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DATE/ 2022.11.30

困った「放置車両」を撤去する方法

 団地や郊外の大型スーパー駐車場、地方の空き地などで、いつから置かれているのかと思われるような自動車を見かけることがあります。ひとごとだと思っていると、地域やマンションの自治会委員に選ばれ、その対応に当たらなければならないことも皆無とは言えません。自治体によって対応は違うようですが、「放置車両」を撤去することはできるのでしょうか。

放置自動車の撤去は違法?

 結論からいうと、道路以外の公共施設や私有地に置かれた違法駐車車両は、邪魔になるからといって勝手に移動したり撤去することはできません。路上駐車にはあれほど熱心な警察ですが、道路以外の放置車両は所有者の許可がなければ動かせないのが原則であるため、通報しても介入してくれないのです。

 自分の敷地内に自動車を乗り捨てられても手出しができないとは、なんとも頭の痛い事態ですが、放置車両を撤去するには、まず所有者を確認することが先決。それをせず勝手に動かしたり処分したりすることは、「自力救済禁止の原則」に抵触する違法行為となります。

 「自力救済」とは、民事法の概念で、何らかの権利を侵害された者が、司法手続きによらず実力をもって権利回復を果たすこと。典型例として、街中の駐車場で見かける「無断駐車は金●万円請求します」などの警告を実際に行うことは認められていません。

 なぜなら、民事法では「弱肉強食」状態を認めず、また私兵や反社会的勢力などに付け入れられると、社会秩序が維持できなくなり、反社勢力への資金源にもなりかねないためです。

 しかし、これもケースバイケースで、例外も認められます。最近では川崎市・東扇島東公園の駐車場に置かれた大型観光バスが、窓ガラス破損、落書き、ゴミの投げ入れなど、さんざんに荒らされた状態で一年以上放置されているケースが注目されました。

 「公園の景観が台無し」、「駐車スペースの無駄」、「市全体のイメージダウン」などの市民の声もあり、公園を管理する市港湾局港営課が所有者を確認。何度もやり取りした結果、バス所有者による対応が拒否されたため、行政代執行により撤去され、持ち主は駐車料金・撤去費用を請求される結果となりました。

放置車両を撤去する手続き方法とは

 私有地の場合、「所有者にお願いして、動かしてもらう」のが原則です。しかし、ナンバーが分かっていても、個人情報保護の観点があるため、簡単に所有者を割り出すことはできにくい世の中になっています。まずはナンバープレートの分かる写真を数点撮影して、警察に相談しましょう。警察では、放置された車両が盗難など犯罪に関与していないかどうかを確認してくれます。

 犯罪がらみの車両でないことが分かれば、撤去を希望する人が各地の運輸支局や自動車検査登録事務所へ所有者(使用者)の照会をします。このときナンバープレートに表記されている文字・数字のほかに車台番号下7桁の数字が必要になります。車台番号の位置は車種によって異なりますが、車台番号は外から見えにくく外的損傷を受けにくい位置に打刻もしくは金属プレートに貼り付けてあります。

 所有者が割り出せれば、車両の撤去と損害賠償を請求する内容証明郵便を送付しますが、所有者が移転して連絡がつかなくなっていたり、連絡が取れても撤去に応じないことも多々あります。

 こうなってしまった場合は弁護士などに相談して、所有者のいない動産の所有権を法的に取得する(民法第239条の「無主物先占」)、あるいは(被告不在のまま)裁判所に訴えて、当該車両の撤去・土地明渡と損害賠償を求める訴訟を起こし、判決後、「強制執行」の申立をして、裁判所の許可を得て撤去するかになります。

 長期放置車両の多さに手を焼いているのが、各地の空港。成田国際空港では、平成元年から18年度まで累計189台の車両を処分するために駐車場の管理規定を改定して、63台を廃棄処分としました。

 千葉市や三重県など、放置自動車対策に取り組む自治体も動き出しましたが、私有地についてはやはり介入できませんので、ご注意を。
<参考サイト>
・三重県:放置自動車の撤去を進めています
https://www.pref.mie.lg.jp/eco/cycle/11539014477.htm
・千葉市:放置自動車対策
https://www.city.chiba.jp/kankyo/junkan/shushugyomu/houchijidousha.html
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