近代中国哲学と西洋哲学
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
規範をどう考えるかによって王陽明の弟子たちが分裂
近代中国哲学と西洋哲学(1)陽明学左派の思想
哲学と生き方
中島隆博(東京大学東洋文化研究所長・教授)
王陽明以降の中国思想は、「規範」という難問に直面した。彼らはそれをどのように考えたのか。中国哲学者でありながら西洋哲学にも詳しい東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、洋の東西を渡り歩くシリーズ「近代中国哲学と西洋哲学」第1回。
時間:19分57秒
収録日:2014年12月19日
追加日:2015年6月15日
≪全文≫

●陽明学以降、「規範」という難題に直面した


 皆さん、こんにちは。中島隆博でございます。前回は、朱子学から陽明学への展開を見てきました。今日は、陽明学以降の中国思想の展開を見ていきたいと思います。その際、中国思想を単に閉じて孤立した思想・哲学と考えるのではなく、世界的な思想・哲学の流れの一つとして、同時代の思想・哲学と並ぶ思想だという視点を導入したいと思います。

 朱子学、陽明学が人の心、内面を発見しました。そうすると、規範がどのように成立するかが改めて問題になります。それまで規範は、例えば「礼」という形ですでにさまざまな書物に書き込まれ、社会的に浸透していました。とりわけ儒教的な規範は、経書、あるいは朱熹が「四書」という形で『論語』などを新しい経書に加えましたが、そのような聖なるテクストに源泉があると考えられていました。ところが、いま私たちは人間の内面を問う思想的局面に入った中で、人々は規範を一体どのように考えればよいかという難しい問題に直面したのです。


●四句教に対して、二通りの解釈の違いがあった


 王陽明の弟子にも、規範について二通りの解釈の違いが出てきます。一つは陽明学左派と言われる陽明の考えを大胆に展開していくグループで、代表的な存在に王龍渓(王畿)がいました。もう一つは、それとは逆に、やや保守的に陽明の考え方を受け継ごうとする人々で、銭徳洪に代表される一派です。

 この二派の違いは、規範をどう考えるかという問いに深く関わっています。ポイントは、陽明が弟子たちに示した自分の教えのエッセンス「四句教」の解釈です。四句教とは、「無善無悪が心の体。有善有悪が意の動。善を知り悪を知るのが良知。善を為し悪を去るのが格物」という短い教えです。

 四句教を字義通りに読んでいくと、王陽明は、意の動で悪が出現し、その悪を良知と格物によって取り去っていく道筋を考えていたことが分かります。このプロセスを通じて規範が回復され、善が実現されると主張したのです。

 銭徳洪に代表されるグループは、それをそのまま継承します。つまり、心の本体は無善無悪であると師は言っている。そして、意において善悪が現れてくるのだから、格物致知、誠意、正心、修身といった工夫が必要となる。実践修養しなければならない。このような穏当な主張をしていました。


●王龍渓は、「頓悟」に近い主...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治