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こんなに少ない?悪質な裁量労働制の給与実態
2018年1月29日、裁量労働制の適用拡大を推進する安倍晋三首相は、衆議院予算委員会の国会答弁で「裁量労働制で働く人の労働時間は一般の労働者より短い」というデータを示して有効性を主張しました。しかしその直後、野党側からデータ不備を指摘する声が上がり、作成元の厚生労働省が調査を開始。その結果、裁量労働制の労働者と一般の労働者にそれぞれ違った質問をしていたことが判明しました。
19日には厚労省が調査結果を公表して謝罪会見を行いましたが、裁量労働制の適用拡大に反対する野党側は「捏造があったのでは」と厳しく追及。厚労省は「意図的なものではない」と返答しましたが、騒動の規模が大きくなったため、裁量労働制の適用拡大は先送りとなる見通しです。
この制度は、労働時間と成果がイコールにならない業種のためにあります。たとえば、グラフィックデザイナーは短時間で作品を完成させることもあれば、納期前に長時間作業することもありますよね。このように自分の裁量で業務を行える業種の人にとっては、働きやすくなる制度なのです。
裁量労働制には2種類あり、グラフィックデザイナーのような専門性の高い業種に適用されるものを専門業務型裁量労働制といいます。そして、企業の中心となる部門で企画立案などを自律的に行うホワイトカラー、つまり頭脳労働者に適用されるものを企画業務型裁量労働制といいます。今回、安倍内閣で適用拡大が検討されていたのは、後者の企画業務型裁量労働制です。
それではなぜ、野党はこの企画業務型裁量労働制の適用拡大に反対なのでしょうか。
安倍内閣が適応拡大の対象としているのは、簡単にいうと「事業運営に関する事項を把握して評価を行う人」と「法人の顧客に商品や役務を開発して提案する人」です。これを拡大解釈すれば企画単位のチームリーダーや、法人を担当する営業職まで裁量労働制の対象になる可能性があります。しかし、チームリーダーや営業職が自分の裁量で業務を行うなど事実上不可能です。
裁量労働制では、いくら働いても一定のみなし労働時間以上の給与は支払われません。だからこそ、自分の裁量で業務を行える業種の人はだらだら働かなくなり、労働生産性の向上が見込めます。一方、自分の裁量で業務を行えない人は、企業にみなし労働時間を超過した労働を要求されて残業代も支払われないまま働かされる恐れがあるのです。
もちろん、本来の裁量労働制は企業と労働者が労使協定を結ばなくてはならないので、企業が一方的に決定することは法律違反です。しかし、中には協定を結ぶ際に労働者側の代表を企業の役員にするなど、悪質な手段でごまかしている企業もあるようです。こうして劣悪な条件で働かされてしまったケースはすでに発生しています。
東京都のウェブプロモーション企業に就職した2人の元従業員のケースです。2人は面接時に裁量労働制が適用されると説明を受けており、契約書の裁量労働制という記載も確認していました。このため1日のみなし労働時間8時間に対して、実際には深夜4時まで働くなど多いときでは月100時間超の残業をさせられながらも、裁量労働制だから残業代は請求できないと考えていました。しかしこの残業時間は90時間という過労死ラインを超えており、労働基準法に違反しています。そこで所轄の労働基準監督署から是正勧告が出され、ユニオンが未払い賃金を支払うよう交渉を続けています。
2人は月給20万円という求人を見て応募しましたが、実際には基本給14万5600円と歩合給の最低保証額1万円で、残り4万4400円は固定残業代。基本給と最低保証の歩合給を合計して時給換算した額は958円で、当時の東京都の最低賃金907円とほぼ同じでした。こんな低賃金で月100時間超の残業を強いられていたのです。
裁量労働制が安易に適用拡大されれば、このように悪質な「働かせ放題」がさらに蔓延するでしょう。働き方改革の施策のひとつとして検討されている裁量労働制の適用拡大ですが、働き方「改悪」にならないよう、慎重な議論をしてほしいところです。
厚労省の裁量労働制データが不適切な理由
厚生労働省の調査では、裁量労働制の労働者に「通常の1日の労働時間」、一般の労働者には「1か月で最も残業が多い日の残業時間」を質問していたのです。これでは前提となる条件がまったく違うので、両者は比較対象になりません。このため安倍首相は2月14日に「精査が必要なデータ」だったとして、答弁を撤回しました。19日には厚労省が調査結果を公表して謝罪会見を行いましたが、裁量労働制の適用拡大に反対する野党側は「捏造があったのでは」と厳しく追及。厚労省は「意図的なものではない」と返答しましたが、騒動の規模が大きくなったため、裁量労働制の適用拡大は先送りとなる見通しです。
