テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.01.06

AIに奪われない最後まで残る人間の仕事とは?

 2016年11月23日、二十五世本因坊治勲(趙治勲九段)と国産囲碁ソフト「DeepZenGo(ディープゼンゴ)」が対局、注目を集めました。AIとトップ棋士のハンディなし対局は初めて。結果は治勲が2勝1敗で勝ち越しましたが、AIの短期的な学習能力に驚きの声も上がりました。人工知能(AI)と人間が戦う日は来るのか。「仕事」という観点から調べてみました。

「なくなる職業」がどんどん増えている?

 人工知能(AI)の発達が人の職業を奪うのではないかと迫る予測が、いろんなメディアをにぎわせていますね。どういう仕事が残りやすく、どういう仕事はなくなりやすいのかを考える時に、最も参考にされているのは2013年にオックスフォード大学が発表した論文「あと10年~20年でなくなる職業と残る職業のリスト」です。

 なくなる仕事トップ5は以下になります。

「電話販売員(テレマーケター)」
「不動産登記の審査・調査」
「手縫いの仕立て屋」
「コンピュータを使ったデータの収集・加工・分析」
「保健業者」

 一方、残る職業トップ5は以下になります。

「レクリエーション療法士」
「整備・設置・修理の第一線監督者」
「危機管理責任者」
「メンタルヘルス・薬物関連ソーシャルワーカー」
「聴覚訓練士」

 自分の職業がどうか?と照らし合わせるだけではAIに負ける危険が高いかもしれません。このリストが何をもとにつくられたのかを確認してみましょう。

なぜ「なくなる」と判断されたのか?

 これは、イギリスにおける702個の職業を「手先の器用さ」「芸術的な能力」「交渉力」「説得力」など、九つの性質に分解し、予想をつけたものです。

 日本の職業事情に置き換えてみると、AIによる影響が大きそうなのは、銀行の窓口担当、不動産登記代行、保険代理店、証券会社の一般事務、税務申告書代行者など、金融・財務・税務系で数字を主に扱う仕事です。また、スポーツの審判や荷物の受発注業務、工場機械のオペレーターなど「手続き化しやすい」職業もなくなる確率が高いと言われています。

 一方、残るほうのリストを見ると、医師や歯科医、リハビリ専門職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなど、「対人コミュニケーション」が必要な職業が多く挙げられています。

「何かおかしい」と気付いた後が人間の出番?

 『人工知能は人間を超えるか-ディープラーニングの先にあるもの』の著者であり、10MTVで講師を務める日本のAI研究のトップランナー松尾豊氏(東京大学特任准教授)によると、「どのくらいの時間を念頭に置くか」で、その答えは大きく変わってくるといいます。

 5年以内に変化が見られそうなのは、会計や法律、マーケティングにおけるデータ分析、広告や画像診断、防犯・監視などの分野。

 さらに中期的(5~15年)に見ると、生産管理やデザインなどの領域で仕事のやり方に変化がみられるとも予測されます。特に「異常検知」というタスクについて、AIの能力が急速に上がっているため、センサーとの組み合わせでルーティンワークの多くはAIに任せることができるようになっていきます。

 「何かおかしい」ことが発生した時だけ人間が対応する職場も増えるかもしれません。ただし、この時点では「ルーティンでない仕事、クリエイティブな仕事(顧客の例外対応をする、提案書を書くなど)」は、まだまだ人間の仕事として重要なものだと言います。

最後まで残る「人間の仕事」とは何か

 2030年以降の長期的な見通しとしては、「例外対応まで含めて、人工知能がカバーできる領域が増える」とされています。人間に最後まで残る仕事は「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」、「人間に接するインターフェースとしての人間」の2種類だとするのが、松尾氏をはじめとする専門家の見方です。

 前者は経営判断など、後者はセラピストや営業、レストランの店員など、とても対照的ですね。

 なぜそんな変化がもたらされるかというと、人工知能において「ディープラーニング」という画期的な学習が浸透してきたからです。

<参考文献>
人工知能は人間を超えるか-ディープラーニングの先にあるもの』(松尾豊著、KADOKAWA/中経出版)
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
2

イーロン・マスクと対立…ChatGPT大ブームまでの紆余曲折

イーロン・マスクと対立…ChatGPT大ブームまでの紆余曲折

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(2)ChatGPT開発秘話

仕事をはじめさまざまな生活シーンで多様な役割をこなすチャットボットとなった「ChatGPT」。OpenAIが公開したこのサービスが世界中を驚かせるまでには、その創業に携わったサム・アルトマンとイーロン・マスクの対立など紆余曲...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/26
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
3

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運も実力のうち!?小早川の寝返りを生んだ黒田長政の好運

運と歴史~人は運で決まるか(2)運に恵まれるにはどうすればいいか

普通の人間の「運」については、どう考えればいいのだろうか。例えば、日本において消費文化が花開いた江戸時代、11代将軍・徳川家斉の治世には、庶民が「運がめぐってこない」ことを皮肉った狂詩があった。運には「めぐりあわ...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/04/25
山内昌之
東京大学名誉教授
4

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

陰の主役はイラン!?イスラエル・ハマス紛争の宗教的背景

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(4)サウジアラビアとイランの存在感

中東のグローバル・サウスといえば、サウジアラビアとイランである。両国ともに世界的な産油国であり、世界の政治・経済に大きな存在感を示している。ただし、石油を武器にアメリカとの関係を深めてきたのがサウジアラビアであ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/04/24
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

起業の極意!サム・アルトマンと松下幸之助

編集部ラジオ2024:4月24日(水)

ChatGPTを開発したことで一躍有名となったOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの発展によって社会は大きく、急速に変化しており、その中心的な人物こそが彼であるといっても過言ではありません。

そんなアルトマンが...
収録日:2024/04/15
追加日:2024/04/24
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア