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DATE/ 2018.08.17

超高齢社会の新たな問題-フレイルとサルコペニア

 年は取っても、できるだけ自分のことは自分でできるようでありたい。寝たきり状態だけは回避したい。これは誰しもが願うことですが、超高齢社会にあって新たな問題として注目されている病態があります。高齢者の健康を害する「フレイル」「サルコペニア」です。

「寝たきり」は薬では治せない

 国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長・大内尉義氏によると、フレイルとは日本語に訳せば「虚弱」のこと。年とともに体力や内臓機能が弱まり、食も細くなるにつれて寝たきり状態になることをさします。サルコペニアはフレイルの中心的な病態で、具体的には筋肉量の減少、筋力の低下を意味します。

 やっかいなのは、このフレイル、サルコペニアを治療する特効薬というのが、現状ではないということ。弱り切ってしまった心身は薬で治すより、そうなる前に自助努力で予防するのが一番効果的なのです。

1日250グラムのタンパク質を摂る

 大内氏が、フレイル、サルコペニアの予防として挙げるのが、適切な栄養と運動です。栄養面では、最も重要なのがタンパク質の摂取。最近、高齢者の栄養失調が問題になっており、また、「元気なお年寄りは毎日、肉を食べている」などとも言われていますが、大内氏は肉も魚も、また植物性タンパク質も含めていろいろな形で摂取するようにとアドバイスしています。

 なぜならば、虚弱状態、筋肉減少を防ぐために必要なタンパク質の量は、体重1キログラム当たり少なくとも1.1グラム必要だからです。体重50キロの人ならタンパク質55グラムですが、「なんだ、55グラム程度なら楽勝」と早とちりしてはいけません。通常、肉や魚に含まれるタンパク質の量は、全体の重量の5分の1程度とされているので、例えば、体重50キロの人なら1日250グラム程度の食材でタンパク質を確保しなければいけないことになるのです。

肉も魚も大豆製品もまんべんなく食べる

 そうは言っても、肉は脂っこいし、魚も調理が面倒だし、という方も多いでしょう。そういう方には、近年人気上昇中のトリのむね肉がおすすめ。皮を取り除けば低脂肪で、必須アミノ酸のバランスのよい良質のタンパク質を摂ることができます。消化吸収率がよいというのも嬉しいメリット。魚は、これも近頃注目されているサバ缶に代表される缶詰や、干物、刺身などを、うまく利用するとよいでしょう。

 また、植物性タンパク質を取り入れやすいという日本の食生活の特長も多いに生かしたいもの。植物性タンパク質の代表格はなんといっても豆腐、納豆といった大豆製品です。油揚げと豆腐の味噌汁など、植物性タンパク質の宝庫ということになりますね。こうした加工食品だけでなく、枝豆やえんどう豆、そら豆といった豆類もタンパク質豊富とのことなので、積極的に食卓にのせたいものです。

筋トレで白い筋肉を鍛えよう

 大内氏がフレイル、サルコペニアの予防としてすすめるもう一つの方法が、筋肉を鍛えるのに有効な運動です。運動というとウォーキングやエアロビクスといった有酸素運動をイメージしがちですが、こうした有酸素運動は主に筋肉の持続力に関係する「赤筋」の増強、維持に役立つもの。しかし、サルコペニア状態は、筋肉の繡発力を担う「白筋」の障害によってもたらされるので、この白筋を鍛える無酸素運動が必要になってきます。いわゆる、スクワットやダンベルエクササイズといった筋トレをする必要があるのです。

 「1日30分程度の筋トレが予防の目安」と聞くと、ちょっとハードルが高い感じがしますが、数回に分けて行ってもよいとのことなので、テレビを見ながらスクワット、座りっぱなしの作業のあとにちょっとダンベルなど、少しずつ生活の中に取り入れる工夫をしてみてはどうでしょうか。「家族で筋トレタイム」と、他の人と一緒にというのも運動を習慣化させるのにいい手段かもしれません。

 何よりも「食事と運動が何よりの薬」と肝に銘じることが、大切です。
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