社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「行動主義心理学」から「進化心理学」へ
心理学的アプローチの一つに「行動主義心理学」があります。行動の原因を過去の条件付けにあると見て、ひたすら行動に注目する考え方です。この考えは20世紀の心理学では主流になっていましたが、それとは違うアプローチとして「進化心理学」が1990年代に提唱されています。進化生物学者の長谷川真理子氏(総合研究大学院大学長)は、両者の違いを次のように説明しています。
つまり、客観的に把握することのできない意識はブラックボックスとして割り切り、科学的な測定による「行動」についての分析が必要だと考えたのです。彼の利用した「スキナー箱」は、バーを押して、間違っていたら罰を受け、正しければ餌が出てくるものです。これにより、動物がどう学習していくかを知ることができ、「行動と結果」が正しく見てとれます。これは、研究パラダイムとしてはシンプルで、非常に優れたものだと長谷川氏は言います。
たとえば、多くの哺乳類が視覚より嗅覚に頼るのは夜行性だからですが、ヒトは昼行性の霊長類であるため、視覚優位に感覚情報を処理します。そのため、視覚情報に強く引き付けられ、注視してしまうというバイアスが出ると考えられています。
さらに、動物が生き延びて繁殖するのに有利になるような動機付けの仕組みを「情動」と言います。ヒトの場合、食欲は個体の生存と維持に非常に重要ですが、進化してきたこれまでの環境で砂糖や脂肪が有り余る環境は存在しなかったため、これらへの歯止めは存在していません。孤独をストレスと感じるのも、ヒトが社会的な動物として進化してきたのが原因。社会的接触に対する人間のさまざまなセンサーは、いつも鋭く働いていると言われます。
入学試験のような抽象的な課題よりも、他人の利害関係がどうなっているかを考えるほうが、脳は活発に働くということです。
学習や記憶にも、同じことが言えます。「毒のある食物を避ける」には、毒のあるものを1回食べてみると十分ですが、「ある食物がほかの食物よりおいしい」ということは、何度も繰り返して定着させる必要があります。
記憶についても、すべてを均一に記憶することはありえません。アルツハイマー病になった後でも、うれしかったことや衝撃だったことはよく覚えているように、生存や繁殖に関連するエピソード記憶は明瞭に記憶されています。逆に言うと、数式の列など、生存・繁殖に意味のないものは、なかなか覚えられず、忘れるのも速いということです。
意識はブラックボックスで構わない!行動主義心理学
行動主義心理学は、米・ハーバード大学心理学教授B.F.スキナー氏を中心に始まりました。人や動物の行動は、心の中の自由意志によって選択されているのではなく、過去に取った行動の結果が積み重なったものだ、とする考え方です。つまり、客観的に把握することのできない意識はブラックボックスとして割り切り、科学的な測定による「行動」についての分析が必要だと考えたのです。彼の利用した「スキナー箱」は、バーを押して、間違っていたら罰を受け、正しければ餌が出てくるものです。これにより、動物がどう学習していくかを知ることができ、「行動と結果」が正しく見てとれます。これは、研究パラダイムとしてはシンプルで、非常に優れたものだと長谷川氏は言います。
ヒトの脳みそは「進化の産物の臓器」という進化心理学
一方、1990年代に米国西海岸のカリフォルニア大学から出てきたのが「進化心理学」の考え方です。こちらはヒトの脳みそを「進化の産物の臓器」ととらえ、ホモ・サピエンスに固有の情報処理プロセスは進化適応とともに発展してきたと説明します。たとえば、多くの哺乳類が視覚より嗅覚に頼るのは夜行性だからですが、ヒトは昼行性の霊長類であるため、視覚優位に感覚情報を処理します。そのため、視覚情報に強く引き付けられ、注視してしまうというバイアスが出ると考えられています。
さらに、動物が生き延びて繁殖するのに有利になるような動機付けの仕組みを「情動」と言います。ヒトの場合、食欲は個体の生存と維持に非常に重要ですが、進化してきたこれまでの環境で砂糖や脂肪が有り余る環境は存在しなかったため、これらへの歯止めは存在していません。孤独をストレスと感じるのも、ヒトが社会的な動物として進化してきたのが原因。社会的接触に対する人間のさまざまなセンサーは、いつも鋭く働いていると言われます。
「隣は何をする人」かは、入試問題より脳に向く疑問
ヒトが上手に考えられるのは、進化の環境で考え、解決しなければならなかった課題群。たとえば「物体はどう動くか」という性質への理解や推論、「食べられるものと食べられないもの」の見分けと推論、「同種の個体識別と、他人が何を考えているか」についての推論などです。入学試験のような抽象的な課題よりも、他人の利害関係がどうなっているかを考えるほうが、脳は活発に働くということです。
学習や記憶にも、同じことが言えます。「毒のある食物を避ける」には、毒のあるものを1回食べてみると十分ですが、「ある食物がほかの食物よりおいしい」ということは、何度も繰り返して定着させる必要があります。
記憶についても、すべてを均一に記憶することはありえません。アルツハイマー病になった後でも、うれしかったことや衝撃だったことはよく覚えているように、生存や繁殖に関連するエピソード記憶は明瞭に記憶されています。逆に言うと、数式の列など、生存・繁殖に意味のないものは、なかなか覚えられず、忘れるのも速いということです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
「見せかけの相関」か否か…コロナ禍の補助金と病院の関係
会計検査から見えてくる日本政治の実態(2)病床確保と補助金の現実
コロナ禍において一つの大きな課題となっていたのが、感染者のための病床確保だ。そのための補助金がコロナ患者の受け入れ病院に支給されていたが、はたしてその額や運用は適正だったのか。事後的な分析で明らかになるその実態...
収録日:2025/04/14
追加日:2025/07/18
なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
民主主義の本質(1)近代民主主義とキリスト教
ロシアや中華人民共和国など、自由と民主主義を否定する権威主義国の脅威の増大。一方、日本、アメリカ、西欧など自由主義諸国における政治の劣化とポピュリズム……。いま、自由と民主主義は大きな試練の時を迎えている。このよ...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/03/26
胆のう結石、胆のうポリープ…胆のうの仕組みと治療の実際
胆のうの病気~続・がんと治療の基礎知識(1)胆のうの役割と胆石治療
消化にとって重要な臓器「胆のう」。この胆のうにはどのような仕組みがあり、どのような病気になる可能性があるのだろうか。その機能、役割についてあまり知る機会のない胆のう。「サイレントストーン」とも呼ばれる、見つけづ...
収録日:2024/07/19
追加日:2025/07/14
3300万票も獲得した民主党政権がなぜ失敗?…その理由
政治学講座~選挙をどう見るべきか(5)政権交代と民主党
民主党は、2009年の衆議院選挙で過半数の議席を獲得し、政権交代に成功した。しかし、その後の政権運営に失敗してしまった。その理由についてはいまだ十分な反省が行われていないという。ではなぜ民主党は失敗してしまったのか...
収録日:2019/08/23
追加日:2020/02/12
印象派を世に広めたモネ《印象、日の出》、当時の評価額は
作風と評論からみた印象派の画期性と発展(2)モネ《印象、日の出》の価値
第1回印象派展で話題となっていたセザンヌ。そのセザンヌと双璧をなすインパクトを与えた作品があった。それがモネの《印象、日の出》である。印象派の発展において重要な役割を果たした本作品をめぐる歴史的議論や当時の市況を...
収録日:2023/12/28
追加日:2025/07/17