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なぜ日本人は「無宗教」なのか?
結婚式を教会で挙げ、年末にはクリスマスを祝い、年が明けると今度は神社に参拝をして、盆には寺で先祖の霊に手を合わせ、死者を弔う際は経を読み線香を立てる。日本人ならば誰しもが経験し、生活の一部として根付いてきた文化ですが、キリスト教、神道、仏教がない交ぜになり、思えばとても奇妙な風習です。
今回は、そんな日本人と不思議な宗教文化の関係についてのお話です。
また、キリスト教やイスラム教などと異なり、「神道」には教典がありません。守るべき規律や道徳観念の教えはなく、また、人間が世界の中心、自然界の主という感覚もないため、文化の中で受け継いできた自然との付き合い方や、自然の一員としてどう生きるかというのが神道の本質でした。そこへ仏教が伝来し、統合されていったのです。
「八百万の神々」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは神道における神々の数のことで、漢字が意味する通り、800万、つまり数え切れない神々がいるという意味です。人々に災禍を与える荒れる神、「荒神」であっても、日本人にとって神は神。物に宿る「付喪神」は人を襲い呪うなど、妖怪と神の区別さえ曖昧な神もいます。
例えば「一粒のお米には7人の神様がいる」といいますよね。食べ物を大切にしなさい、作ってくれた人に感謝しなさいという意図がありますが、一神教の信徒からすれば驚きの宗教観でしょう。「あらゆるものに神が宿る」という文化を持っていた日本人にとって、例え「一神教」の神だとしても、800万の中の一柱という感覚が強いといえます。
また、日本人は唯一神を信じ、熱心に信仰するということに抵抗感がある人が多いと言えるでしょう。特に新興宗教に強い警戒心を抱きます。これは戦前に天皇を神とし、妄信的なまでに推し進められた国家神道の政策や、1995年にオウム真理教が起こした「地下鉄サリン事件」などをはじめとするカルト教団の存在など、これまでの歴史が大きく関わっているといわれます。
しかし、間違えてはいけないのは、日本人は決して神を信じていない「無神論」の民族ではないということです。神様はいる、もしくはいるかもしれないと思っているけれど、「これ」といえる宗派に属していないというのが多くの日本人のスタンスなのです。
では、海外の宗教事情はどうでしょうか?例えば主要国首脳会議、いわゆるG8といわれる先進国ではキリスト教徒が多く、宗派の詳細は異なりますが、各国6~8割程度の人々がキリスト教を信仰しています。アジアに目を向けると、人口とGDPが右肩あがりのインドでは、ヒンドゥー教が8割を超え、無宗教の割合はいずれも日本に比べると低いのです。中国は無宗教の人口が多いとされていますが、お隣の韓国では、2016年に統計を取り始めて以来、はじめて無宗教の割合が5割を超え、宗教離れが問題としてニュースにもなりました。無宗教者が多い国というのは、数としてはマイナーなのかもしれません。
明治時代の文人・芥川龍之介は『神神の微笑』という小説のなかで、「日本に宗教を根付かせることは難しい」ということを語っています。2000年の歴史のなかで、日本には多くの宗教が海を渡ってやってきました。日本人は大昔から、新しい文化を目にし、それを受け入れる傍らで、きちんとこれまでの文化との折り合いをつけ、新しい風習へと昇華していったのです。
日本人に合うと感じられる教えや風習は積極的に取り入れる。一方、元来の日本人の性質や日本の風土と異なるような教えはそうではないけれども、信仰そのものをすべて否定したりはしない。宗教や宗派の違いは、現在でも多くの人々や国々の間で争いの種となっていますが、日本の摩訶不思議な宗教観には、そんな現状への突破口が、もしかすると隠されているのかもしれませんね。
今回は、そんな日本人と不思議な宗教文化の関係についてのお話です。
あらゆるものに神が宿る神道の考え
現在、日本の宗教人口は平成26年の文化庁の調査によると、神道が約49%、仏教が約46%となっており、ほとんどの人が神道か仏教のいずれかを信仰していると答えています。古来より、日本人が信仰してきた宗教は「神道」でした。山や海、川や植物など、あらゆるものに神が宿ると考え、畏れ敬い、自然のすべてが神そのもの捉えていたのです。また、キリスト教やイスラム教などと異なり、「神道」には教典がありません。守るべき規律や道徳観念の教えはなく、また、人間が世界の中心、自然界の主という感覚もないため、文化の中で受け継いできた自然との付き合い方や、自然の一員としてどう生きるかというのが神道の本質でした。そこへ仏教が伝来し、統合されていったのです。
