テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.09.01

「人工甘味料」は本当に安全なのか?

 巷にあふれている「ゼロカロリー」をうたった飲料水やゼリー、キャンディーなどなど。カロリーを気にして、こうした「ゼロカロリー」の商品を買う人も多いのではないでしょうか。しかし、そもそも甘い物はカロリーが高いというのが当たり前。ゼロカロリーの飲料水やお菓子は、なぜカロリーが低いのでしょう?

 それは糖分ではなく、サッカリン、スクラロース、アスパルテームといった人工甘味料を使い、甘さを出しているからです。これらは糖分とは違い、うたわれる通り「ゼロカロリー」、カロリーがありません。甘いのに太らないという魔法のような食べ物ですが、一方で「人工甘味料が人体に及ぼす影響」を研究した結果が注目されています。果たして人工甘味料は本当に安全なのでしょうか?

人工甘味料が脳卒中と認知症のリスクを高める?

 人工甘味料と脳卒中・認知症の関係示した「フラミンガム研究」という疫学研究があります。米国マサチューセッツ州のフラミンガムに住む人々を対象に、長期にわたって循環器疾患の発症要因を調べたものです。

 この研究結果をもとに、人工甘味料がどう人体に影響を及ぼすのかに絞り、さらに調査が行われました。すると、人工甘味料入り炭酸飲料を1998~2001年の間に週に1~6回飲んでいたグループは、脳卒中のリスクが全く飲まないグループの2.09倍、1日1回以上のグループでは1.95倍になったのです。

 さらに長期的に約7年の間、週に1~6回飲んでいたグループは、人工甘味料入りの炭酸飲料を全く飲まないグループに比べ、脳の血管が詰まるタイプの「虚血性脳卒中」のリスクは2.62倍、1日に1回以上では2.96倍にものぼっていました。また、同じ研究結果のなかでは、同様に認知症のリスクも高まっていることが示されています。

リスク上昇は本当に人工甘味料のせい?

 世界的にその名前が知られている科学雑誌「Nature」にも、人工甘味料が糖尿病のリスクを増加させるという趣旨の論文が発表されました。こちらでは、人工甘味料のひとつであるサッカリンをマウスに与えると、11週間後に耐糖能に障害が起きるとされています。「耐糖能」とは、糖分を摂取して上昇した血糖値を下げる力のことです。この能力が低くなると糖尿病になるのです。

 甘いのに太らない夢の食べ物であるはずの人工甘味料。まるでだまされたような気持ちになりますが、本当に危険な場合は国が使用を制限するはずです。実際に、過去には発がん性を指摘され使用が禁止された人工甘味料も存在しています。ならば、冒頭で挙げたサッカリン、スクラロース、アスパルテームなどの人工甘味料も制限されるべきでは?と思われるかもしれません。

 しかしそうならないのは、いずれの研究結果も、人工甘味料が直接的な原因になっているかわからない、マウスで反応しても人体にまで影響が及ぶかわからないという部分が残っているのです。

「ゼロカロリー」商品で健康にはなれない

 「ゼロカロリー」の飲料水やお菓子を選ぶ人は、もともとカロリーが気になるような体質や体型だったり、食生活に難を抱えていることが多いという事実があります。つまり、ゼロカロリーを選ぶ人そのものが、糖尿病や脳卒中のリスクを持っているというものです。つまり、卵が先かニワトリが先かという議論になってしまいます。

 食べ物や飲み物全般に言えることは、何事もほどほどが一番だということです。どれだけ体にいいものでも、摂取しすぎればどこかに不調が起こります。過ぎたるは及ばざるがごとし。健康を維持するのは、偏食をせず、幅広くさまざまなものを食べ、適切な運動をすることです。

 無理のないダイエットの補助や、「昨日食べすぎたから今日は低カロリーに」という程度であれば問題はないでしょう。しかし、「ゼロカロリー」をうたうものだけで健康は得られないと肝に銘じなければなりません。

<参考サイト>
・NIKKEI STYLE:ダイエット系炭酸飲料 飲み過ぎで脳卒中や認知症に?
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO18328260Q7A630C1000000?channel=DF140920160927
・東洋経済ONLINE:人工甘味料を「危険」と決めつけるのは問題だ
http://toyokeizai.net/articles/-/153942
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す

ヒトは、そもそもの生き方であった狩猟採集生活でも子育てを分担してきた。それは農業社会においても大きくは変わらなかったが、しかし産業革命以降、都市化が進み、貨幣経済と核家族化と個人主義が浸透した。ヒトが従来行って...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/09/14
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ

トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月に訪れたサウジアラビアでの演説で「トランプ・ドクトリン」を表明した。それは外交政策の指針を民主主義の牽引からビジネスファーストへと転換することを意味していた。中東歴訪において...
収録日:2025/08/04
追加日:2025/09/13
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
3

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス

国際関係においては外交と軍事(内政)のバランスが重要となる。著書では、近代日本において、それらのバランスが崩れていった過程を3つのステージに分けて解説しているが、今回はその中の、国のトップが外政家・原敬から職業外...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/12
小原雅博
東京大学名誉教授
4

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる

数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数

音が波であることは分かっても、それが三角関数で支えられていると言われてもピンとこないという方は少なくないだろう。そこで、その話を補足するのが倍音や周波数という概念であり、そのことを目で確認できるとっておきのイメ...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/11
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴

「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率

日本の政治史を見る上で地理的条件は外せない。「島国」という、外圧から離れて安心をもたらす環境と、「山がち」という大きな権力が生まれにくく拡張しにくい風土である。特に日本の国土は韓国やバルカン半島よりも高い割合の...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/15
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家