専門性が高い業種の人に優しい裁量労働制
そもそも裁量労働制とはどんなものでしょうか。ひとことでいえば、労働時間を長短にかかわらず一定の時間とみなす制度です。出退勤の時間制限がなくなる代わりに、実労働時間に対応した残業代は発生しません。つまり、労働時間が8時間とみなされていれば、6時間働いても10時間働いても給与は8時間分のみ支払われます。この制度は、労働時間と成果がイコールにならない業種のためにあります。たとえば、グラフィックデザイナーは短時間で作品を完成させることもあれば、納期前に長時間作業することもありますよね。このように自分の裁量で業務を行える業種の人にとっては、働きやすくなる制度なのです。
裁量労働制には2種類あり、グラフィックデザイナーのような専門性の高い業種に適用されるものを専門業務型裁量労働制といいます。そして、企業の中心となる部門で企画立案などを自律的に行うホワイトカラー、つまり頭脳労働者に適用されるものを企画業務型裁量労働制といいます。今回、安倍内閣で適用拡大が検討されていたのは、後者の企画業務型裁量労働制です。
それではなぜ、野党はこの企画業務型裁量労働制の適用拡大に反対なのでしょうか。
裁量労働制を悪用すれば働かせ放題に
それは、悪意ある運用をされれば労働者を「働かせ放題」になってしまうからです。安倍内閣が適応拡大の対象としているのは、簡単にいうと「事業運営に関する事項を把握して評価を行う人」と「法人の顧客に商品や役務を開発して提案する人」です。これを拡大解釈すれば企画単位のチームリーダーや、法人を担当する営業職まで裁量労働制の対象になる可能性があります。しかし、チームリーダーや営業職が自分の裁量で業務を行うなど事実上不可能です。
裁量労働制では、いくら働いても一定のみなし労働時間以上の給与は支払われません。だからこそ、自分の裁量で業務を行える業種の人はだらだら働かなくなり、労働生産性の向上が見込めます。一方、自分の裁量で業務を行えない人は、企業にみなし労働時間を超過した労働を要求されて残業代も支払われないまま働かされる恐れがあるのです。
もちろん、本来の裁量労働制は企業と労働者が労使協定を結ばなくてはならないので、企業が一方的に決定することは法律違反です。しかし、中には協定を結ぶ際に労働者側の代表を企業の役員にするなど、悪質な手段でごまかしている企業もあるようです。こうして劣悪な条件で働かされてしまったケースはすでに発生しています。
都の最低賃金と同じ時給?実際に発生している低賃金働かせ放題事件
裁量労働制による労働問題の解決に取り組む「裁量労働制ユニオン」が扱った案件には、たとえば次のような具体例があります。東京都のウェブプロモーション企業に就職した2人の元従業員のケースです。2人は面接時に裁量労働制が適用されると説明を受けており、契約書の裁量労働制という記載も確認していました。このため1日のみなし労働時間8時間に対して、実際には深夜4時まで働くなど多いときでは月100時間超の残業をさせられながらも、裁量労働制だから残業代は請求できないと考えていました。しかしこの残業時間は90時間という過労死ラインを超えており、労働基準法に違反しています。そこで所轄の労働基準監督署から是正勧告が出され、ユニオンが未払い賃金を支払うよう交渉を続けています。
2人は月給20万円という求人を見て応募しましたが、実際には基本給14万5600円と歩合給の最低保証額1万円で、残り4万4400円は固定残業代。基本給と最低保証の歩合給を合計して時給換算した額は958円で、当時の東京都の最低賃金907円とほぼ同じでした。こんな低賃金で月100時間超の残業を強いられていたのです。
裁量労働制が安易に適用拡大されれば、このように悪質な「働かせ放題」がさらに蔓延するでしょう。働き方改革の施策のひとつとして検討されている裁量労働制の適用拡大ですが、働き方「改悪」にならないよう、慎重な議論をしてほしいところです。
<参考サイト>
・ブラック企業ユニオン:ホームページ制作会社、カンバスプロジェクトと団体交渉を行っています!
http://bkunion.blog.fc2.com/blog-entry-22.html
・ブラック企業ユニオン:ホームページ制作会社、カンバスプロジェクトと団体交渉を行っています!
http://bkunion.blog.fc2.com/blog-entry-22.html
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