「八百万の神々」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは神道における神々の数のことで、漢字が意味する通り、800万、つまり数え切れない神々がいるという意味です。人々に災禍を与える荒れる神、「荒神」であっても、日本人にとって神は神。物に宿る「付喪神」は人を襲い呪うなど、妖怪と神の区別さえ曖昧な神もいます。
例えば「一粒のお米には7人の神様がいる」といいますよね。食べ物を大切にしなさい、作ってくれた人に感謝しなさいという意図がありますが、一神教の信徒からすれば驚きの宗教観でしょう。「あらゆるものに神が宿る」という文化を持っていた日本人にとって、例え「一神教」の神だとしても、800万の中の一柱という感覚が強いといえます。
「無宗教」だけれど、「無神論」ではない日本人
神道と仏教の割合が多いとされる日本ですが、ロイターの記事によると、アメリカの調査機関ピュー・リサーチ・センターが2012年に発表した統計では、日本人の約6割が「無宗教」という結果が出ているそうです。これは、神道や仏教には入会儀式が存在せず基準が曖昧なため、現状と報告上の数値で差が出るためと考えられます。実際に「信仰している宗教は?」と聞かれて、すんなり「仏教」もしくは「神道」と答えられる日本人は少ないのではないでしょうか?また、日本人は唯一神を信じ、熱心に信仰するということに抵抗感がある人が多いと言えるでしょう。特に新興宗教に強い警戒心を抱きます。これは戦前に天皇を神とし、妄信的なまでに推し進められた国家神道の政策や、1995年にオウム真理教が起こした「地下鉄サリン事件」などをはじめとするカルト教団の存在など、これまでの歴史が大きく関わっているといわれます。
しかし、間違えてはいけないのは、日本人は決して神を信じていない「無神論」の民族ではないということです。神様はいる、もしくはいるかもしれないと思っているけれど、「これ」といえる宗派に属していないというのが多くの日本人のスタンスなのです。
では、海外の宗教事情はどうでしょうか?例えば主要国首脳会議、いわゆるG8といわれる先進国ではキリスト教徒が多く、宗派の詳細は異なりますが、各国6~8割程度の人々がキリスト教を信仰しています。アジアに目を向けると、人口とGDPが右肩あがりのインドでは、ヒンドゥー教が8割を超え、無宗教の割合はいずれも日本に比べると低いのです。中国は無宗教の人口が多いとされていますが、お隣の韓国では、2016年に統計を取り始めて以来、はじめて無宗教の割合が5割を超え、宗教離れが問題としてニュースにもなりました。無宗教者が多い国というのは、数としてはマイナーなのかもしれません。
フラットな目線で宗教を見つめる
無宗教という反面、常にフラットでいられる日本人は、宗教に寛容な民族性を持っているとも言えます。だからこそ、年末にはクリスマスでイエス生誕を祝い、年が明けたら初詣で氏神様にご挨拶、という文化がすっかり定着しているのです。明治時代の文人・芥川龍之介は『神神の微笑』という小説のなかで、「日本に宗教を根付かせることは難しい」ということを語っています。2000年の歴史のなかで、日本には多くの宗教が海を渡ってやってきました。日本人は大昔から、新しい文化を目にし、それを受け入れる傍らで、きちんとこれまでの文化との折り合いをつけ、新しい風習へと昇華していったのです。
日本人に合うと感じられる教えや風習は積極的に取り入れる。一方、元来の日本人の性質や日本の風土と異なるような教えはそうではないけれども、信仰そのものをすべて否定したりはしない。宗教や宗派の違いは、現在でも多くの人々や国々の間で争いの種となっていますが、日本の摩訶不思議な宗教観には、そんな現状への突破口が、もしかすると隠されているのかもしれませんね。
<参考サイト>
・文化庁:宗教統計調査結果 - 平成26年12月31日現在 -
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/shumu/pdf/h26kekka.pdf
・ロイター:「無宗教」が世界の第3勢力、日本では人口の半数占める=調査
http://jp.reuters.com/article/tk0577133-religion-world-idJPTYE8BI02P20121219
・文化庁:宗教統計調査結果 - 平成26年12月31日現在 -
http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/shumu/pdf/h26kekka.pdf
・ロイター:「無宗教」が世界の第3勢力、日本では人口の半数占める=調査
http://jp.reuters.com/article/tk0577133-religion-world-idJPTYE8BI02P20121219
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