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DATE/ 2017.11.12

気楽な稼業から社畜へ…サラリーマン年代記

 2017年10月末、首相官邸のHPには四つのバナーが並んでいます。「アベノミクス成長戦略」「働き方改革の実現」「まち・ひと・仕事創生」「TPP協定」です。

 第三次安倍改造内閣では、これまでの「1億総活躍時代」から「人生100年時代」へと、枠組みが少しずつ変わっているものの、これから「働き方」が変わろうとしていることは間違いありません。

日本人のほぼ9割がサラリーマン

 総務省統計局の「労働力調査」によると、日本の総就業者数は6573万人、うち雇用者数は5840万人。つまり働く人のうち、サラリーマンの割合は88.8%となります。

 長期データを見ると、統計の始まった1953年時点では、雇用者の割合は42%程度。就業者人口の半分がサラリーマンで占められるようになったのは1960年前後、60%に達したのが1965年で、その間に大流行したのが「サラリーマンは気楽な稼業…」で始まる植木等の「ドント節」です。

 その後、70年代後半に70%超え、90年代中盤に80%超えを果たし、今なお、じわりじわりと増え続けているのがサラリーマンなのです。

 サラリーマンでない就業形態は何なのかというと、家族従業者、自営業主(会社役員を含む)です。かつては3割を超えていた家族従業者の割合は今や数%と風前のともしびとなっています。

「気楽な稼業から社畜へ」サラリーマンの変遷

 「ドント節」で「気楽な稼業」と呼ばれていたのは、「二日酔いでも寝ぼけていても、タイムレコーダーガチャンと押せば、どうにか格好がつく」から。歌詞から、そう簡単にクビにはならないサラリーマンの高度経済成長の時代に生きる自信と活力が伝わってきますね。

 気楽でないサラリーマンが「モーレツ社員」と呼ばれるようになったのは、1968年にGNP(国民総生産)が世界第2位となり、「日本株式会社」の名のもとに経済大国を支えた時代です。有給休暇を取ることすら罪悪、「接待ゴルフ」や「サービス残業」は当たり前と見なす管理職の存在は、個人の信条を超えて日本社会に根深い問題となっています。

 「働きすぎの日本人」というイメージは、米国などから「エコノミックアニマル」と批判を受け、80年代に「週休二日制」が広く導入されました。バブル崩壊後も、「企業戦士」として働き続けたサラリーマンに「リストラ」や「過労死」の問題が襲いかかります。経済成長の鈍化を受けて、労働時間短縮の傾向が広がっていくのは、90年代以降なのです。

 1999年に「雇用機会均等法」が採択され、雇用における様々な局面での男女差が禁止されました。それまでは「BG」「OL」などと呼ばれてきた女性事務職は「一般職」と「総合職」へ、そして、従業員の生活や健康を重視しない企業は「ブラック」と呼ばれ、会社の言いなりに働くサラリーマンは「社畜」と呼ばれ、21世紀の労働問題として知られるようになりました。

プレ金時代の「企業戦士」はどこへ行く?

 「働き方」をめぐる内外の批判に応じて日本政府がようやく重い腰を上げたのが2007年末頃。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の取り組みが始まり、「イクメン」が流行語としてポツポツ登場したのが記憶に新しいところ。

 現在では大企業を中心に、育児休業制度など仕事と育児を両立しやすくする制度が設けられ、有給休暇の取得励行、定時退社励行などの取り組みがなされています。

 また、2017年2月からは、マイ月末金曜日は午後3時に仕事を終えて夕方を買い物や旅行にあてる「プレミアムフライデー(プレ金)」の制度も、政府と経済界の提唱で始まりました。

 では、「仕事が趣味」でやってきた人たちは今後どうなるのでしょう。本当に「仕事」が趣味であれば、自宅でもノマドでも作業はできます。スカイプなどを利用した会議へのリモート参加も、今や珍しい風景ではありません。さらに言えば、長かった「日本株式会社」の主要構成員であった団塊のサラリーマン世代がリタイアし、本格退職した2014年以降、事態はようやく大きく動き始めたのです。

 これからの問題はむしろ「会社に来ること」を趣味とし、お互いを束縛してきた人たちではないでしょうか。

<参考サイト>
・首相官邸ホームページ
https://www.kantei.go.jp
・総務省統計局:労働力調査(基本集計) 平成29年(2017年)8月分
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授