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DATE/ 2019.10.26

日本で「最も訪れたくない」都市は…?

「最も訪れたくない街」に選ばれたのは……

 日本の8大都市である札幌市、東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市。この中で「ぜひ訪問したい」と多くの人に思われているのはどの都市でしょうか。9月5日に発表された、名古屋市の観光文化交流局ナゴヤ魅力向上室による「都市ブランドイメージ調査」でその最新結果がわかりました。

 この調査は各都市の在住者を対象に10点満点の数値で回答してもらい、10~8点を「訪問意向あり」、5~7点を「中立」、4~0点を「訪問意向なし」として、「訪問意向あり」の割合から「訪問意向なし」の割合をマイナスし、50ポイントを最高とする指数に換算しています。その結果、1位は41.7ポイントで札幌市、2位は34.8ポイントで京都市、3位は28.7ポイントで横浜市でした。どの都市も人気の観光名所ですよね。

 さて、この調査で裏を返すとわかってしまうのが、「訪問したくない都市」です。つまり最下位は「最も訪れたくない都市」となります。残念ながらそれに選ばれてしまったのが、2.7ポイントしか獲得できなかった名古屋市です。なんと18.8ポイントで7位になった大阪市より16.1ポイントも少ないという、圧倒的な点差での最下位です。

 実は2016年に実施された前回の同じ調査でも名古屋は最下位。名古屋市がこの調査を行っているのも、名古屋市が人々にどう見られているかを数値化して指標とするためなのです。

名古屋市民が名古屋市の魅力を伝えていない

 またこの調査では、名古屋市が31.9%の票を獲得して「最も魅力に欠ける都市」に選ばれました。こちらも15.7%で7位になった福岡市のほぼダブルスコアという、圧倒的な点差です。しかし本当に名古屋市はそんなに魅力がないのでしょうか。

 この点についてナゴヤ魅力向上室は、「ほかの都市と遜色ない観光資源があるにもかかわらず、地元の人がその価値を認識していない」と分析しています。実際、名古屋市在住の人々が「自分の住む都市に買い物や遊びで訪れることを勧めたいか」という質問にイエスと回答した「推奨度」は、13.9%で最下位でした。どうやら、まず名古屋市の住民が名古屋市の魅力を積極的に伝えていないようです。

 確かに名古屋市民はあまりでしゃばらず、アピールが苦手といわれます。その一方できらびやかな嫁入り道具でも知られるように、派手好きなところもあります。身内には目立ちたがるわりに、外部と向き合うとおとなしくなってしまう内弁慶な気質なのですね。

 尾張名古屋といえば織田信長と豊臣秀吉というふたりの天下人の出身地。外に打って出るのは得意なはずなのに、なぜこのような性質になったのでしょうか。この転換点となったのが、江戸時代の尾張藩7代目藩主・徳川宗春といわれます。

 宗春は「上に立つ人間こそいろいろな価値観を認めるべき」という柔軟な思想の持ち主で、江戸幕府が質素倹約政策を推進していたご時勢に芝居や遊廓を公認し、尾張藩を一大商業都市に育てました。しかし次第に風紀が乱れ、尾張バブルは崩壊。宗春は江戸幕府の命令で強制的に引退させられ、その後はずっと監禁生活を送ったのです。

 このような宗春の盛衰を見てきた尾張藩の人々は、バブル世代らしい派手好きでありながら、「目立ちすぎるとろくなことにならない」という一歩引いた考え方もあわせ持つ内弁慶になりました。この出来事が、名古屋市をアピールできない名古屋市民の源流となっているのです。

「宿敵」にも認められた名古屋の魅力

 そして1980年代、名古屋市民にさらなる試練が降りかかりました。タレントのタモリさんによる「エビフリャー」などの誇張した名古屋弁声帯模写が人気を博したのです。現在ではNHKの町歩き番組「ブラタモリ」などで博識ぶりを披露して、知的タレントの代表格になっているタモリさんですが、当時のネタはまだエッジの効いた危険なものばかり。名古屋市は一気に「イジられ都市」として一般化しました。これでは名古屋市民も、自信を持って「名古屋市は魅力的」といえなくなってしまいますよね。

 しかし2017年6月、名古屋市とタモリさんの「歴史的和解」が実現しました。「ブラタモリ」が名古屋市を訪れたのです。現在の名古屋市の原型は、信長と秀吉に続く三大天下人のひとり・徳川家康がプロデュースしたもの。番組の中でタモリさんは、家康が考案した名古屋城の災害避難所としても使えるスペースや、東西南北に間口を持たせてにぎやかさを演出した商店街の町割りなどに感心しきりでした。「名古屋イジリの元凶」である「名古屋の宿敵」もその魅力を認めたのです。

 名古屋市は「ブラタモリ」の名古屋編放送を大々的にプロモーションし、これを機にナゴヤ魅力向上室が運営するサイト「SNUG CITY NAGOYA」では名古屋市をガイドする「ブラナゴヤ」の公開を開始しました。「ブラナゴヤ」では名古屋城や熱田神宮などおなじみの有名スポットのほか、名古屋市のモノづくりの大動脈となっていた中川運河や古代の窯跡である瓶入谷に建つ東山動植物園なども地理と歴史に詳しく触れて紹介しています。

 名古屋城は現在(2019年時点)修復作業中ですが、木造復元でなるべく建設当初の姿に近づけるという熱の入りようです。たくさんの魅力的な文化を持ち、その魅力をきちんと後世に伝えようとしている名古屋市。市民はアピールが苦手ですが、訪れる価値のあるすばらしい都市なのです。

<参考サイト>
・平成30年度都市ブランド・イメージ調査を実施しました│名古屋市
http://www.city.nagoya.jp/kankobunkakoryu/page/0000084816.html
・bizコンパス 派手好きなのに倹約家、名古屋人気質はなぜ生まれた
https://www.bizcompass.jp/original/column-aa-16.html?link_id=serial
・名古屋観光情報名古屋コンシェルジュ ブラタモリ名古屋編
https://www.nagoya-info.jp/tokushu/buratamori01.html
・SNUG CITY NAGOYA ブラナゴヤ!木村有作さんと名古屋のモノづくりのルーツをたどる~その1
http://snug.city.nagoya.jp/myfavoriteroute/012/
・SNUG CITY NAGOYA ブラナゴヤ!木村有作さんと名古屋のモノづくりのルーツをたどる~その2
http://snug.city.nagoya.jp/myfavoriteroute/013/
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テンミニッツTV編集部
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