テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.03.05

「神社」と「寺」の違いを説明できますか?

 東京五輪も近づいて、来日観光客も年々増加の一途をたどっています。人気スポットは北海道から沖縄、世界遺産白川郷やオタクの街の秋葉原と幅広いようですが、神社仏閣も外せない定番になっているそうです。今や伏見稲荷や金閣寺、浅草寺などは日本人よりも観光外国人の方が多いようにさえ見えますよね。

 日本人にとっては身近な存在である「神社」と「お寺」ですが、外国の方や小さい子供にどう違うのと訊かれて説明できますか? 改めて考えてみると日本人にも意外と難しい神社仏閣の違いを調べてみました。

神社と仏閣の違い1:宗教・「神」か「仏」か

 神社と仏閣の根本的な違いに、まず宗教の違いがあります。ご存知の通り、神社は神道、仏閣は仏教の施設です。基本的には、神社は「神」を、お寺は「仏」を祀っていることになっています。

 神道でいう「神」は、「八百万の神」の言葉通り実に多様です。イザナギやイザナミ、アマテラスといった神話に登場する神々もいれば、祇園祭で有名なゴズテンノウのように仏教や外国の神々と同一視された存在もいます。また、天皇家をはじめとして、織田信長や徳川家康といった一時代を築き上げた戦国大名や、怨霊と化して恐れられた菅原道真のように、人が神として祀られるようになるケースも見られます。

 くわえて、山や海など自然の神、出産の神、農業や芸能の神から以前流行歌になった「トイレの神様」もとい厠の神まで、日本人は様々な神様を身近に祀ってきました。

 仏教の「仏」とは、「悟りを開いたもの」という意味合いになります。釈迦族の王子だったシッダールタが出家し悟りの境地に達した後、その教えを広めるために開かれたのが仏教です。お寺で拝んでいる釈迦如来や大日如来といった仏像は悟りを開いた存在の姿であり、神を象った姿ではありません。

 ただ、日本では神と仏を同一視する考え方が生まれたので、一概に区別するのが難しくなっています。例をあげると、日本で一番多いとされる八幡神社の「八幡様」は、元来応神天皇を神格化して祀ったものでしたが、後に仏教の菩薩号が付いて「八幡大菩薩」として信仰されています。

神社と仏閣の違い2:鳥居・仏像・お墓

 視覚的なイメージとして神社を思い浮かべると出てくるのは、やはり「鳥居」ではないでしょうか。地図記号にも使われていますし、どこの町でも目にすると思われます。対してお寺にあるものはといえば、やはり「仏像」と「お墓」になるでしょう。

 では鳥居があるのが神社で、ないのが仏閣なのかと言いますと、鳥居のあるお寺もあれば、鳥居のない神社も存在します。反対に仏像のある神社というのもあるそうです。

 この様な神社と仏閣の線引きの難しさには、歴史的な背景事情があります。

 多くの宗教の例に洩れず、神道と仏教も歴史の波に翻弄され都度変化し続けてきました。仏教の伝来時には、日本古来の神々の怒りを招くと、仏教受容派と反対派が対立しましたが、平安時代には神と仏は一体であるとする「神仏習合」が唱えられます。

 また、徳川幕府の時代においては、「寺請制度」で庶民はいずれも寺院の檀家になることを定められます。しかし明治政府は「神仏分離令」を発布、この法令が仏像や仏具を焼き捨てる「廃仏毀釈」を招きました。その後、仏教天皇崇拝など明治政府の方針に従うことを条件に認められますが、神道は祭政一致国家の道具として「国家神道」になり、敗戦まで続いていきます。これらの流れが今日まで尾を引いており、神社と仏閣の区別を難しくしているようです。

 ただ、お墓のある神社はまずありません。神道では死を穢れとして遠ざけるため、死者のための空間を持たないのです。

神社と仏閣の違い3:人生儀礼における場面

 日本では「無宗教」を公言する人も少なくありませんが、それでも思っている以上に神社仏閣に足を運ぶ場面はあるのではないでしょうか。初詣に限らず、人生儀礼にも「神社」と「仏閣」が深く関わってきます。

 神社は主にお祝い事で訪れる機会が多いのが特徴と言えるでしょう。子供が生まれたことを報告する初宮参りや、子供の成長を祝う七五三、神前結婚式も神社で行います。また、還暦など長寿のお祝いも神道がベースにあるものです。

 逆に人生の終焉、死を扱うのはお寺になります。お葬式も昨今はセレモニーホールで執り行われることも多いですが、菩提寺のある家庭ではお寺で開くのが一般的でした。また、お盆やお彼岸などのお墓参りにお寺まで連れ立つ人々の姿は今でも見られます。

 とはいえ、神道にも神葬祭という葬儀があり、お寺で開かれる仏前式という結婚式もあり……明確に線引きするのはなかなか難しいようです。歴史の中で変化し続けた神社仏閣、どう違うかと考えるより、どのように続いてきたかに注目すると、お参りもより趣深いものになるのではないでしょうか。

<参考文献>
『カラー版 イチから知りたい! 神道の本』(三橋健著、西東社)
『一冊でわかるイラストでわかる 図解仏教』(広沢隆之著、成美堂出版)
『なぜ日本人は神社にもお寺にも行くのか』(島田裕巳著、双葉社)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

幸運と不運はあざなえる縄のごとし…非行少年の運と実力

幸運と不運はあざなえる縄のごとし…非行少年の運と実力

運と歴史~人は運で決まるか(3)幸運と開運

「幸運」と似た言葉に「開運」があるが、この二つは歴史的にみると少し違うと山内氏は語る。かつて或る国に非行少年だったが運にめぐまれて宰相に上り詰めた男がいたが、彼は本当に幸運だったのか。そもそも幸運とは何か。また...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/05/02
山内昌之
東京大学名誉教授
2

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
3

驚愕的インフレを克服したブラジルの奇跡と強さの秘密

驚愕的インフレを克服したブラジルの奇跡と強さの秘密

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(5)多民族国家ブラジルの強さ

グローバル・サウスで注目される6カ国の最後はブラジルである。南米最大の多民族国家として、文化やスポーツなどさまざまな面で注目を集めており、世界の中でもその開放的な国民性には関心が高い。しかし、政治では腐敗やスキャ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/05/01
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
4

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学を理解する上で大事な「3つの柱」とは

地政学入門 歴史と理論編(1)地政学とは何か

国際政治を地理の観点からひも解く「地政学」という学問。近年、耳にすることも多くなった分野だが、どのような手法や意義を持った学問であるかを学ぶ機会は少ない。その基礎から学ぶことのできる今回のシリーズ。まず第1話では...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/04/30
小原雅博
東京大学名誉教授
5

皇室像の転換…戦後日本的な象徴天皇はいかに形成されたか

皇室像の転換…戦後日本的な象徴天皇はいかに形成されたか

天皇のあり方と近代日本(1)「人間宣言」から始まった戦後の皇室

日本の歴史のなかで、天皇や皇室の姿は大きく移り変わってきた。日本が第二次世界大戦に負けた後、戦後日本的な象徴天皇の姿が確立されていったが、今、その「戦後の皇室像」の変化が求められているのではないか。その問題意識...
収録日:2021/11/02
追加日:2021/12/16
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授