テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.10.27

退職金で「幸せな定年」は幻想なのか?

 50歳を迎えると、定年を意識し始めるのではないでしょうか。そんなとき、ちょっと気が緩んで、「定年が人生のゴール」、「退職金をもらって、あとは余生を」と考えたくなるかもしれません。

 ところが、そうは問屋がおろさないのが今のご時世。かつてのような「幸せな定年」は、すでに失われてしまったと考えた方がいいかも。いま話題の「退職金バカ」というワードをもとにして、定年前にやるべきことを考えてみましょう。

「退職金バカ」と「バカの壁」

 『バカの壁』(養老孟司著、新潮社)という超ベストセラーをご存知でしょうか。本書では、勝手な「思い込み」や「常識」が、考えることの「壁」となって、「思考停止」を招き、「バカ」のもとになると論じています。実は「退職金バカ」のネーミングの由来はここにあります。

 つまり、「定年後がゴール」「退職金で余生」のような思い込みが、老後破産のような定年後のリスクを考えることの壁となっていることを、『退職金バカ 50歳から資産を殖やす人、沈む人』(講談社)の著者・中野晴啓氏は指摘しているのです。

こんなに違う! 大企業と中小企業の退職金

 中野氏は、「退職金バカ」に陥らないためには、今後の世の中の見通しと、退職金の実態をよく知っておくべきと助言しています。

 「現代ビジネス」の記事において、中野氏は、人口減少が進む今、「今の70代、80代以上の人たちが受けているのと同等の社会保障は、もはや受けられないと考えたほうがよい状況」であり、「年金ひとつとっても、なくなることはないにしても、今後減額される可能性は否定できません」と推測しています。

 また、退職金の金額について、メディアではよく「2000万円」という数字が出てきますが、これは日本の0.3%と言われる大企業の平均額なのだそうです。

 中小企業では、退職金は「1000万円」ほどというつもりで資金計画を組むのが無難としています。そのうえで、老後を考えれば、贅沢のために「退職金には絶対に手をつけるべきではない」と強調しています。

「預金するのはいいことだ」信仰をやめる

 中野氏は、50代は「退職金バカ」を脱出するためのターニング・ポイントであり、のこり10~15年に迫る老後までの資産形成をするラストチャンスであるとも指摘。

 資産形成に関して、『週刊 東洋経済』の記事によると、日本人には「預金するのはいいことだ」という強い思い込みがあることを挙げ、それを見直し、お金に対する感度を磨くことを勧めています。

 資産運用のポイントとしては、浪費を減らすなど「生活コスト」を見直すこと、日本経済だけでなく「世界の成長を視野に」いれること、先述の通り「おカネの感度を磨くこと」の3点を挙げています。

 「退職金」だけでなく「バカの壁」に陥ることは何事においても危険なことです。思い込みを捨て、常識を疑い、努力を惜しまず、お金や時代に関する感度を磨き続けることを忘れないようにしたいものです。

<参考文献・参考サイト>
・『退職金バカ 50歳から資産を殖やす人、沈む人』(中野晴啓著、講談社)
・『バカの壁』(養老孟司著、新潮社)
・『週刊 東洋経済 2016/11/15』(東洋経済新報社)
・現代ビジネス:退職金に手をつけたら…その先に待つのは地獄です!
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49964
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

日本と各国の比較…税負担は低いが社会保障の負担は高い

続・日本人の「所得の謎」徹底分析(1)各国の財政と国民負担

国民の税負担を増やすか、政府の財政支出を増やすか。前回の講義《日本人の「所得の謎」徹底分析》に続き、見解の分かれる日本の財政に関する議論を今一度整理し、見通しを与える当講義。まずは日本の財政と国民の負担の現在地...
収録日:2025/07/10
追加日:2025/09/17
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員 YODA LAB代表 金融・経済・歴史研究者
2

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長

経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力

人が成長していくために重要な経験学習。その学習サイクルを適切に回していくためには、「経験から学ぶ力」が必要になる。ではそこにはどのような要素があるのか。ストレッチ、リフレクション、エンジョイメントという3要素と、...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/17
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授
3

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か

海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ

海底はどうやってできるのか。なぜ火山ができるのか。プレートが動くのは地球だけなのか。またそれはどうしてか。ではプレートは海底の動きの全てを説明できるのか。地球史規模の海底の動きについて、海底調査の実態から最新の...
収録日:2020/10/22
追加日:2021/05/02
沖野郷子
東京大学大気海洋研究所教授 理学博士
4

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由

数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に

世界では「創造性がどれくらい大事か」という問題意識が今、急激に高まっている。創造性とは全ての人にあり、偏差値などでは絶対に計れない、まさに無限軸の創造性のこと。そうした創造性を育む学びが「STEAM教育」である。最終...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/09/18
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか

外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか

外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い

外交とは国益を最大化しなければいけないのだが……。35年にもわたる外交官経験を持つ小原氏が8年がかりで書き上げた著書『外交とは何か 不戦不敗の要諦』(中公新書)。小原氏曰く、外交とは「つかみどころのないほど裾野が広い...
収録日:2025/04/15
追加日:2025/09/05
小原雅博
東京大学名誉教授