テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.08

なぜ東京で「立ち飲み」が増えているのか?

 立ち飲み居酒屋がいま東京に増えているのにお気づきでしたか。「『ちょい飲み』増えてます」と記事にしたのは、朝日新聞デジタル。一方で、幅広いメニューをそろえる大手チェーンの居酒屋は苦戦していると言われています。

 立ち飲みのブームは、波のように行ったり来たりを繰り返すという説もありますが、今回の波はかなりのビッグウェーブ。その理由を調べてみました。

コスパでは「家飲み」と勝負できる立ち飲みニューウェーブ

 まず誰もが思いつくのは、「単価が安いから」という理由でしょう。これについては「せんべろ.net」という「千円でベロベロになれる飲み屋」を集めているwebがあり、現在東京では730件の「せんべろ酒場」が登録されています。ちなみに「せんべろ」は、2004年に亡くなった作家、中島らもさんの命名です。2018年7月の投稿数は25本、ページビューは92万、いかに「せんべろ酒場」が求められているかが分かる数字です。

 朝日デジタルで取り上げられたお店は「立呑み 晩杯屋(バンパイヤ)」「立ち飲み居酒屋 ドラム缶」など、東京都内を中心に展開する新鋭のチェーン店です。「晩杯屋」は2009年に武蔵小山で1号店を開業。食材の旬に合わせてメニューを頻繁に変え、つまみの大半が100円台という低価格のメニューを提供しています。一方の「ドラム缶」では、テーブル代わりにドラム缶を使用。壁紙はメニューを書いた画用紙という内装で出店費用を抑制し、お酒は150円からという低価格で、「半べろ(500円で2杯飲み、1品つまめる)」さえ実現しています。

 コンビニで缶ビール(または缶チューハイ2本)と唐揚げを買っても、500円前後。純粋にコスパで勝負できるのが立ち飲み酒場の魅力です。

思いついたら気軽に飲んで、気楽に帰れる敷居の低さ

 次に、立ち飲みならではの「気楽さ」。ほとんどがソロ、多くても2、3人で訪れるのが立ち飲みの特徴です。ふと思いついて少人数で少し飲み、短時間で帰るのが、最近のお客さんの傾向。間違っても「何ヶ月も前からメールで予告されて」時間を調整し、同僚や上司と「一席囲む」ような重苦しさがありません。

 若者の飲酒離れ、宴席離れの傾向は何年も前から話題になってきました。同じお酒を前にしても、上司といるだけでパワハラまがいの圧迫を感じて飲んだ気がしないというメンタリティの持ち主もいれば、非正規雇用のため、そもそも「上司などいない」働き方も増えました。

 体質的にお酒が飲めなくても「居酒屋メシ」の好きな人、気の合う友人となら集まりたい人、話題のお店に行って満足感を味わいたい人など、ブームの「立ち飲み」は多くの需要を満たしているといえるでしょう。

「フラリーマン」の一部も立ち飲みに流れている

 最近の動向として、「フラリーマン」の増加が考えられます。「フラリーマン」は、仕事を終えて会社を出た後、まっすぐ家に帰らない人たち。書店や飲食店、家電量販店や娯楽施設などに寄り道してから帰路につくサラリーマンを指す言葉です。

 社会心理学者の渋谷昌三氏が2007年に命名しましたが、2017年9月、NHKが「おはよう日本」で放送して以来、大きな反響を呼んでいます。ここ数年、一気にフラリーマンが増えたのは、働き方改革が広がり、これまで残業に当てていた時間を持て余すサラリーマンが増えたためです。

 朝日新聞が別ブランドで展開するwithnewsの連載『平成家族』では「今日も残業」と妻にLINEメッセージを送り、お金をかけずにファミレスで時間をつぶす男性たちの姿が紹介されています。

 家に帰ると、育児と仕事を両立して頑張る妻がいて、育児や家事に参加しようとしても、能力が低いためになかなか戦力と認めてもらえない。仕事以上に心の折れる体験を家庭でしたくなくて、フラリーマンは寄り道をします。その間、血眼で夕方の家事に勤しむ妻たち。「申し訳ない」と思えば思う程、「立ち飲みで一杯」やりたくなる男性も多いのではないでしょうか。

<参考サイト>
・朝日新聞DIGITAL:「ちょい飲み」増えてます
https://www.asahi.com/articles/ASL6Y4CR9L6YULFA01L.html
・せんべろ東京マップ
https://1000bero.net/tokyo_map/
・withnews:退社時間早まったのに「足が家に向かない」
https://withnews.jp/article/f0180103002qq000000000000000W08110301qq000016511A
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員