社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
ランニングは「体に良い」とは限らない?
ランニングは健康に良い…はずが
皇居はいまやランニングの聖地。「皇居ランナー」は、平日の18時から21時の間で約4千人にのぼるといわれます。このほかにも駒沢オリンピック公園や代々木公園など多くのランニングコースが賑わっており、日本のランニング人口は1千万人を超えるとのデータも。なぜ、ここまでランニングブームが盛り上がっているのでしょうか。その理由には、2007年に初回が開催された東京マラソンをはじめとするマラソン大会の充実があげられるでしょう。参加する市民ランナーには初心者がたくさんいますし、おもしろいコスプレ姿のランナーもいるので、「自分もできそう」、「楽しそう」と感じる人が増えているのです。運動不足やメタボを心配する現代人が多い中、自分もできそうで楽しそうなスポーツをはじめる人が増えるのは自然な流れですよね。
ここで改めて注目したいのは、ランニングをはじめる動機として「体に良い」という考えが含まれている点です。しかしイギリスの医学誌『ブリティッシュメディカルジャーナル』の報告では、ランニングが寿命を縮めることもあるのだとか。それは、次のような条件を満たすランナーに見られるケースだそうです。
長く速く走るのは危険という研究結果
結論からいうとランニングをする人すべての寿命が短くなるわけではなく、「長い時間、速いスピードで走る人」が当てはまります。この条件はふたつの研究から導かれました。まず一つ目は、30年間にわたって5万6千200人を調査した研究で、対象を「ハードなランニングをする人」、「普通のランニングをする人」、「ランニングをしない人」の3グループにわけたものです。この各グループの死亡率を集計すると、普通グループはしないグループよりも19%低いという結果に。それでは週に32から40kmを走るハードグループはもっと低いかというとそんなことはなく、普通グループが最も低かったのです。
そして二つ目は、走るスピードを測定した研究です。この結果、自転車で走るのと同じくらいの時速12km以上で走る人には、心臓をいためてしまう危険性があることがわかりました。実は心臓病を専門とする医師にとって、アスリートに心房細動の発作が起きやすいことは常識です。心房細動とは不整脈の一種。脳の血管が詰まってしまう脳梗塞の3分の1は、心房細動が原因と考えられています。
『ブリティッシュメディカルジャーナル』はこの結果から、「極端なトレーニングは、過度の心臓の消耗と破壊を引き起こすと推測できる」という見解を示しています。
有酸素運動と無酸素運動のはざまで
それではなぜ、長く速く走る人は寿命が短くなってしまうのでしょうか。そこには有酸素運動と無酸素運動の境界が関係していると考えられます。有酸素運動といえばランニングやエアロビクスのような持続的な運動、無酸素運動といえば短距離走や筋トレのような瞬発的な運動というイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。これは正しくもあり、間違ってもいます。
両者は運動の種類ではなく、燃焼方法で区別されるもの。有酸素運動とは酸素を炭水化物や脂肪と反応させて燃焼させる運動で、無酸素運動とは酸素を使わず糖質を燃焼させる運動です。そして、酸素の反応が間に合わないときに無酸素運動が行われます。つまり負荷が低ければ筋トレも有酸素運動になり、逆に負荷が高くなればランニングも無酸素運動になります。もちろん、この境界には個人差があります。
無酸素運動は非常手段といえる燃焼方法なので、糖質の貯蔵量はさほど多くありません。このため、長時間の無酸素運動は体に大きなダメージを与えます。「ランニングは有酸素運動だから長時間やっても大丈夫」と思ってハードすぎるトレーニングを行うと、いつの間にか無酸素運動を長時間やっていることになり、心臓や筋肉をいためてしまうのです。
無理をしないことが一番大切
負荷が強すぎるランニングの危険性には注意が必要ですが、『ブリティッシュメディカルジャーナル』の報告からもわかるように、「普通のランニングをする人」は長生きできる傾向にあります。やはり「適度な運動」は健康増進に有効なようです。しかし「適度」といわれてもどれくらいなのか、なかなかわからないですよね。その指標にできる数字のひとつが、台湾国立医療研究所の研究チームから発表されました。それによると、1日15分程度の軽めの運動で健康増進の効果があるとのことです。この研究は41万6175人の台湾人を対象に平均8年間の調査を行ったもの。運動習慣がある人とない人の全死因の死亡率を比較すると、運動している人のほうが14%低い結果となりました。しかも軽めの歩行のような低負荷の運動強度でも、明らかに死亡率が低くなっていたのです。
また、1日あたりの運動時間を15分増やすごとに死亡の可能性が4%ずつ低下することもわかりました。30分の運動を毎日行えば、寿命が約4年延びると考えられるのです。研究者たちはこの結果を踏まえ、「あまり激しくない運動を毎日15分行うことからはじめて、1日30分まで延ばすことを目標とするのがよいのではないか」と提案しています。
ランニングは強すぎる負荷で長時間続けると、健康を害してしまうことを忘れないようにしましょう。苦しくないペースで毎日少しずつ続けるのが体に良い楽しみ方です。
<参考サイト>
・WIRED:ランニングは体に良いのか、悪いのか:研究結果
https://wired.jp/2012/12/24/jogging_is_bad_for_health/
・糖尿病ネットワーク:1日15分の運動が命を延ばす 台湾で大規模研究
http://www.dm-net.co.jp/calendar/sp/2011/015779.php
・WIRED:ランニングは体に良いのか、悪いのか:研究結果
https://wired.jp/2012/12/24/jogging_is_bad_for_health/
・糖尿病ネットワーク:1日15分の運動が命を延ばす 台湾で大規模研究
http://www.dm-net.co.jp/calendar/sp/2011/015779.php
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
混迷を極める現代社会にあって、「学び」の意義はどこにあるのだろうか。次世代にどのような望みをわれわれが与えることができるのか。社会全体の運営を、いかに正しい知識と方針で進めていけるのか。一人ひとりの人生において...
収録日:2025/06/19
追加日:2025/08/13
ウェルビーイングの危機へ…夜型による若者の幸福度の低下
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(4)社会的時差ボケとメンタルヘルス
社会的時差ボケは、特に若年層にその影響が大きい。それはメンタルヘルスの悪化にもつながり、彼らの幸福度を低下させるため、ウェルビーイングの危機ともいうべき事態を招くことになる。ではどうすればいいのか。欧米で注目さ...
収録日:2025/01/17
追加日:2025/08/23
健康経営×DEIの効用――経営理念が充実すると業績がよくなる
DEIの重要性と企業経営(3)健康経営でDEIを推進する
どのようにすればDEIを実現していけるのか。一つのヒントとなるのが「健康経営」である。はたして健康経営を目指している企業にとって、DEIの視点を取り入れることが企業利益につながるのか。また、従業員のウェルビーイングと...
収録日:2025/05/22
追加日:2025/08/22
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
トランプ大統領は同盟国の役割を軽視し、むしろ「もっと使うべき手段だ」と考えているようである。そのようななかで、ヨーロッパ諸国も大きく軍事費を増やし、「負担のシフト」ともいうべき事態が起きている。そのなかでアジア...
収録日:2025/06/23
追加日:2025/08/21