テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.03.05

横綱に昇進した稀勢の里の高い「平均勝率」

話題満載の稀勢の里横綱昇進

 2017年の大相撲初場所は、場所が終わってからも大いに盛り上がりました。大関稀勢の里が14勝1敗の堂々たる成績で優勝し、入門から実に15年をかけて横綱昇進を決めたからです。同時に19年ぶりの日本出身横綱という点でも話題になりました。

 “稀勢の里横綱昇進”を「大変感慨深い」と語るのは、シビアな国際情勢を毎回多彩な視点で分析、解説する東大名誉教授で歴史学者の山内昌之氏です。今回は横綱審議委員会のメンバーとしてだけでなく、一相撲ファンとしても、稀勢の里の綱とりへの経緯とその強さの秘密に迫ります。

文句なしの横綱昇進を決めた稀勢の里の人となり

 初場所千秋楽の白鵬・稀勢の里戦を間近で見ていた山内氏は、「まさに横綱相撲の名にふさわしい、相撲史上に残る名勝負」と絶賛します。怒濤の寄りをみせた白鵬は文字どおりの「横綱相撲」をとったのですが、その寄りを土俵際ぎりぎりで左にかわし、すばらしい力と技をみせた稀勢の里も既にその時点で「横綱相撲」といえるものをみせたのだとか。

 場所後、すぐに横綱審議委員会、相撲協会理事会が稀勢の里の横綱昇進を検討し、全員一致で「横綱稀勢の里」が決定したことはご存じのとおりです。

 横綱昇進伝達式というと、「四字熟語」をおりこんで使者の伝達に応えるというイメージがありますが、今回の稀勢の里の口上は「謹んでお受けいたします。横綱の名に恥じぬよう精進いたします。本日はありがとうございます」といたってシンプルなもの。本人いわく、「今までお世話になった方たちへの感謝の気持ちを持って」伝達式に臨んだとのことでした。

親方も弟子も「努力の人」

 こうした言葉にも稀勢の里の人となりが表れているのですが、稀勢の里の生みの親とも育ての親ともいえるのが故・鳴門親方(元横綱隆の里)です。大変厳しい稽古で指導すると同時に、非常に優しい面も併せ持った親方で、社会人として恥ずかしくないように、きちんとした人格を備えた力士であるようにという方針の下、稀勢の里を育てたそうです。

 鳴門親方は、現役時代から糖尿病などの病と闘いながら横綱にまで登りつめ、「おしん横綱」と呼ばれていました。常に努力を怠らない姿勢が、「おしん横綱」と言われるゆえんでしょう。弟子の稀勢の里も、中学生の時に「自分は天才ではないし、もう天才にはなれない。けれども努力はできる。努力で天才に勝つ」と言っていたそうですから、師弟そろって努力の人だったわけです。

数字が語る稀勢の里の強さ・2つの側面

 そのたゆまない努力が実って、山内氏がいうところの「男の花道を極めた」横綱昇進となったわけですが、ここで山内氏は稀勢の里の抜群の強さを、数字データの2つの側面から分析してくれました。

 その1つは2016年度において、稀勢の里は年間最多勝をあげているということで、これはよく知られている事実です。もう1つは横綱昇進前6場所の平均勝率についてです。こちらは、あまり知られていないことかと思いますが、実は稀勢の里の勝率は抜きんでて高いのです。

どの横綱にもひけをとらない抜群の安定感

 稀勢の里以前に横綱昇進した直近の4横綱の中で、横綱昇進前6場所平均の勝率が一番高い朝青龍で8割。他の日馬富士、鶴竜、そして白鵬はいずれも7割もしくは6割台という成績です。白鵬は大関時代に全休した場所があることも影響して、6場所の平均勝率は6割6分と意外なほど低いのです。ところが、稀勢の里は平均勝率8割2分と、彼らを上回る勝率の高さを誇っているのです。

 さらに、稀勢の里の横綱昇進の6場所前からの勝敗を追うと、もっとも低い成績でも3場所前の10勝5敗であり、あとはいずれも13勝、12勝。そして、ついに初場所では14勝1敗という見事な成績で初優勝を飾りました。これは、全休のある白鵬や、二桁勝利がなかった場所もある日馬富士や鶴竜らと比べても、圧倒的な勝ち星をあげているといえるのです。

 このように抜群の強さ、安定感をもって、横綱稀勢の里が誕生したのです。久々の日本出身力士ということもあり、山内氏ならずとも稀勢の里に横綱での活躍を期待せずにはいられませんね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

石田梅岩が唱えた「商売の基本」、不足の共有化が鍵

石田梅岩が唱えた「商売の基本」、不足の共有化が鍵

石田梅岩の心学に学ぶ(4)商売の基本と梅岩教学

石田梅岩の大きなテーマである「商売の基本」はどこにあるか。それは「不足」についての認識を共有化することだと田口氏は言う。20年の探究が実を結び、石田梅岩が講席を開いたのは1729年。以後、講席は15年続くが、本人の講義...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/04/29
田口佳史
東洋思想研究家
2

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景

民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教

ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
橋爪大三郎
社会学者
3

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

繁華街・新宿のルーツ、江戸時代の遊女が働く飯盛旅籠とは

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(2)「夜の街」新宿の原点

歌舞伎町を筆頭に、東京でも有数の繁華街を持つ新宿だが、その礎は江戸時代の内藤新宿にあった。遊女が働く飯盛旅籠(めしもりはたご)によって、安価に遊興できる庶民の「夜の街」として栄えた内藤新宿の様子を、『江戸名所図...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/28
堀口茉純
歴史作家
4

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本は再エネが難しい!?再エネ比率が高い国との相違点

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(3)電力の部分最適と全体最適

サステナブルな電力の供給と消費が求められる現代社会。太陽光発電のように電力の生産拠点が多元化する中で、それぞれの電力需給と国全体の電力需給のバランス調整が喫緊の課題となっている。実はヨーロッパなどの「再エネ比率...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/27
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
5

イーロン・マスクと対立…ChatGPT大ブームまでの紆余曲折

イーロン・マスクと対立…ChatGPT大ブームまでの紆余曲折

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(2)ChatGPT開発秘話

仕事をはじめさまざまな生活シーンで多様な役割をこなすチャットボットとなった「ChatGPT」。OpenAIが公開したこのサービスが世界中を驚かせるまでには、その創業に携わったサム・アルトマンとイーロン・マスクの対立など紆余曲...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/26
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト