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DATE/ 2018.02.14

冤罪の補償金がいくらか知っていますか?

 「冤罪」とは、傷害、窃盗、痴漢などの刑事事件で、犯罪を行っていないにも関わらず、有罪の判決が下されること、また被疑者として逮捕や取り調べをされるときに使われる言葉です。

 近年では、「痴漢冤罪」が問題になったり、数十年服役した死刑囚が、逆転無罪を勝ち取るなど、一般の人々の間でも冤罪への意識は高まっているように思います。普段通りの日常を過ごしていたはずなのに、ある日突然身に覚えのない罪状が突きつけられるということは、可能性としてゼロではないのです。

 もしも「冤罪」によって人生の大切な時間を奪われた場合、何か補償はあるのでしょうか?

冤罪だった場合に支払われる補償金

 無実だったとはいえ、警察に逮捕されたという事実は、その人の人生に大きな影響を与えます。日本では、裁判で無罪判決を受けた方へ、精神的、肉体的に受けた苦痛の補償として、拘束されていた日数1日あたりにつき1,000円~12,500円を、国が支払うということが「刑事補償法」で定められています。

 これは、逮捕もしくは勾留された期間がある場合に請求できるもので、例えば在宅で捜査を受け、逮捕・勾留されなかった場合には請求することはできないというシステムになっています。また、無罪判決までの間に逮捕もしくは勾留された期間があれば、逮捕のみで勾留がなされなかった場合や、保釈により釈放された場合も補償の対象になります。

 しかし、最高額の1日12,500円を受領したとはいえ、24時間に換算すれば時給は500円相当。さらにそこから弁護士費用などが差し引かれるとすると、手元に残るのはさらに低い金額です。イメージしていたよりも安いと思う方も多いのではないでしょうか。

死刑宣告を受け、数十年拘束され続けた対価

 少し生々しいお話ですが、実際に起こった冤罪事件ではどのような額の補償金が支払われたのでしょう?

 有名な冤罪事件では、1990年に栃木県足利市で女児が殺害された足利事件があげられます。犯人として17年半拘束されていた菅家利和さんは、2010年に無罪が確定し、無事に釈放されました。このときの補償金は約8,000万円です。

 また、1984年に熊本県の祈祷師一家が殺害された事件では、免田栄さんが犯人として逮捕され死刑宣告を受けましたが、34年後の1983年に無罪が確定。この免田事件と呼ばれる事件の場合は、免田栄さんに9,000万円強の補償金が支払われたとされています。

 お二人とも、補償金の一部を、自分を支援してくれた日弁連などに寄付をされたそうです。一見高額な補償金ですが、無実の罪で拘束され続けている間の胸中は、察するにあまりあります。奪われてしまった時間は、果たしてお金で釣り合うものなのでしょうか……。

「国家賠償法」が適応される場合も

 「刑事補償法」とは別に、「国家賠償法」によって補償金が支払われる場合もあります。しかし、こちらの場合は「公務員の不法行為」が立証できなければ認められません。これを明らかにするにはハードルが高いといわれています。

 2009年に起こった障害者郵便制度悪用事件で、無罪が確定した元厚生労働省局長の村木厚子さんは、この「国家賠償法」を適応させ、休職中の給与約3,800万円の支払いを認められました。木村さんの場合は検察官による証拠改ざんという、明らかな違法行為があったために成立したものです。しかし、足利事件や免田事件をはじめとする、殺人事件や強盗事件における捜査段階のミスなどは、こうした「不法行為」にはあたらないと考えられています。

身近に潜む冤罪の影

 こうしたメディアに長く取り上げられるような大きな事件のほかにも、さまざまな冤罪事件があります。痴漢冤罪はその代表格ですが、電車にも乗らないし、女性だから大丈夫と思う方も多いかもしれません。しかし、思わぬところから冤罪は降ってきます。

 例えば2012年には、遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから犯行予告が書き込まれ、19歳の少年たち4人が誤認逮捕されるという事件が起きました。パソコンという、近年誰しもが使っているツールが、冤罪の元になってしまったのです。

 少年たちは不起訴となりましたが、拘束されていた期間は46日間。この事件の場合は、最高補償額の1日12,500円、トータルで約57万円が支払われましたが、57万円という額は果たして適切なのか、ネットでも議論が巻き起こりました。

補償金だけで解決できる?

 補償金を多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれかもしれません。しかし、警察からの厳しい取り調べを受け続け、人権を剥奪された見返りが、最高でも1日12,500円という点について、スタッフからは納得のいく額には感じないという意見が聞かれました。

 たとえ冤罪だったとしても、会社に解雇されたり、住宅ローンなどがある場合には支払いも滞ります。また、大きな事件の犯人に仕立てられてしまえば、全国のメディアで大々的に報道されることになります。心に負った傷を、お金がどのくらいいやしてくれるのかというのは疑問が残ります。社会的な地位の回復や、相応の援助が行われてもいいのではないでしょうか。

 いつ誰が当事者となってもおかしくない「冤罪」。可能であれば生涯無縁でありたいと思う一方で、捜査組織と司法が、正しく機能しているかを見守っていくことが、同じ法律のもとで生きている市民の役目なのかもしれません。

<参考サイト>
・はびきの未来法律事務所:無罪と補償(刑事補償、無罪費用補償)
http://habikino-law.com/blog/741/
・シェアしたくなる法律相談所:強姦被害の女性「本当は嘘でした」・・・えん罪被害者への補償はどれくらい?
https://lmedia.jp/2015/03/06/62335/
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テンミニッツTV編集部
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