●初めての事業は難しい。建売事業は銀行とのバトルから
高橋 何でもそうなのですが、初めてのことは難しいです。建売を始めようと、わずかに50坪分、坪20万円で1000万円の資金を銀行で借りようとしたときが、そうでした。不動産を始めて1年経った頃、「建売をやりたいので、貸してくれないか」と申し込んだら、「実績、ありますか?」と言われました。
実績と言われても、初めてですからね。「初めてで、実績はないのですか?」と聞かれたので「ないです」と言ったら、「ああ。お貸しできません」と言われて、終わり。「貸してくれないの、これ?」「いや、駄目です」「なぜ?」と粘っても駄目なものは駄目でした。
次の銀行へ行ったら、「実績はありますか?」「ありません」「初めてですか?」「初めてです」「はい。では、お貸しできません」それで終わりです。全部断られる。
「これは、どうなっているのだ。何? 初めてだと全部駄目なの?」と言いながら4軒回りましたが、全部断られた。それで、これは駄目だな、と気が付きました。
「でも、地主さんとは契約してしまったから、何とかしなければ」と自分に言い聞かせ、きょうだいのところへ行きました。僕は六人きょうだいの末っ子ですから、兄と姉に「200万円ずつ貸してよ。金利10パーセント払うから」と頼み、上の四人が800万円貸してくれました。これに自分の手持ち資金200万円を足し、1000万円で土地を買いました。
●大工さんに頭を下げて、建った、売れた、また建った
高橋 買った土地は25坪ずつに二分割して建物を建てよう、あまり大きなものは建てられないので、当時の相場で500万円ぐらいでお願いしよう、と決めていました。ところが土地代に全部はたいてしまったので、もう1銭も残っていない。そこで、大工さんの所へ行って「すいません。僕、お金ないのですけれど、ここに建物建ててくださいよ」と頭を下げました。「売れ次第払うという条件でやってくれないか」と聞いたら、「おお。やってやるよ」と言ってくれました。
―― すごいですね。
高橋 面白いな、と思いました。「絶対に、何でもできるな」と思い、1軒建ててもらってすぐ売って、またすぐ次を建ててもらってまた売って。
次は3区画買おうと思ったのですが、銀行が駄目なのは分かっているので、信用金庫へ行ってみました。「貸してくれない?」と言うと、出て来たのが一つ後輩で、「いいよ、貸すよ」と言う。「お前、そんな簡単に言って大丈夫? 後で貸してくれないとなると、僕の手付金、パーになるぜ」と念を押したのですが、「大丈夫だよ」と貸してくれました。
その3区画もすぐに売れたので、「今度は10区画にしよう」ともくろみました。すると、これまで断ってきた銀行の方から「実績ができましたね」と連絡が入るのです。「2区画分貸しましょう」「3区画分貸します」と、合計10区画分が借りられました。今回は道路を入れた大きな開発となり、盛大に売って20区画買う。それも売れて、また30区画。35歳のときには40区画を売ることになり、儲かって仕方がない状態になりました。
―― それはそうですよね。
●儲かり過ぎにストップをかけた、周辺業者への観察
高橋 社員は5人しかいないから、もう人には言えないぐらい儲かった。建てている最中から売れていくので、「こんなに儲かっていいのかな?」と。
あまりに儲かりすぎるので、「なぜ売れるのだろう?」と他の会社の状況を見渡してみたのです。大手で100棟の開発をしているところは、150棟分も200棟分も土地を買っていく。40区画の会社は60区画分。皆5割増しで、余分に土地を買っているのですね。それで、買ったらすぐに建てる。
自分より小さな業者はどうかと思ってみると、やはり10区画ぐらいを手がけているのが15区画ぐらい買う。「あれ、こいつもか」と思うと、1、2戸しかやらない人までその方式でやっていて、やはり売れている。
「なぜ全部売れるの? これは、おかしいよ」と僕は思いました。自分の物件が売れるのは分かるけれど、彼らが売れているのはおかしいと、真剣にそう思ったのです。
―― あまり工夫しない連中でも?
高橋 そう。「僕は工夫しているけど、彼らは工夫してない。それなのに彼らが売れているのはおかしい」と思いました。自社はともかく、あんなものまで売れるのは、雰囲気で売れているだけだろうと思い、「やめる!」と決断しました。手持ちの土地を全部売り飛ばして、銀行の借入金を全額返したのです。
●拡大破滅型の恐ろしさを目の当たりにし、管理業へ移行
高橋 「売るものがなくなるから、続けてやりましょうよ」と社員は言いましたが、自分は「やらない」の一点張り。「うちは、注文建築にする...