テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2019.08.12

ビジネスマンの「スニーカー通勤」アリ?ナシ?

 ビジネスマンの間で「リュック」が増加中なのは、満員電車に乗るとすぐわかります。その足元で静かに人気を集めているのが、「スニーカー通勤」です。なぜスニーカー通勤が増えているのか、これからどうなるのかなど、調べてみました。

スーツを着るビジネスマンの保守的な足元意識

 スニーカー通勤を牽引したのは、実はお役所。2017年10月に「FUN+WALK PROJECT(歩きやすい通勤プロジェクト)」の一環として、スポーツ庁がスニーカー通勤を提唱したのが、ことの始まりでした。

 その時点での意識を、「週に4~5日はスーツを着用する」20代から50代の男性を対象に調べたアンケートがあります(調査元は、靴の輸入・販売を手がけるロックポート ジャパン株式会社)。

 当時、「スニーカー通勤したいですか」の問いに、「とてもしたい」と答えたのは2割以上。「したい」「どちらかというとしたい」を足すと、5割強になります。「どちらとも言えない」様子見族が3割ほどいて、「どちらかというとしたくない」から「絶対にしたくない」の拒否派は2割弱でした。

 一方で、スニーカー通勤が可能だった会社は全国で4割以上(西日本は5割近く)。それでも、実際には「ビジネスシューズを週に4日以上履く」人が96.8%。「スニーカー通勤をしたくて、会社も禁止してはいないのに、履いていない」のが、ほとんどのビジネスマンでした。

 職場で許容されているのにスニーカー通勤をしたくないと回答した人の理由は、1位「スニーカーはスーツに合わない(51.4%)」、2位「ビジネスマンとして革靴を履くことはマナーだ(37.1%)」。この強固な思いは、どのようにくつがえされてきたのでしょうか。

「健康」は東京オリンピックが次代に残すレガシー

 2018年3月、鈴木大地スポーツ庁長官を中心とする「FUN+WALK PROJECT」のキックオフイベントが時事通信ホールで開催されました。登壇した関係者は、もちろん全員がスニーカーで足元を固め、「国民の健康こそ、2020年東京五輪大会のもたらす大きなレガシーである」と、意識の切り替えを促しました。

 健康面でいうと、「20代~50代のビジネス世代は、60代以上よりスポーツ実施率(週に一度以上スポーツをしている割合)が低い」という驚きの結果も発表され、「このままではヤバいかも」と密かに運動不足を懸念していた層を直撃します。

 モデルによる『FUN+WALK STYLE』は、こうすればスニーカーでもビジネス現場にマッチすると提案するファッションショー。「フォーマルスタイル」と「カジュアルスタイル」の男女それぞれ2組の着こなしが紹介された後は、2017年から福井県庁が取り組んできた『スニーカービズ』の実績が伝えられました。一般企業からは、アサヒ飲料、アシックスジャパン、高島屋、ドコモ・ヘルスケアの事例が続々と紹介されました。

 この日登壇したのは人ばかりではなく、ご当地キャラの数々も。1日の歩数にあわせて、これらのキャラがどんどん変身したり、1千歩ごとにたまるポイントが割引クーポンに交換できたりする「FUN+WALK」アプリ発表のためでした。アプリはGoogle Play、App Storeからスマホにインストールできるようになっています。

スニーカー就活もパンプス追放も?

 こうした動きを受け、企業が自ら後押しする動きも活発化しています。

 ロート製薬は、2019年1月から1日の歩数などに応じて社内通貨「ARUCO(アルコ)」がもらえる仕組みを導入し、会社が運営するレストランでの利用や休暇の取得ができるようになりました。住友生命保険やアサヒ飲料も、スニーカー通勤を「解禁」していることが報じられています。

 最近、目を引いたのは、日航が新たに設立したLCCがユニホームに白と黒のスニーカーを取り入れたというニュース。2020年夏に就航する「ZIPAIR(ジップエア) Tokyo」の国際線で導入される予定で、動きやすさを重視した制服にあわせて採用されました。

 さらにジョンソン・エンド・ジョンソンが、スニーカーでの就職活動を解禁し、他社への波及を呼びかけています。絆創膏ブランド「バンドエイド キズパワーパッド」のキャンペーンとして「#スニ活」を提案したのです。「靴ずれが減ると、バンドエイドは売れなくなるかもしれませんが…」と、あえて提唱した姿勢に賞賛が寄せられています。

 折から、SNSでは女性の「仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたい」とグラビアアイドル・女優・ライターの石川優実さんが「#KuToo」のハッシュタグを発信。2019年6月には18,856人の署名とともに要望書を厚生労働省に提出しています。

これならOK!「スーツに合うスニーカー」

 さまざまな広がりを見せる「スニーカー通勤」ですが、メーカー側では通勤を意識したモデルを増やしています。はるやま商事では、スーツにも合う「レザースニーカー」を開発するとともに、アシックスの「テクシーリュクス」シリーズを販売しています。

 セレクトショップのユナイテッドアローズが発売する「ドレススニーカー」やコールハーンの「グランドエボリューション」などは、正面から見ると、とてもスニーカーとは思えない仕上がりです。さらにナイキ、ニューバランス、アディダスといったトップ・メーカーでは、ブランド公式のカスタムサービス(オーダーメイド)を始めており、スーツ用にカスタマイズした一足を発注する手もあります。

 相手あってのビジネスですから、不快感や違和感を与えないマッチングが何より求められます。売れ筋が黒やネイビー、ブラウンなどの落ち着いた色合いなのも納得。日本のビジネス・スタイルは、足元から進化していくでしょうか。

<参考サイト>
・FUN+WALK PROJECT
https://funpluswalk.jp/
・読売新聞:ビジネスにスニーカー、違和感なく履きこなすには
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20180411-OYT8T50080/
・朝日新聞 :スニーカー通勤、あなたもいかが 大企業が続々「解禁」
https://www.asahi.com/articles/ASM285FLCM28PLFA00Z.html
・朝日新聞 :日航新LCC、制服にスニーカー採用 動きやすさを重視
https://www.asahi.com/articles/ASM4C4FGBM4CULFA00F.html
・BAND-AID:「#スニ活」キャンペーン
https://www.band-aid.jp/campaign/sunikatsu
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授