テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.05.25

日本より少子高齢化が進む台湾で何が起きている?

 少子高齢化が長らく問題になっていますが、未だ回復の目処はたちそうにありません。人口減少は国力の低下そのものにつながり、年金や医療保険制度にも巨大な影を投げかけていますが、実は日本に限られた話ではありません。

 東アジアでは台湾、韓国、中国やシンガポール、ヨーロッパではドイツ、イタリアなどでも問題視され、先進国間の課題となっています。とりわけ台湾と韓国は2016年度の出生率は日本の1.44を下回り、両国とも1.17をマークしました。少子化の進んだ先にどのような未来が待ち構えているのか、また、他国の少子化対策を調べてみました。

グローバルな出生率低下のきっかけは

 東アジアの出生率の低下は1970年から1975年の間に顕著にみられます。欧州でも同様に、多少の上下はあれ2000年あたりまで右肩下がりに落ち込みました。

 背景にあるのはやはり経済です。日本では、1973年のオイルショックをきっかけとした高度経済成長の終わりに伴い出生率の低下が始まったことが指摘されています。台湾や韓国は1997年に起きたアジア通貨危機を機に出生率低下に拍車がかかったようです。ただでさえ高い養育費を思えば、経済状況が悪い中、子作りを控える夫婦が現れるのも無理なからぬことでしょう。

 また、過去に各国政府が打ち出した家族計画プログラムも大きく影響を及ぼしています。いくつかの国では、人口爆発は経済の発展を阻害する恐れがあると、出生率抑制策を推し進めていました。有名なところでは中国の「一人っ子政策」ですね。他にもシンガポールや韓国、台湾でも抑制策がとられ、結果として、それらの国々は経済的成長を遂げています。しかし、経済発展の終わりと同時に出生率は年々低下、人口の低下に頭を悩ませることになったのです。

出生率ランキングワースト1位の台湾に見る少子化社会の問題

 台湾の国家発展委員会の発表によれば、2018年、総人口における65歳以上が占める割合が14%をオーバーし、高齢社会に突入しました。8年後にはそれが20%以上になり、超高齢社会の到来が予測されています。けれども、2017年の合計特殊出生率は1.13、2021年には米国の中央情報局(CIA)が発表した「2021年の国・地域別の合計特殊出生率予測」で世界で最も低い1.07となっています。年々低下する出生率ですが回復する様子は伺えません。

 実は台湾は世界の出生率ランキングワースト1位に着いています。ここにも複雑な経済的事情が絡んでいるようです。現代の一般的な台湾人夫婦は、共働きが多数派です。女性の社会進出が目覚しい、といえば聞こえも良いのですが、実際には夫婦揃ってフルタイムで働いていないと高騰する物価に家計が追いつけないという事情があるようです。

 そんな中、少子化の影響は教育機関の減少という目に見える形で現れてきました。台湾の教育省では大学の入学者数は2013年から2023年の間に31万人減少すると推定しています。公立私立を問わず52校が閉鎖・合併されると予測され、教育水準の後退は国家レベルの衰退につながると危惧されています。

 ただでさえ若者、働き盛りの世代の少なくなる中で、近年、母国では稼ぎが良くないと中国に渡る人々が増えているようです。ご存知の通り、中国と台湾は政治的にもめていますが、中国側は人材として訪れる台湾の人々を歓迎しています。日本のみならず労働力の確保は中国でも悩みの種、質の良い人材となると他国からのヘッドハンティングを厭いません。このような人材流出が重なれば国内経済はさらに悪くなり、少子化がさらに加速するという悪循環を招きかねません。

社会が成熟するにつれ少子化は進む、ならば対策は?

 あちこちの国が出成立低下に悩む時代ですが、そんな中で回復を見せている国も存在します。

 フランスやスウェーデンでは、一時期出生率1.5~1.6まで低下しましたが、2016年データではフランスが1.92、スウェーデンが1.85と上方修正を果たしました。両国の家族政策の特徴は、「両立支援」、経済的支援に留まらず保育や育休制度、出産・子育てと就労について幅広い選択ができるよう環境を整えたことにあるようです。

 社会が成熟し、個人は自由意思で選択するのが当たり前となった時代、人生設計を子育てのシステムが旧態以前ゆえに放棄しなければならないといった有様では、人口が増えないのも必然でしょう。日本では、政府は目標出生率を1.8と設定していますが、それを達成するには出産から子育ての支援を長期的に国家レベルで推し進めることが不可欠です。諸外国から学び、現状に合った政策を打ち出してもらいたいものです。

<参考文献・参考サイト>
・『日本の人口動向とこれからの社会』(森田朗監修、国立社会保障・人口問題研究所編、東京大学出版)
・『ここにも中国の影が。台湾は日本以上の少子化で国家存亡の危機』MAG2NEWS
https://www.mag2.com/p/news/360762
・『令和3年版少子化社会対策白書』内閣府
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2021/r03pdfhonpen/r03honpen.html
・『世界の合計特殊出生率 国別ランキング・推移』GLOBAL NOTE
https://www.globalnote.jp/post-3758.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授