テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.05.04

「こころの病」が最も多い年齢層は?

 かつては「こころの風邪」と表されたうつ病。近年は漫画や映画といった身近なメディアにもとりあげられて、「風邪」と表すのはいささか無理があることも周知されてきました。WHOの報告によれば2015年の調査では、世界でうつ病で苦しむ人々の数はなんと3億2200万人。全人口の4%が苦しんでいると明らかになっています

 幸福な人生に必要なのはやっぱり心身の健康ですが、ただでさえ人手不足な御時世、職場ではハードワークを要求されることもしばしばですよね。うつ病をはじめとした「こころの病」にかかる人々の年齢層に変化が見られています。

20代でうつになる社員が急増中

 公益財団法人日本生産性本部は2017年12月、8回目となる『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果を発表しました。隔年ごとに全国の上場企業2千社以上を対象に行われる調査ですが、今年度は「うつ病など心の病に罹患する社員がもっとも多いのは20代である」と回答した企業の急増が話題になっています。

 具体的な数値を見てみますと、2014年度の18.4%から2017年は27.9%と大幅な上昇が現れていました。前回調査から順位の入れ替えこそあれ、大きな変動のなかった30代の32.6%、40代の35.8%の数値と比較して、各世代の比率が平準化してきたと言えるでしょう。

「責任」は重いが「権限」はないアンバランス

 このような罹患率の平均化について、日本生産性本部では「30代は仕事ができるようになり働き盛りといわれる年代、それだけに仕事を任され責任が重くなる。ところが管理職にはまだなれず、責任と権限がアンバランスになる年代といってよい。これが30代に不調者が多い理由だと今まで考えてきたが、この‘責任と権限のアンバランス’が40代、10~20代にも広がったと考えられないだろうか」と見解を示しています。

 責任は重いのに権限はない。なんとも歯がゆい立場であるのは想像に難くありません。また、就活学生を悩ませる「即戦力になりうる人材」を企業側が求めていることも、今回の20代のこころの病率の上昇を裏付ける傾向のひとつかもしれません。人手不足で売り手市場と言われる昨今、企業の説明会などでは就活中の学生にどれくらいのハードワークがあるかが伏せられていて、実際に入ってみてから思い知らされるというケースも少なくないのではと懸念する声も出ているようです。

若年層が陥りやすい「クォーターライフ・クライシス」

 こころの病の代表格とも言える「うつ病」は、現在でもまだわかっていないことが多く、何が原因で発症するのかは明らかになっていません。ただ、傾向として「心理的なストレス」が大きく関わっていることがあげられています。心因的ストレスとしてトップにあげられているのはやはり「仕事の過労」で、「職務異動」や「精神的打撃」などもあげられています。

 今回の調査結果で注目された20代後半から30代半ばの年代が陥りやすい、「クォーターライフ・クライシス」と呼ばれる現象があります。人生を100年間と仮定して、その4分の1に差し掛かるころにはじまるとされる、憂鬱とストレスが急上昇する時期だそうです。理想を抱いて社会に出て数年、思い描いていた未来と現実とのギャップに打ちのめされるという誰しも一度は通る道ですが、社会状況が厳しくなれば抜け切る前に病みついてしまうこともあるのかもしれません。

報告・情報共有の先の対策を

 しかしながら企業では、メンタルヘルスへの取組みを「ストレスチェック」と「面接」の他、どうするべきかと手をこまねいている状態であるということも、アンケートの結果で明らかになりました。集団分析の結果をどう活かせば良いのか、人事や総務、経営陣への報告以上に活かせていないのが現状のようです。

 うつ病は自殺と深い関係性があることもよく知られている通りです。WHOは、うつ病治療は年々進歩しているにもかかわらず、適切な治療を受けている人々が少ないとも指摘しています。個人の幸福、企業、ひいては国家の繁栄のためにも、そこに関わる全ての人々へのサポートが求められています。

<参考サイト>
・Science Portal:うつ病の人は世界で3億2千万人 WHOが推計
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2017/02/20170228_01.html
・公益財団法人日本生産性本部:第8回『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果 ~「心の病」の多い世代で20代が急増。各世代共通の課題に~
https://activity.jpc-net.jp/detail/mhr/activity001523.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

生と死が明確に分かれていた…弥生人が生きていた世界とは

生と死が明確に分かれていた…弥生人が生きていた世界とは

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(9)弥生人の「生の世界」

弥生時代の衣食住には、いったいどんな文化があったのだろうか。土器やスタンプ痕の分析から浮かび上がる弥生人が生きていた世界、その生活をひもとくと、農耕の発展の経路や死生観など当時のさまざまな文化の背景が見えてくる...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/05/14
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授
2

運動では減らないコレステロール…食生活の見直しで対策を

運動では減らないコレステロール…食生活の見直しで対策を

健診結果から考える健康管理・新5カ条(5)コレステロールは運動では減らない

コレステロールは中性脂肪と混同されがちだが、まったく異なる性質の脂(あぶら)である。コレステロールには、消化酵素になるなど3つの使い道があるが、摂り過ぎると運動しても簡単になくならないため、血管の変化を引き起こし...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/05/13
野口緑
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
3

「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験

「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験

おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!

『法華経』といえば紀元1世紀から3世紀に成立したといわれる大乗仏教の代表的経典である。厳しい修行や哲学的思索を行う出家が中心だった当時のインド仏教に対し、誰もが平等に成仏できると説く『法華経』は画期的なものだった...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/05/04
鎌田東二
京都大学名誉教授
4

イスラエルの歴史を学ぶ~シオニズム運動と英国の三枚舌

イスラエルの歴史を学ぶ~シオニズム運動と英国の三枚舌

近代イスラエルの誕生:その苦闘の背景(1)

 国防において、科学・芸術・産業の追究において、イスラエル人が示す桁外れの熱意。その根源は、民族がたどった歴史にあると島田晴雄氏は言う。現代のイスラエル精神に直接影響を及ぼした近代イスラエルの成立過程を2回に分...
収録日:2013/10/04
追加日:2014/07/17
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

米国史の教訓…ドル基軸通貨体制の信認を問う大転換に?

米国史の教訓…ドル基軸通貨体制の信認を問う大転換に?

株価と歴史…トランプ関税の影響を読む(1)アメリカ史の教訓とは

トランプ関税の影響は、今後、どのように広がっていくのだろうか? 過去の大きな構造変化や金融環境の変化が各国の「株価リターン」にどのような影響を与えたのかを分析しつつ、今後を考えるヒントがないかを検証していく。第1...
収録日:2025/04/18
追加日:2025/05/02
養田功一郎
元三井住友DSアセットマネジメント執行役員