テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.01.26

日本はデータアナリストが決定的に不足している

 少子高齢化に伴う労働力減少。シルバー人材とともにAIの活用が必須な時代。日本ではいずれの企業もこのようなことはたっぷりと刷り込まれているはずです。事実、ディープラーニングのめざましい進化で、ロボットや機械に非ルーティンの仕事を自動で任せられるようにもなってきました。

求められる企業のパラダイムシフト

 しかし、10年後を見据えれば日本企業の体制はまだまだ不十分、と一橋大学大学院国際企業戦略研究科研科長で教授の一條和生氏は警鐘をならします。なぜならば、人工知能分野で欠かせないプログラマー、データアナリストが、日本では決定的に不足しているからなのです。

 コンピューター産業の競争力自体も落ちており、若者はこうした会社に就職したがらない。大学でも情報工学の研究をする学生が減少しかねない。必要な人材の地盤そのものが、極めて心もとない現状なのです。

 一例をあげれば、一橋大学院では、集合研修とe-ラーニングを組み合わせたブレンディッド・ラーニングを実施しているのですが、これには指導者のそばでネットのアクセストラブルを防いだり、ハウリングが起こらないようにするTA、ティーチングアシスタントの存在が非常に大事です。そのためこのTAを特任教授として1年ほどかけて募集したにもかかわらず、なんと応募はゼロだったとか。やむなくアウトソーシングに切り替えざるを得なかったそうです。

 このような人材枯渇の背景には、いまだにITをマージナルな位置づけにしたままという日本企業の考え方の問題もあるようです。頻繁に大規模なシステム改革を行い、そのたびに大量の人材を募集するアメリカとは違って、日本ではシステムの大幅な改革も10年20年単位でしか行わない。しかも必要最小限の人材、コストで対処しようとする。こうした土壌をひっくり返す、日本企業全体のパラダイムシフトが必要だ、と一條氏は厳しく指摘します。

動きだした企業-SOMPO、リクルートの例

 このような現状の中、既に、先を見据えて先手を打っている会社もあります。たとえば、「安心・安全・健康のテーマパーク」をキーワードに掲げる損保ジャパンは、「保険の先へ、挑む」として、SOMPOデジタルラボを東京とシリコンバレーに設立しました。保険会社がデジタルテクノロジーを武器に新たな価値創造を図る、保険からの飛躍を目指す大胆なパラダイムシフトといえるでしょう。同社では、やはりデータアナリストが鍵となると考え、シリコンバレーでは多くのデータアナリストを現地採用しているそうです。

 もう一社、一條氏が注目するのがリクルートです。ここでは、Googleの親会社であるAlphabetのAI部門トップ、アロン・ハレヴィ氏を2015年に迎え入れました。ハレヴィ氏がリクルートを選んだ理由がふるっています。「人工知能で人を幸せにできるのはGoogleよりリクルートだと考えたから」で、決め手となったのは、リクルート社が持つ「肌感覚のデータ」なのだとか。ハレヴィ氏は、アルゴリズムやネットで得るビッグデータよりも、SUUMOやゼクシィ、じゃらんといった媒体を通して入ってくる肌感覚のデータに魅力と将来性を感じたのだそうです。ここでも人を介したデータ活用の新展開が期待されます。

企業はニューカラー育成をめざすべき

 人を幸せにするためのITであり人工知能。その人工知能を操作するのは人であり、人とAIをつなぐのがプログラマー、データアナリストといった「ニューカラー」といわれる職種の人々です。一條氏はこうした職種・人材の確保は急務であり、そのためにはアウトソーシングやパートナーシップも必要だけれども、自社内で育成していくことも非常に重要だと言います。必要な人材は、不足を嘆いたり慌てたりするよりも、まず「自給自足」を目指して体制作りをすることが鍵になってきそうです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?

今井むつみ先生が2024年秋に発刊された岩波新書『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、とても話題になった一冊です。今回、テンミニッツ・アカデミーでは、本書の内容について著者の今井先生にわかりやすくお話しいただ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/16
2

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯

ピアニスト江崎昌子氏が、ピアノ演奏を交えつつ「ショパンの音楽とポーランド」を紹介する連続シリーズ。第1話では、すべてのピアニストにとって「特別な作曲家」と言われる39年のショパンの生涯を駆け足で紹介する。1810年に生...
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/16
江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授 日本ショパン協会理事
4

最近の話題は宇宙生命学…生命の起源に迫る可能性

最近の話題は宇宙生命学…生命の起源に迫る可能性

未来を知るための宇宙開発の歴史(13)発展する宇宙空間利用と進化する技術

技術の発達・発展により、宇宙空間を利用したさまざまなサービスが考え出されている。人間の環境を便利にするものであり、また攻撃技術にもつながるものであるが、さまざまな可能性を秘めている。さらに宇宙空間の利用は、天文...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/10/19
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
5

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

クーデターの条件~台湾を事例に考える(6)クーデターは「ラストリゾート」か

近年、アフリカで起こったクーデターは、イスラム過激派の台頭だけではその要因を説明できない。ではクーデターはなぜ起こるのか。また、台湾よりも中国のほうがクーデターが起こる可能性はないのか。クーデターは本当に「ラス...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/18
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長