、「われわれは常に長い旅をしている。それがどういう方向に行く旅で、どういう意味があるのか。そのことをアメリカ国民に説明しなければいけない」と繰り返し言っており、「旅」という言葉をよく使いますが、そういった大きな構図のようなものをきちんと考えるタイプの人なのです。


●日米のトップレベルでのマネージメントが大事


白石 その意味では、オバマさんの第一期は、国務長官に人を得たと思いますね。今はそういう人がいなくなり、レガシー・プロジェクトの方に走っているため、キューバとの国交正常化などを進めていると思います。しかし、大きなイニシアティブは、あまり期待できないのではないかと思います。

 しかし、それでも結局、アメリカが戦略的なビジョンを持って、やっていかなければいけないわけです。その力は、日本にはないですし、ヨーロッパの国々にもありません。そうすると、日本は、例えば、オーストラリアなどと連携しながら、アメリカ政府、特に大統領やトップクラスに対して、本当の意味でいろいろなことを言っていかなければいけません。つまり、一種のトップレベルでのマネージメントがとても大事になってきているのではないかと思います。
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