社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.04.24

意外に高い?60代の平均年収

 60代は、昭和の時代ならとっくに定年退職して年金暮らし。孫のお守りをしながら、それまでできなかった「60の手習い」を始めるような「悠々自適」のゆとりもありました。

 しかし、「人生100年時代」と言われる現在では定年制度自体がない職場も増え、60代のマネー事情は人によってずいぶん差のあるものとなっているようです。

 厚生労働省のデータで60代前半の男性で見ると、平均月収は29.4万円。単純に12倍すると約353万円となり、30代前半の男性の平均月収28.9万円でと比較するかぎり、60代前半の方が高くなっています。おそらくは再雇用制度などで一定の所得ある多数派層と、会社役員など高額所得の少数派層というプロフィールのバラツキが背景にあることが前提になりますが、それなりの所得が確保できていることが理解できるかと思います。

定年制の推移をざっとおさらい

 まず、「60歳定年」がいつ頃から始まったのかというと、1986年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正されて60歳定年が努力義務となり、1994年の改正で60歳未満定年制が禁止(1998年施行)されました。

 ですので、60歳定年は、ここ20~30年ほどの常識に過ぎません。しかし、その後も平均寿命の伸びや労働人口の減少など、実情にならうかたちで法律が改正され、2012年には「原則希望者全員の65歳までの雇用を義務化」が打ち出され、現在では98%の企業で希望者が働き続けています。

 厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」(平成29年12月27日発表)を見ると、一律定年制を定める企業のうち、「60歳」が79.3%、「65歳」が16.4%となっています。66歳以上を足すと17.8%の企業が60代前半を企業の戦力として認めているわけです。

 また、再雇用や勤務延長制度については約93%の企業が実施しており、最高雇用年齢は65歳が80%、66歳以上も16.9%となっています。会社の規模を見ると、従業員30~99人という中小企業では定年を65歳、再雇用や勤務延長を66歳以上としている割合が高くなります。1,000人以上の大企業では「60歳定年、65歳まで再雇用」が90%と主流の働き方になっています。

60歳になると給料は半分になる?

 60代前半では「働くのが当たり前」となっている現在ですが、厚生労働省のデータによると、全年齢の雇用者の月収平均は、男性33.5万円、女性24.6万円となっています。

 年代別にみると、男性の月収が最高値を示すのが50代前半の42.4万円で、50代後半では41.2万円と微妙に減少し、60代前半では29.4万円と7割強まで減ってしまいます。女性の場合もやはり一番稼げるのは50代前半で27万円。50代後半が26.3万円、60代で22.4万円なので8割強と、ガクッと下がった感じはしません。

 業界別に見ると、50代から60代への落差が大きいのは情報通信業、金融・保険業、製造業など。情報通信業では20代前半を100とした時の50代後半の年収は229.3なのに比べ、60代前半になると142.9までダウンします。逆に年齢格差が小さいのは教育・学習支援業、宿泊・飲食サービス業、運輸・郵便業など。もっとも格差の小さい教育・学習支援業では、50代後半と60代前半の年収差は20代前半を100とした時の18.3しかありません。

 再雇用後の賃金は、中小企業より大企業のほうが減額が大きい傾向もみられます。60歳定年を基準に人件費を考えてきた企業としては、65歳までの全社員に同様の給料を支払うと、負担が大きくなりすぎてしまうから。しかし、働く側の理屈からいうと「昨日までと同じ仕事をしているのに、なぜ給料が半分になるのか」と割りきれない人も多いのが現実です。

働き続けていると「年金」もカットされる?

 一方、年金については、国民年金の支給開始が65歳からになっているのと同様、厚生年金のほうも男性は昭和36年4月2日生まれ以降、女性は昭和41年4月2日生まれ以降では、65歳からの支給となります。移行期間の特別措置として、報酬比例部分のみを支給する制度はありますが、2018年に60歳を迎える昭和33年生まれでは、男性は63歳、女性は61歳まで待たないと、特別支給もありません。

 さらに、再雇用後の企業でさらに厚生年金に入り続けると、「在職老齢年金」として、月収+年金月額が基準額(65歳未満は28万円、65歳以上は46万円)を超えると、超過額の半分が減額されるという仕組みになっています。

 60歳以降も厚生年金に加入して働く利点は、

・リタイア後に受け取る年金額が増える
・亡くなったときに遺族が受け取る遺族厚生年金が増える
・加入期間中に障害を負った場合、障害厚生年金を受け取れる
・払った年金保険料は社会保険料控除の対象になる
・配偶者が60歳未満で第3号(専業主婦)ならその保険料負担は生じない(働く本人が65歳になるまで)の5つ。

 65歳支給の年金を60歳から64歳までの間に繰り上げてもらう方法もありますが、1か月ごとに0.5%ずつ減額し、60歳から受給する場合は、本来もらえる年金の70%しか確保できなくなります。

 「悠々自適」には、まだ距離がありそうなこれからの60代には、制度へのさまざまな目配りとコントロールが必要なようです。

<参考サイト>
・厚生労働省「平成29年就労条件総合調査 結果の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/index.html
・厚生労働省「平成29年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2017/index.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム

デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム

初めて会った人なのになぜか好意を抱いてしまうことがある。だが、なぜそうした衝動が生じるのかは疑問である。デカルトが友人シャニュに宛てた「愛についての書簡」から話を起こし、愛をめぐる精神と身体の関係について論じる...
収録日:2018/09/27
追加日:2019/03/31
津崎良典
筑波大学人文社会系 教授
3

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11
4

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制

「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー