社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
口の中の健康が全身の健康状態を左右する?
口の中の健康が全身の健康状態を左右することは、最近になって知られてきた事実です。高齢者はもちろんのこと、すべての年齢にヒントになる「口腔ケア」の驚くべき世界を見ていきましょう。
「介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎の予防効果に関する研究」という論文が、世界で五本の指に入る医学雑誌『ランセット(Lancet)』に発表されたのは1999年。やはり日本の口腔ケアを牽引する米山武義先生が示した「徹底的に口を清潔にすると、肺炎が半分に減った」というデータが世界を驚かせました。
河原先生も、この論文に刺激を受けて行動を起こします。回復期リハビリテーションの病院に入院して余命を待つ状況だった高齢女性に、歯科医としてできることを心がけ、口中をきれいにするケアを始めたのです。すでに点滴栄養となっており、薬を飲むことしかできなかった口の中をきれいにした上で、口からの食事を再開していったところ、2週間で筋肉の萎縮が治って、それまでできなかった運動ができるようになります。その後、この女性は海外旅行ができるまでに回復されたそうです。
河原先生が強調するのは、「入れ歯になっても諦める必要はない」ということです。口の中をきれいにして、自分の好きなものをしっかり食べて味わい、全身の栄養にすることは、人間の尊厳を守ることです。入れ歯にすると口元が気になって外へ出なくなったり、人としゃべらなくなったりする人がいますが、社会性が失われていくことは認知症への何よりの近道になります。
何年も前につくった「合わない入れ歯」でよく噛めない生活に我慢している高齢者の方がたが身の回りにいないかどうか、ぜひチェックしてみてください。外科手術で取ってしまった胃や肺を再建することはできませんが、「噛んで食べる」機能は適切な入れ歯やインプラントによって再建できるのです。
前歯で噛むことでとくに血流がアップするのは「前頭前野」という「脳の司令塔」にもたとえられる部分です。「考える」「記憶する」「アイデアを出す」「感情をコントロールする」「判断する」「応用する」など、人間にとって重要な働きを担っているため、人間が人間らしくあるためのポイントだと言われます。「前歯で噛む」ことで、この脳を目覚めさせたり鍛えたりできるのなら、こんなに手軽でうれしいことはありませんね。
世界が驚いた「口腔ケアで肺炎半減」の事実
さまざまな事例を紹介してくれたのは、日本顎咬合学会の元会長、現在は顧問を務める河原英雄先生。60歳を過ぎた頃、「もう少し田舎でのんびり過ごそう」と移住した先のお年寄りの入れ歯があまりにも「噛めない」ことに問題意識を持ち、実践を通して「オーラル・フレイル」の実態とそれを解決する口腔ケアに取り組んでこられました。「介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎の予防効果に関する研究」という論文が、世界で五本の指に入る医学雑誌『ランセット(Lancet)』に発表されたのは1999年。やはり日本の口腔ケアを牽引する米山武義先生が示した「徹底的に口を清潔にすると、肺炎が半分に減った」というデータが世界を驚かせました。
河原先生も、この論文に刺激を受けて行動を起こします。回復期リハビリテーションの病院に入院して余命を待つ状況だった高齢女性に、歯科医としてできることを心がけ、口中をきれいにするケアを始めたのです。すでに点滴栄養となっており、薬を飲むことしかできなかった口の中をきれいにした上で、口からの食事を再開していったところ、2週間で筋肉の萎縮が治って、それまでできなかった運動ができるようになります。その後、この女性は海外旅行ができるまでに回復されたそうです。
「寝たきり」「認知症」を避けるために入れ歯を確認
こうしたことを機に、従来「体の問題」だと考えられていた「寝たきり」に口腔ケアが深く関わっていることが知られるようになります。「動く」という判断は脳で行われているため、「噛んで食べ、味わう」ことにより、脳にいろいろな情報を入れてあげることが重要なのです。そのプロセスで体が回復していくとともに、脳自体がより健康になる可能性も指摘されています。河原先生が強調するのは、「入れ歯になっても諦める必要はない」ということです。口の中をきれいにして、自分の好きなものをしっかり食べて味わい、全身の栄養にすることは、人間の尊厳を守ることです。入れ歯にすると口元が気になって外へ出なくなったり、人としゃべらなくなったりする人がいますが、社会性が失われていくことは認知症への何よりの近道になります。
何年も前につくった「合わない入れ歯」でよく噛めない生活に我慢している高齢者の方がたが身の回りにいないかどうか、ぜひチェックしてみてください。外科手術で取ってしまった胃や肺を再建することはできませんが、「噛んで食べる」機能は適切な入れ歯やインプラントによって再建できるのです。
「前歯で噛む」エクササイズは若者にも重要?
歯が生え出したばかりの赤ちゃんは、だれに教わることもなく前歯を使うようになり、飛躍的に脳を発達させていきます。河原先生の話を聞いた江崎グリコでは「前歯で噛むと、脳の血流がアップする」ことを実験で確かめ、ポッキーを前歯でかじろうというキャンペーンを2016年より行っています。前歯で噛むことでとくに血流がアップするのは「前頭前野」という「脳の司令塔」にもたとえられる部分です。「考える」「記憶する」「アイデアを出す」「感情をコントロールする」「判断する」「応用する」など、人間にとって重要な働きを担っているため、人間が人間らしくあるためのポイントだと言われます。「前歯で噛む」ことで、この脳を目覚めさせたり鍛えたりできるのなら、こんなに手軽でうれしいことはありませんね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12


