テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.12.12

低所得化の進む40代…その貯金額と平均年収は?

 2,000万円以上の貯蓄と年金で「悠々自適」の高齢者世帯が増えた一方、40代が世帯主で年間所得300万円未満と「かつかつ」の世帯が増えてきました。そんな事実が、厚生労働省の調査で明らかになり、世代を越えた衝撃が走っています。

氷河期世代の人生は、どこまで続くぬかるみか

 40代といえば働き盛りで社会の中心を担うイメージがありますが、世帯主が40代で年間所得が300万円未満の低所得世帯の割合は、1994年から2014年までの20年間で11%から17%に増加して、1.5倍に増えています。2017年10月24日に厚生労働省が発表した「平成29年度版厚生労働白書」が明らかにした数字です。

 まず、「年間所得」と「年収」が違うことに注意しておきましょう。サラリーマンの場合、年収から給与所得控除を差し引いたものが年間所得。およそ年収440万円が所得300万円のボーダーになります。300万円未満を低所得と呼ぶ厚労省分類にしたがうと、日本人の平均年収420万円を確保してもあまり喜んではいられないのです。

 今の40代は1970年代生まれが中心。社会に出る矢先にバブルが崩壊し、就職で苦労した「氷河期」、またはロストジェネレーションと呼ばれる世代です。ずっと非正規雇用に甘んじて、キャリアを積む機会のないまま40代を迎えた人も少なくありません。収入が安定しないことが原因で結婚に踏み切れない「おひとり様」の単独世帯や、シングルマザー(ファザー)の一人親世帯の割合が多いことも、所得引き下げの要因となっています。

 さらに35~59歳の“中年ニート”は123万人で、15~34歳の57万人の2.2倍に達していることも、総務省の2016年の労働力調査から分かりました。バブル崩壊デフレの長期化→グローバリゼーションの拡大→リーマン・ショック→東日本大震災と、縮小していく日本経済の波をモロにかぶってしまった世代。氷河期世代を失われたままにしては、日本全体の「寝覚め」がよくありません。

社会保障は「すねかじり」奨励策なのか?

 一方で、世帯主が65歳以上の高齢者の世帯では、この20年間で低所得の割合が減り、中所得の割合が増加しています。白書が「現役世代に比べ、高齢者世代に手厚い構造になっている」と分析しているように、この世代の所得格差年金によって補填されているのです。

 その端的な結果は、年齢別の平均貯蓄額にも出ています。2017年5月16日に公表された2016年の家計調査の平均貯蓄額の結果を見ていきましょう。以下の数字は2人以上の世帯のみを対象としたものです。

 1世帯あたり平均貯蓄額/平均値1,820万円/中央値1,064万円

 この数字だけを見ると、「日本人はまだまだ豊かだよね」と思いかねませんが、平均値が中央値よりかなり高いということは、一部の人がケタ違いの貯蓄をしている格差のあらわれです。

 また、貯蓄額に含まれるのは預貯金だけではありません。株式や債券、投資信託などの有価証券や資産性のある生命保険なども含まれるため、貯蓄額というより金融資産のイメージが近いでしょう。なお、ここには住宅ローンなどの負債は含まれていません。

 では、次の数字はいかがでしょうか。

 勤労者世帯1世帯あたり平均貯蓄額/平均値1,299万円/中央値 734万円

 少し実感に近づいたでしょうか。貯蓄額を引き上げているのは、働かなくてもいい少数のお金持ちと高齢者なのですね。では、いよいよ年代順に比べてみましょう。今度は負債との差し引きで、純資産額も分かります。

 <年代別/平均貯蓄額/負債額/純資産額>
 40歳未満/574万円/▲1,098万円/▲524万円
 40代/1,065万円/▲1,047万円/21万円
 50代/1,802万円/▲591万円/1,211万円
 60代/2,312万円/▲220万円/2,092万円
 70歳以上/2,446万円/▲90万円/2,356万円

 教育費や住宅ローンが終わる頃から老後資金をがっちり貯蓄することができた世代は、時代がよかったとも、それだけ老後の公的支援が不安だったともいえるでしょう。いずれにせよ今の現役世代が定年を迎える頃には、これほど退職金も期待できず、制度も変わっている可能性が高く、右肩上がりを楽観視する人は少ないと思います。

 貯蓄に頼らなくても安心して老後を迎えられるような社会保障制度の変革とともに、働く人が「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるよう、働き方改革にも期待したいところです。

<参考サイト>
・厚生労働省:平成29年版厚生労働白書
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/
・厚生労働省:国民生活と社会保障
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/1-02.pdf
・総務省統計局:家計調査報告
http://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/index.htm
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

分断進む世界でつなげていく力――ジェトロ「3つの役割」

グローバル環境の変化と日本の課題(5)ジェトロが取り組む企業支援

グローバル経済の中で日本企業がプレゼンスを高めていくための支援を、ジェトロ(日本貿易振興機構)は積極的に行っている。「攻めの経営」の機運が出始めた今、その好循環を促進していくための取り組みの数々を紹介する。(全6...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/04/01
石黒憲彦
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)理事長
2

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

最悪10メートル以上海面上昇…将来に禍根残す温暖化の影響

水から考える「持続可能」な未来(1)気候変動の現在地

今や世界共通の喫緊の課題となっている地球温暖化。さらに、日本国内の上下水道など、インフラの問題も、これから大きな問題になっていく。地球環境からインフラまで、「持続可能」な未来をどうつくっていくのかについて、「水...
収録日:2024/09/14
追加日:2025/03/06
沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
3

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

なぜやる気が出ないのか…『それから』の主人公の謎に迫る

いま夏目漱石の前期三部作を読む(5)『それから』の謎と偶然の明治維新

前期三部作の2作目『それから』は、裕福な家に生まれ東大を卒業しながらも無気力に生きる主人公の長井代助を描いたものである。代助は友人の妻である三千代への思いを語るが、それが明かされるのは物語の終盤である。そこが『そ...
収録日:2024/12/02
追加日:2025/03/30
與那覇潤
評論家
4

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクは何がすごい?生い立ちと経歴

イーロン・マスクの成功哲学(1)マスクが「世界一」になるまで

2022年、フォーブス誌が発表した世界長者番付の一位となったイーロン・マスク。テスラの電気自動車やスペースXのロケット開発などを通じ、革新的なイノベーションを実現してきたことで知られるマスクは、いかにして現在のような...
収録日:2022/06/22
追加日:2022/08/23
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
5

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

このように投資にお金を回せば、社会課題も解決できる

お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(6)日本の課題解決にお金を回す

国内でいかにお金を生み、循環させるべきか。既存の大量資金を社会課題解決に向けて循環させるための方策はあるのか。日本の財政・金融政策を振り返りつつ、産業育成や教育投資、助け合う金融の再構築を通した、バランスの取れ...
収録日:2024/12/04
追加日:2025/03/29
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員