社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
儒教に学ぶ日本に求められるリーダーシップ
儒教は、紀元前500年前後に生きた孔子を始祖とする儒家による思想。孔子の言行録である『論語』や、儒教の教科書というべき「四書五経」は東アジアで2000年以上にわたり強い影響力を持ってきました。日本ではとくに江戸時代の藩校で取り入れられ、幕末維新の激動期を乗り切る精神的支柱にもなりました。半世紀近く「四書五経」を学んできた老荘思想研究者・田口佳史氏は、「四書五経を学ぶことは、リーダーシップを身につけること」と言います。その秘訣をのぞいてみましょう。
思考の土台にはまず「土壌風土」があり、その上に普遍的なリーダーシップが置かれます。土壌風土とは、日本なりアジアなりの置かれた地理的条件であり、最近の言葉では「地政学」とも言えるでしょう。ここでできあがるのは、いわば「アジアの英雄」なる普遍的理想です。
その上に乗っていくのが、時代性や個性であり、リーダーとはこの四層の相互作用を発揮することで、多くの大衆にメッセージを届け、心を動かしていくものだというわけです。
現代の教育では、日本の地理的特性が生んだ伝統的な精神文化である「儒仏道精神」、すなわち儒教、仏教、道教、禅、神道などに触れることが減っているからではないか。グローバルな社会で活躍する世代にこそ、土壌風土に根付いた精神基盤の強化が必要ではないかと田口氏は考えるにいたりました。
儒家思想の特徴は「人間の救済は人間にのみ可能」とすること。ですから、神仏に頼り運命を委ねる宗教とは違って、人間に対する大きな期待と信頼があります。五経の一つである『書経』を見ていきましょう。
スタートを飾るのは「堯典」。堯帝は、どのような君主であったのか。冒頭は「日若(えつじゃく)古の帝堯を稽(かんが)ふるに曰く、放勳(ほうくん)は欽明(きんめい)、文思(ぶんし)は安安(あんあん)にして…」と始まります。
「日若」は昔語りの神職と解釈されており、その役職の人間が古の帝である堯について稽えて言った言葉、という意味になります。寄り道になりますが、ここで「稽古」の語源が出ていることも要チェック。稽古をするとは、「古(いにしえ)を考えること」。お茶の稽古であれば、利休がわび茶を編み出したのはどうしてなのか、柔道であれば、実在の先人をミックスした姿三四郎の構想について考える。このように、源流を考えながら訓練や鍛錬に励むことが、本来の稽古の意味だといいます。
「放勳欽明、文思安安」は、堯帝を物語る言葉です。「放勳欽明」は百戦錬磨の体験が存在自体に満ち溢れていること、「文思安安」は、どんな時にも安定して他人を思いやる人柄を表すので、非常に簡単に言うと「気は優しくて力持ち」なのが堯帝の姿だったといえるでしょう。
現代のビジネス・シーンに置きかえれば、「放勳欽明」は「優れた問題解決能力」を持ち、常に「創意工夫」をもって成果を追求する人を評する言葉になります。「文思安安」は自社のメンバーに対して常に夢と希望を与えるような「将来構想」を語れる人と言いかえられるでしょう。
いずれも日本がいま求めるリーダー像に、相当肉薄しているのではないでしょうか。
東洋のリーダーシップには4つの階層がある
田口氏が東洋思想を通して実感しているのは、リーダーシップには構造があるのではないか、ということ。さらに自分のDNAを意識して「自己の内なる自己」を見つめることが重要ではないかということです。思考の土台にはまず「土壌風土」があり、その上に普遍的なリーダーシップが置かれます。土壌風土とは、日本なりアジアなりの置かれた地理的条件であり、最近の言葉では「地政学」とも言えるでしょう。ここでできあがるのは、いわば「アジアの英雄」なる普遍的理想です。
その上に乗っていくのが、時代性や個性であり、リーダーとはこの四層の相互作用を発揮することで、多くの大衆にメッセージを届け、心を動かしていくものだというわけです。
日本人の「心が折れ」やすくなっている理由
アメリカのMBAなどに留学する日本の若者について、現地の教員から「頭もいいし、能力も高いが、精神の基礎が強靭でない」と指摘されることがままあると田口氏は言います。すぐにひるんだり諦めたり、いわゆる「心が折れ」やすい世代が増えていることにも符合します。現代の教育では、日本の地理的特性が生んだ伝統的な精神文化である「儒仏道精神」、すなわち儒教、仏教、道教、禅、神道などに触れることが減っているからではないか。グローバルな社会で活躍する世代にこそ、土壌風土に根付いた精神基盤の強化が必要ではないかと田口氏は考えるにいたりました。
儒家思想の特徴は「人間の救済は人間にのみ可能」とすること。ですから、神仏に頼り運命を委ねる宗教とは違って、人間に対する大きな期待と信頼があります。五経の一つである『書経』を見ていきましょう。
『書経』に見る理想のリーダー、堯帝
『書経』(または『尚書』)は儒家の理想政治を述べたものとして、最も重要な経典にあたります。そこで扱われているのは、尭(ぎょう)・舜(しゅん)から夏・殷(いん)・周の5代にわたる王朝の皇帝およびそれを補佐した人々の言辞です。スタートを飾るのは「堯典」。堯帝は、どのような君主であったのか。冒頭は「日若(えつじゃく)古の帝堯を稽(かんが)ふるに曰く、放勳(ほうくん)は欽明(きんめい)、文思(ぶんし)は安安(あんあん)にして…」と始まります。
「日若」は昔語りの神職と解釈されており、その役職の人間が古の帝である堯について稽えて言った言葉、という意味になります。寄り道になりますが、ここで「稽古」の語源が出ていることも要チェック。稽古をするとは、「古(いにしえ)を考えること」。お茶の稽古であれば、利休がわび茶を編み出したのはどうしてなのか、柔道であれば、実在の先人をミックスした姿三四郎の構想について考える。このように、源流を考えながら訓練や鍛錬に励むことが、本来の稽古の意味だといいます。
「放勳欽明、文思安安」は、堯帝を物語る言葉です。「放勳欽明」は百戦錬磨の体験が存在自体に満ち溢れていること、「文思安安」は、どんな時にも安定して他人を思いやる人柄を表すので、非常に簡単に言うと「気は優しくて力持ち」なのが堯帝の姿だったといえるでしょう。
現代のビジネス・シーンに置きかえれば、「放勳欽明」は「優れた問題解決能力」を持ち、常に「創意工夫」をもって成果を追求する人を評する言葉になります。「文思安安」は自社のメンバーに対して常に夢と希望を与えるような「将来構想」を語れる人と言いかえられるでしょう。
いずれも日本がいま求めるリーダー像に、相当肉薄しているのではないでしょうか。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
国際社会における中国の動きに注目が集まっている。新冷戦ともいわれる米中摩擦が激化する中、2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎えた。毛沢東以来、初めて「思想」という言葉を党規約に盛り込んだ習近平。彼が唱える「中...
収録日:2021/07/07
追加日:2021/09/07
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本
編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは
ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
ネット古書店で便利に買える時代…「歴史探索」の意義とは
歴史の探り方、活かし方(3)古書店巡りからネット書店へ
古本のインターネット書店が充実し、史料探しはずいぶん楽になった現在だが、地方にある書店の地元出版コーナーも見逃せない。新書などの文献目録を参考にするという手もあると中村氏は言う。ではそうして歴史を調べ、たどって...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/21


