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DATE/ 2019.04.21

赤羽は「本当に住みやすい街」なのか?

 東京都北区赤羽が「本当に住みやすい街大賞2019」の第1位に輝きました。本賞のプレゼンターは、住宅ローン専門金融機関のアルヒ株式会社です。

 最近、グングンと注目度が高くなっている赤羽の魅力とは何か。はたして、「本当に住みやすい」のか。厳しく批評されるのは1位の宿命。本コラムでも、あえて厳しいカマエをとって検証をおこないます。

ラッシュ時の埼京線の混雑具合

 「本当に住みやすい街大賞」の評価は、「発展性」・「住環境」・「交通の利便性」・「コストパフォーマンス」・「教育・文化環境」という5つの視点から行いました。

 「発展性」は5点満点。4.9点の「交通の利便性」と関連づけて「アクセスの良さで拠点性の高い立地、交通網も充実」と評価しています。

 たしかに「交通の利便性」という点では、赤羽駅は文句なしに優れているといえるでしょう。上野・東京にも、新宿・渋谷にも乗り換えなしで行くことができます。赤羽駅から徒歩10分ほどの位置に南北線の赤羽岩淵もあり、六本木や目黒にも1本でアクセス可能です。

 ただし、埼京線のラッシュ時間の混雑状況はマイナスポイントとして取り上げてもいいでしょう。国土交通省の資料によると、ラッシュ時の板橋・池袋間は混雑率185%です。いくらアクセスがいいとはいえ、これだけ混んでいたら、短時間の乗車でも疲れてしまいます。

地価はここ20年で最高価格

 「コストパフォーマンス」と「教育・文化環境」の点数は、他の項目ほど伸びず、4点。国土交通省が発表する地価公示価格のデータによると、赤羽駅周辺の地価はじわじわ上昇しつつあり、2019年現在はここ20年で最高価格を叩き出しています。このまま上昇が続けば、「コストパフォーマンス」は減少に向かうかもしれません。

 「教育・文化環境」については、「再開発によって地域の小中学校の教育レベルもアップ!」、「近年は再開発エリアにマンションが増え、それに伴って小・中学校の教育レベルが上がっているとする人の声も」と述べていますが、ここは評価が難しいところです。

 興味深いという点では、駅の西側エリアにある「北区立稲付中学校」は、東京都の「オリンピック・パラリンピック教育重点校」に指定されています。中学校の目の前には、味の素ナショナルトレーニングセンターがあり、ここでトレーニングするJOCエリートアカデミーの生徒たちが稲付中学校に通います。世界トップレベルのアスリートである卓球・男子の張本智和選手やレスリングの宮原優選手も同校の出身です。

世界的スターを呼びよせる磁場

 もうひとつ、こちらも西側エリアにある「赤羽星美学園」も注目校として取り上げたいとおもいます。赤羽星美学園はミッションスクールで、幼稚園から短大まで学校を運営しています。「平成おじさん」の名で親しまれた小渕恵三元首相の娘・小渕優子衆議院議員が星美学園の幼稚園と小学校に通いました。小渕優子さんはその後、成城学園中学校に進学。星美学園は、赤羽近辺では珍しいエリート校と言っていいでしょう。

 ちなみに星美学園には児童養護施設の星美ホームも付設されており、なんとここにはあのマイケル・ジャクソン(MJ)が2006年の来日の際に慰問で訪れました。元首相といい、MJといい、赤羽星美学園にはなにか大物が集う磁力があるのでしょう。

 星美学園と同じ赤羽台には、2017年に東洋大学赤羽台キャンパスが開設されました。今後、赤羽台一帯が文京地域として注目されるかもしれません。

二つの商店街のウィークポイント

 「住環境」は4.8点。「大型スーパーや商店街で生活用品には困らない」と評価されています。たしかに、西口エリアにイトーヨーカドー、東口エリアにダイエー、西友など大型スーパーがあります。また、赤提灯が印象的な「赤羽一番街」、そして「LaLaガーデン 赤羽スズラン通り商店街」という二つの商店街、さらに北側の高架下にはJRが展開する専門店街ビーンズもあります。

 大型スーパーはたしかに充実しています。ただし、商店街については、あえて厳しいことを言うと「LaLaガーデン」は、CoCo壱番屋、リンガーハット、ガスト、松屋などチェーン店が多く、商店街ならではの活気があまり感じられません。

 また、「赤羽一番街」は、駅に近い入り口付近は賑やかな感じがするものの、すこし歩くとわりと寂しい雰囲気に包まれます。もちろん、商店街の奥の方も、繁華街とは別の独自の良さを醸していると言えなくもありませんが、いわゆる赤提灯のイメージで活気づいているのは、商店街のほんの一部に限られているということです。さらにメディアに取り上げられるごとに、一部のお店に観光客が押し寄せ、近所の生活者が入店できなくなるということがたびたび起こります。

