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『日本のジェンダーを考える』著者が語る結婚制度の今後
2016年は婚姻件数が戦後最少
2016年、婚姻件数が戦後最少を記録しました。人口減少に加えて、「晩婚化」「非婚化」をふくめ従来の常識にとらわれない婚姻の多様性が広がったこともあり、この傾向は今後も続くとみられます。これにともない、大きく懸念されているのが「少子化」です。日本経済新聞は「少子化が招く人手不足は経済成長の足かせになる。現役世代で支える年金や介護の社会保障制度も危うくする」と危機感を表明しています。
だだし、世界に目を向けると、以上のように、「婚姻」と「少子化」を関連付けて語ることは、決して常識とはいえないという点には注意を払うべきでしょう。なぜなら、欧米では結婚せずに出産するケースが増えています。『日本のジェンダーを考える』(川口章著、有斐閣)によると、たとえば、フランスやスウェーデンなど7カ国では婚外子が50%を超えており、「結婚している夫婦から生まれる子どもの方が少ない状態」です。
35カ国の先進国が加盟するOECD(経済協力機構)全体の平均でも婚外子が36.3%となっています。いまや、先進国で生まれる3人に1人が婚外子の子どもなのです。もちろん、婚外子とはいえ、両親は大半が事実婚のカップルです。
なぜ日本は「でき結婚」が多いのか
『日本のジェンダーを考える』によると、日本では、だいたい4人に1人以上が、いわゆる「できちゃった結婚」だそうです。日本では、フランスなどのように婚外子という選択肢ではなく、出産イコール結婚が常識になっています。なぜ、日本はこんなにも「できちゃった結婚」が多いのか。『日本のジェンダーを考える』では、次のように分析しています。
第一に、母子家庭に対する国の経済的支援が小さい
第二に、子育てや教育に関する公的支出が少ない
第三に、婚外子の父親に対して養育費を強制的に出させる制度がない
第四に、仕事と育児の両立が難しい
第五に、いったん仕事を辞めると、いい条件の仕事に再就職することが難しい
婚外子の多い国ではこれらの事情のいくつかが克服されているそうです。たとえば、第三の事情に関して、フランスでは、婚外子の父親が養育費の支払いから逃れるのは非常に困難になっています。父親が支払いに応じない場合は、父親の雇用者や取引銀行から直接支払ってもらうことができたり、裁判所に申し立てて、賃金や銀行口座を差し押さえることもできます。
なぜ人は結婚するのか
そもそも、なぜ人は結婚するのでしょうか。結婚の起源をさかのぼれば、結婚は「部族同士の信頼関係を築くこと」が目的でした。大名や貴族たちは、近代にいたるまでその慣習を続けました。ドラマや小説でも描かれる、いわゆる「政略結婚」もその一例です。日本の一般庶民にとっての結婚は、「男親を特定する」という機能をもっていました。そのため、江戸時代においても、戦前の民法においても、妻の不倫は厳しく禁止されていました。非常に理不尽なのは、夫は未婚女性との不倫が許されていた点です。
現在の法律でも、「男親を特定する」という理由で、女性に対してのみ離婚後半年間の結婚禁止期間が設けられています。しかし、かなり正確にDNA鑑定が可能になった現在、「男親を特定する」ための結婚の役割は無効化しているといえるでしょう。
結婚制度は消滅する?
では、あらためて、なぜ結婚するのか。『日本のジェンダーを考える』には、「人々が結婚するのは、一つは事実婚に対する法的差別があるからであり、もう一つは、安心して出産・育児を行うために、あえて離別のハードルを高くするからである」と書かれています。それならば、本書が指摘するリスクが解消されれば、結婚制度はなくなるのでしょうか。同志社大学政策学部教授でジェンダー政策などがご専門の著者・川口章氏は、結婚制度について次のように締めくくっています。
「フランスやスウェーデンなど婚外子が出生児の過半数を占める国では、結婚制度は消滅しつつあるといえる。まずは、ヨーロッパで、次いでアメリカで、やがてはアジアでも、結婚制度は終焉を迎えるだろう」。
たしかに、現実的には、事実婚を支える制度さえ整えば、法律婚に過度こだわる意味はあまりないかもしれません。法整備の際には、従来の家族制度を重視する保守層からは強い反発が起こりそうですが、少子化対策としての効果が期待できるとなれば、どうでしょう。
もしかしたら、近い将来、「できちゃった結婚」という言葉を耳にしなくなる日も来るかもしれません。
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