近代中国哲学と西洋哲学
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「シンパシー」に規範の根拠を求めた清朝考証学の泰斗
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規範をどう考えるかによって王陽明の弟子たちが分裂
近代中国哲学と西洋哲学(1)陽明学左派の思想
中島隆博(東京大学東洋文化研究所教授)
王陽明以降の中国思想は、「規範」という難問に直面した。彼らはそれをどのように考えたのか。中国哲学者でありながら西洋哲学にも詳しい東京大学東洋文化研究所教授・中島隆博氏が、洋の東西を渡り歩くシリーズ「近代中国哲学と西洋哲学」第1回。
時間:19分57秒
収録日:2014年12月19日
追加日:2015年6月15日
≪全文≫

●陽明学以降、「規範」という難題に直面した


 皆さん、こんにちは。中島隆博でございます。前回は、朱子学から陽明学への展開を見てきました。今日は、陽明学以降の中国思想の展開を見ていきたいと思います。その際、中国思想を単に閉じて孤立した思想・哲学と考えるのではなく、世界的な思想・哲学の流れの一つとして、同時代の思想・哲学と並ぶ思想だという視点を導入したいと思います。

 朱子学、陽明学が人の心、内面を発見しました。そうすると、規範がどのように成立するかが改めて問題になります。それまで規範は、例えば「礼」という形ですでにさまざまな書物に書き込まれ、社会的に浸透していました。とりわけ儒教的な規範は、経書、あるいは朱熹が「四書」という形で『論語』などを新しい経書に加えましたが、そのような聖なるテクストに源泉があると考えられていました。ところが、いま私たちは人間の内面を問う思想的局面に入った中で、人々は規範を一体どのように考えればよいかという難しい問題に直面したのです。


●四句教に対して、二通りの解釈の違いがあった


 王陽明の弟子にも、規範について二通りの解釈の違いが出てきます。一つは陽明学左派と言われる陽明の考えを大胆に展開していくグループで、代表的な存在に王龍渓(王畿)がいました。もう一つは、それとは逆に、やや保守的に陽明の考え方を受け継ごうとする人々で、銭徳洪に代表される一派です。

 この二派の違いは、規範をどう考えるかという問いに深く関わっています。ポイントは、陽明が弟子たちに示した自分の教えのエッセンス「四句教」の解釈です。四句教とは、「無善無悪が心の体。有善有悪が意の動。善を知り悪を知るのが良知。善を為し悪を去るのが格物」という短い教えです。

 四句教を字義通りに読んでいくと、王陽明は、意の動で悪が出現し、その悪を良知と格物によって取り去っていく道筋を考えていたことが分かります。このプロセスを通じて規範が回復され、善が実現されると主張したのです。

 銭徳洪に代表されるグループは、それをそのまま継承します。つまり、心の本体は無善無悪であると師は言っている。そして、意において善悪が現れてくるのだから、格物致知、誠意、正心、修身といった工夫が必要となる。実践修養しなければならない。このような穏当な主張をしていました。


●王龍渓は、「頓悟」に近い主...


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