近代中国哲学と西洋哲学
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近代は三つの領域が埋め込まれた状態からの解放が始まり
近代中国哲学と西洋哲学(4)明代の人民主権思想
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
近代の成立要件となる「民主主義(人民主権)」は、中国哲学において、どのように展開してきたのか。17~18世紀・明代末期の二人の思想家、繆昌期と黄宗羲を取り上げ、近代中国の公共空間論を考える。東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、洋の東西を渡り歩くシリーズ「近代中国哲学と西洋哲学」第4話。
時間:20分20秒
収録日:2014年12月19日
追加日:2015年7月6日
≪全文≫

●18世紀・民主主義の成立と中国の近代


 18世紀の話をもう少し進めたいと思います。

 18世紀は、宗教社会学者のロバート・ベラーも非常に重要視していた時代です。ベラーの示唆によると、特にチャールズ・テイラー(カナダの政治哲学者)のことを念頭に置きながら発言しているのですが、それ以前の社会とは決定的に違うことが生じたと考えています。それは、「三つの領域が埋め込まれた状態から解放された」と言っているのです。その領域とは、「経済」、「公共圏」、それから「民主主義」の三つです。

 今の私たちにはやや想像が難しいかもしれませんが、経済がそれまでの宗教を中心とする社会システムから一つの独立した領域になっていったことは画期的だったわけです。

 ですから、アダム・スミスが市場経済論を書いたのは、経済学者として経済学をいろいろと勉強して書いたというより、当時勃興しつつあった「経済」という新しい領域を記述してみたということでもあったのだろうと思います。それは、同時に「公共圏」の成立でもあったと言うのです。

 どういうことかと言うと、公共圏とは、人々が自由にオピニオン(意見)を交換し合う空間ですから、具体的には、新聞などのメディアの成立がなければ公共圏はうまくいかないということなのでしょう。出版産業が自立して、新聞などのメディアが印刷されて流通することが、公共圏を支えていくのだろうと言うのです。経済と公共圏の二つがあって初めて「民主主義」、つまり神や王ではなく、“人々”に主権があるという考え方が成立してきます。

 これが18世紀の意味なのではないか。19世紀はそれをより確かなものにしていったのではないかと考えられているわけです。

 そのことをもう一度中国に戻って考えていくと、中国の場合、近代をどこに設定していくのかという問題には、なかなか難しい議論があります。

 いつかお話しできればと思いますが、京都の東洋史学をつくった内藤湖南、あるいは、その弟子の宮﨑市定は、「唐宋変革論」を唱えました。つまり、宋から中国的な近代が始まっていくという考え方です。

 確かに、経済的にも、宋は爆発的に経済力が高まっていきます。さまざまな貿易もありましたし、指標が示すところでは中国経済がそこで一気に浮上していく時期でもありました。

 出版、流通に関しても、革新的な技術が開発されま...

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