テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.01.27

日本人の「読解力」が下がっている理由

日本人の読解力が低下傾向に

 国際経済の協議を目的とする国際機関・経済協力開発機構(OECD)が2019年12月3日に発表した学習到達度調査(PISA)の結果から、日本の高校生の読解力が低下傾向にあるとわかりました。

 この調査は15歳の男女を対象に、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの3分野について3年ごとに行われています。今回結果が発表された2018年実施調査には、OECD加盟の37か国を含めた79の国と地域から約60万人、日本からは約6千100人の高校1年生が参加しました。

 その結果、数学的リテラシーはOECD加盟国で1位(全体6位)、科学的リテラシーはOECD加盟国で2位(全体5位)と上位に入りましたが、読解力だけはOECD加盟国で11位(全体15位)とトップ10に届かなかったのです。

 読解力の平均点は504点で、OECD平均点の487点は上回りましたが、2015年より12点、さらに2012年より34点低かったことから、有意の低下があったとみなされています。

どんな問題が苦手なのか

 しかし実は、読解力に関する問題すべての正答率が低いわけではないのです。それでは、どんな部分が弱いのでしょうか。

 まず、PISAでは以下の3点が読解力を測定する能力と定められています。

 1・情報を探し出す(関連するテキストにアクセスして、情報を取り出したり選び出したりする)
 2・理解する(字句の意味を理解して、自分の推論を立てる)
 3・評価し、熟考する(質と信ぴょう性を評価して、熟考ののち矛盾に対処する)

 この3点の中で「2・理解する」と、「3・評価し、熟考する」のうち「質と信ぴょう性を評価する」については正答率が高くなっています。しかし、「1・情報を探し出す」と、「3・評価し、熟考する」のうち「熟考ののち矛盾に対処する」については正答率が低いのです。

 また、自分で文章を書くタイプの自由記述形式問題は弱点で、OECD平均より2割近く正答率が低い問題もありました。この結果を受けた萩生田光一文部科学大臣は「判断の根拠や理由を明確にしながら自分の考えを述べること」に課題があるとコメントしています。

読解力低下の原因とは

 またPISAでは読書活動のアンケートを取っており、この結果から読解力と読書は関連している可能性があることがわかります。

 読解力を中心とした調査は3回に1回しか行われないため前回は2009年ですが、このときと比較すると日本に限らずOECD全体で読書の頻度は下がっています。このうち日本では読書を「月に数回」、「週に数回」するという回答が、新聞では前回から36.0ポイント減の21.5%、雑誌では前回から33.8ポイント減の30.8%に留まりました。調査対象は紙の本だけでなく電子書籍やウェブサイトなども含まれるため、メディアを問わず全体的に減っています。

 ただし日本では読書を肯定的にとらえる割合が高く、「大好きな趣味の一つ」という回答はOMCD平均が0.4ポイント増の33.7%だったのに対し、日本では3.2ポイント増の45.2%にのぼりました。

 さらに、新聞はもちろん小説などのフィクション、ルポルタージュなどのノンフィクションからコミックまで幅広く読む回答者ほど読解力の得点が高いことがわかっています。この点から、読書をする割合が下がっていることが、読解力低下の一因になっているといえそうです。

読解力低下は若者だけの問題ではない

 幅広いジャンルの読書が読解力を育てることは、教育関連事業を手がけるベネッセコーポレーションの社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所の研究でもわかっています。小学5年生から6年生にかけての1年間で幅広いジャンルの読書を子どもほど、「難しいことを考える力がついた」と実感しており、「どこが大切かを考えながら読む」という習慣が身についているのです。

 しかし国立青少年教育振興機構が2019年12月23日に発表した読書習慣の調査では、全国の20代から60代の男女5千人のうち、1か月に1冊も紙媒体の本を読まないと回答した人が全年代合計で49.8%にもなりました。これは、2013年に実施した前回調査の28.1%から大幅増です。子どもだけでなく大人も読書する人が減っているということは、大人も読解力が低下していると考えられます。

 現在もスマホからネットのテキストに触れることは多いですが、検索すれば簡単に情報が手に入るようになったため、情報を選別したり精査したりする力が低下するのはやむを得ないかもしれません。本当に必要な情報はネット上にはなく、紙媒体の中に眠っていることも多いもの。自分から調べようとする態度はいつの時代でも大切といえるでしょう。

<参考サイト>
・国立教育政策研究所 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html
・日本経済新聞 20~60代の半数、月に1冊も紙の本読まず 全国調査
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53700840T21C19A2CR8000/
・ベネッセ教育総合研究所 幅広い読書が「思考力」や「創造性」にプラス効果
https://berd.benesse.jp/up_images/textarea/bigdata/20191025manabilnewsletter.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

トランプ関税はアダム・スミス以前の重商主義より原始的

第2次トランプ政権の危険性と本質(2)トランプ関税のおかしな発想

「トランプ関税」といわれる関税政策を積極的に行う第二次トランプ政権だが、この政策によるショックから株価が乱高下している。この政策は二国間の貿易収支を問題視し、それを「損得」で判断してのものだが、そもそもその考え...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/05/17
柿埜真吾
経済学者
2

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

大隈重信と福澤諭吉…実は多元性に富んでいた明治日本

デモクラシーの基盤とは何か(2)明治日本の惑溺と多元性

アメリカは民主主義の土壌が育まれていたが、日本はどうだったのだろうか。幕末の藩士たちはアメリカの建国の父たちに憧憬を抱いていた。そして、幕末から明治初期には雨後の筍のように、様々な政治結社も登場した。明治日本は...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/05/16
3

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

【会員アンケート】談論風発!トランプ関税をどう考える?

編集部ラジオ2025(8)会員アンケート企画:トランプ関税

会員の皆さまからお寄せいただいたご意見を元に考え、テンミニッツTVの講義をつないでいく「会員アンケート企画」。今回は、「トランプ関税をどう考える?」というテーマでご意見をいただきました。

第2次トランプ...
収録日:2025/05/07
追加日:2025/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
4

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

相互関税の影響は?…トランプが築く現代版の万里の長城

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(1)「相互関税」とは何か?

トランプ大統領は、2025年4月2日(アメリカ時間)に貿易相手国に「相互関税」を課すと発表し、「解放の日」だと唱えた。しかし、「相互関税」の考え方は、まったくよくわからないのが実状だ。はたして、トランプ大統領がめざす...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/10
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授