ハザードマップから分かること

 もうひとつ、「住環境」について絶対に押さえておくべきことは「災害」です。国土交通省のハザードマップで赤羽を見てみると、近くの荒川が氾濫した場合には、赤羽駅まで洪水浸水のリスクがあるとしています。

 「ダイヤモンド不動産研究所」の記事でも「堤防工事などで洪水のリスクは低減したものの、もともとの地勢的な弱点は克服できない」として水害リスクが指摘されています。他方、地震時の安全確保行動を身につけるための訓練「シェイクアウト」の登録者数が北区は23区内で最も多いことから防災意識の高い地域として評価しています。

 これだけ注目度が高まっているので、災害リスクを含めた地形の秘密は、NHK「ブラタモリ」でタモリさんが解説してくれる日もそう遠くはないかもしれません。

山田孝之主演ドラマ・原作者のつぶやき

 変貌を遂げつつある赤羽に対してこんな意見もあります。「8年くらい前までは街中にウヨウヨ居た、オモシロくてヘンなオヂサンやオヴァサンたち、すっかり見かけなくなっちゃったなあ。そういう人たちにとっては、住みにくい街になっちゃったのかもしれないね、赤羽。」。これは、山田孝之主演でドラマ化された原作漫画『東京都北区赤羽』(清野とおる著、双葉社)の著者・清野とおるさんの2018年12月12日のツイッターのつぶやきです。とはいえ、清野さんは北区のシティプロモーション事業などに積極的に協力しており、赤羽人気にも大きく貢献しています。

 2018年12月をもって、東京最後のキャバレー「赤羽ハリウッド」が閉店。清野さんが指摘するように、赤羽には古き良き時代の「人間くささ」というか「昭和っぽさ」のようなものが残存していました。こうした良さが、赤羽の人気上昇にともなって、失われつつあります。

 他方、一番街商店街のメインストリートから少し外れたにあたりに、若い事業者を中心にして、「奥赤羽」とも言うべき、おしゃれなニューエリアが形成されつつあります。ラクレットチーズを使った料理が自慢「ラクレット×ラクレット」、メロンパン屋の「メロン・ドゥ・メロン」など、株式会社Colors of Lifeの代表・及川秋紀さんはこの界隈で数店舗の人気店を手がけています。

見逃せない「奥赤ニューウェーブ」

 赤羽駅から徒歩10分ほどの距離に赤羽岩淵駅があり、さらにその奥には住宅街が広がっています。その住宅街を歩いていると突然、壁面が真っ黒の家屋があらわれます。よく見るとおしゃれなコーヒー屋と自転車屋、そしてシェアハウスとシェアオフィスが並んでいます。このあたり一帯の町づくりに取り組んでいるのが岩淵家守舎の織戸龍也さん。「旅に出たくなる」をテーマに毎月、「宿場町まるしぇ」という名のイベントも開催しています。

 赤羽の奥の方ではこうした「奥赤ニューウェーブ」ともいうべき動向があることも「住環境」の良さとして勘定してもいいのではないでしょうか。アルヒ株式会社は、評価ポイントとして「利便性が良く、庶民性もある“NEXT吉祥寺”にふさわしい街」と述べていますが、これまで述べてきた通り、とうてい吉祥寺のハイセンスな魅力には及びません。そもそも、赤羽の目指すべきモデルは吉祥寺なのでしょうか。ネット上には「赤羽VS武蔵小杉」という記事もあります。

 今回の記事では、あえて厳しい姿勢で分析にのぞみました。なかには辛辣な指摘もありますが、マイナスと思われている面には成長の可能性があります。アルヒ株式会社の評価のようにプラス面がこれだけあるのに、赤羽にはまだまだポテンシャルを秘めているということです。そういう意味では、「発展性」5点満点は大正解だと言っていいでしょう。どんな街に進化していくのか。今後の進展が楽しみでなりません。

<参照サイト>
・本当に住みやすい街大賞2019
https://www.aruhi-corp.co.jp/cp/town_ranking/2019_kanto/
・【本当に住みやすい街大賞2019】第1位 赤羽:利便性と親しみやすさで人気急上昇の街│ARUHIマガジン
https://magazine.aruhi-corp.co.jp/0000-1657/?argument=wRwuVVkk&dmai=lp_2018sumiyasui01
・京圏で混雑率180%超の路線が12路線から11路線へ~都市鉄道の混雑率調査結果を公表します~│国土交通省 報道発表資料 平成30年7月17日
http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo04_hh_000068.html
・赤羽(東京都北区)の不動産は“買い”なのか?6路線の鉄道利用と下町の雰囲気で人気急上昇中|ダイヤモンド不動産研究所
https://diamond-fudosan.jp/articles/-/195634
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