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DATE/ 2018.02.17

東京五輪でも期待大、airbnbのサービスモデルとは

 2020年の東京五輪に向けて、全国的に民泊を解禁する「民泊新法(住宅宿泊事業法)」が2018年6月15日から施行されます。その中に明記されているのが、「airbnb(エアービーアンドビー)」「HomeAway(ホームアウェイ)」などの企業名です。

 とりわけairbnbは、2016年のリオ五輪で代替宿泊施設公式サプライヤーに認定されたシステム。リオデジャネイロ市内において8万5000人のゲストがサービスを利用しました。ホストの収益は3000万ドル(約30億円)を超え、全体で約1億ドル(約76億円)の経済活動があったと推計されています。

 これほどの経済効果をもたらすairbnbのビジネスモデルばかりが注目されることに不満を抱いているのが、サービソロジーを推進する村上輝康氏(産業戦略研究所代表)。氏が注目しているのは、airbnbの「サービスモデル」が優れていることなのです。どういうことなのか、教えていただきましょう。

「ユニークな宿泊体験」がairbnbのコンテンツ

 airbnbは、個人事業主であるホストが、自分の家や部屋を、自分のいない間、宿泊先を探しているゲストに適当な値段で貸し出すためのマッチングを行うプラットフォームを運営しています。そこで、まず「送り手、受け手、コンテンツ」の面からサービスモデルを検証しましょう。

 情報の送り手(ホスト)と受け手(ゲスト)が主役で、airbnbの立場は「媒介」です。媒介として行うのは、デジタルなオープンプラットフォーム上で、登録された宿の中から、顧客の事前期待を完全に充足するような宿泊体験を実現すること。

 この宿泊体験の実現が、いわゆるコンテンツ。airbnbの創業メンバーが「ホテルは高くて、ありきたりだ」と感じていたことから、エアーマット1枚から始まったというエピソードは広く知られています。当初は「ホテルとホステルの中間」、あくまで実用性がねらいだったのが、現在ではツリーハウスやヨーロッパの古城、モンゴルのパオなど、信じられないほど多様でユニークな宿泊体験が可能になりました。送り手と受け手で構成される利用者の数が増えれば増えるほど、コンテンツが雪だるま式に充実するのが、airbnbの魅力です。

「価値共創」の時代のサービス産業はどう動く

 また、村上氏が重要視しているコンセプトは「利用価値共創」です。これまでは企業が価値を創出し、消費者は企業の生み出した価値を消費するととらえられるのが普通でしたが、サービソロジーでは、価値は企業と顧客が一緒に生み出していくものと考えています。アップルやグーグルなど、時代の先端で成功している企業の多くが、価値の共創を主軸に置いています。

 airbnbにおいて利用価値共創がどのように行われているかというと、チャネルとコンテキストがものを言います。チャネルの充実は、ユーザーインターフェイスとも言いかえられるでしょう。airbnbでは創業メンバー3人中2人がデザイナーであるため、デザイン性に非常に優れています。また、可能な限りスマホ対応できる手軽さにより、ゲストもホストも価値共創に参加しやすくなります。

 コンテキスト(文脈)を共有することは、サービス産業の重要ポイント。airbnbは現在192カ国でサービスを提供しているため、土地に応じて異なる文化、慣習、法規制等の間を結ぶ役もこなしています。ホストとゲストの双方がトラブルなく満足する環境を生み出すための努力です。

イノベーションを立ち止まらせない評価システム

 このほかに、airbnbでは満足度評価を顧客に義務付けて、事前期待を上回るしくみをつくり、新しい価値発信を充実させるよう取り組んでいます。満足度評価によって、ゲストとホストの間で行われた価値共創の結果は経験価値に位置付けられ、評価を受けることでairbnbとホストには学習度評価がもたらされます。このようにして、ホストにもairbnbにも知識とスキルが蓄積されていきます。

 最後に、コストとリターンについてもガラス張りのしくみで、ホスト・ゲストともに満足を得ています。結果としての交換価値は、airbnbが非公開企業であるため不明確ですが、ヒルトンやマリオットなど世界有数のホテル・チェーンと並ぶほどの企業価値を実現していると言われています。

 airbnbが急速に成長した理由は、利用価値共創のサイクルと経験価値共創のサイクルがつながり、価値共創の自律的成長のスパイラルを形成していること。また、それが市場での交換価値実現のサイクルにつながることだと村上氏は言います。持続可能なサービスイノベーションとして、東京五輪でもairbnbはさらに注目される存在でありそうです。
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