社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.09.19

世界と日本の貧困率

 現代社会の抱える深刻な問題の一つ、「貧困」について世界と国内の情勢を考えてみましょう。

絶対的貧困率と相対的貧困率

 貧困率には絶対的貧困率と相対的貧困率があります。絶対的貧困とは、必要最低限の生活水準を維持するための食糧・生活必需品を購入できる所得・消費水準に達していないこと。平たく言えば「衣食住」にこと欠く状態です。

 世界銀行では2015年に1日1.90米ドルの支出を「国際貧困ライン」に指定している一方、下位中所得国については3.20ドル、上位中所得国については5.50ドルを貧困ラインとするデータも測定しています。

 一方、相対的貧困のほうは、その国の生活水準や文化水準を下回る状態に陥っていること。厳密には、等価可処分所得(収入から税金や社会保険料などを除いた「手取り収入」。ただし2018年からOECDの新基準により、自動車税関連の支出、企業年金の掛け金、仕送り額も引かれることになりました)の中央値の半分を「貧困線」と呼び、そのラインに満たない所得水準の世帯を相対的貧困世帯と呼びます。

絶対的貧困の急増と新型コロナ

 世界銀行が隔年で発行する報告書「貧困と繁栄の共有」では、2020年の世界人口に占める極度の貧困層(1日1.90ドル未満で生活する人々)の割合を9.1~9.4%と予測しました。世界全体では9700万人の増加、1億1900万~2400万人が極度の貧困に陥ったと推計されています。

 2015年以来着実に減少していた貧困者の数が新型コロナウイルスのパンデミックにより増加に転じ、長期予測では7.9%まで減少するとされていた数字が2017年水準(9.2%)まで逆転してしまったのです。

 絶対的貧困層の多くはサブサハラ・アフリカ(北アフリカを除く約50カ国)や南アジアに集中しています。2015年にはその半数がわずか5カ国(インド、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、バングラデシュ)に集中していることが明らかになりました。

 わけても人口の多いインドでは新型コロナの影響が深刻です。米調査会社ピュー・リサーチ・センターの推計では、2020年の間に中間層は3200万人減り、貧困層は2倍の1億3400万人に増えたということです。

 世界的にみると、貧困層の増加は2020年だけにとどまり、2021年には世界の貧困は約2100万人減少されるとみられています。とはいえ、世界全体が回復していくのではなく、高・中所得国での貧困の減少が低所得国での貧困増加をカバーするようなかたちです。つまり、貧しい国ではコロナ禍からの立ち上がりは容易ではないということです。

相対的貧困と日本の現状

 じつは日本は、相対的貧困率の高い国です。厚生労働省が発表している「国民生活基礎調査」によると、2018年の日本における貧困線(新基準)は127(124)万円、相対的貧困率は15.4(15.7)%とされています。つまり日本人の6~7人に1人は、相対的貧困ということになるわけです。

 同じ2018年の相対的貧困率を国際比較したデータでは、日本は世界13位ですが、OECD加盟38カ国中では米国、韓国、メキシコに次ぐ4位という高さ。相対的貧困率の高い国ほど、国内の格差が大きいということです。

 政府が2015年に分析した相対的貧困世帯の特徴は、「世帯主年齢別では高齢者または30歳未満が多い」「世帯類型別では単身世帯と一人親世帯が多い」「郡部・町村居住者が多い」の三点。この前後から話題になりだした「子どもの貧困率」については、2012年が16.3%で最も高く、2018年には13.5%(新基準では14%)とやや改善がみられます。

 このような数字だけではわからない生活実感としては、日本の全世帯のうち「生活が大変苦しい」「やや苦しい」を合計した「苦しい」世帯は、2019年には54.4%を占めました。高齢者世帯では「苦しい」割合はやや低い51.7%ですが、児童のいる世帯では60.4%、母子世帯では86.7%が「苦しい」と答えています。

 コロナ禍で収入が減り、厳しい状況を余儀なくされている家庭も多いなか、高齢社会はいよいよ進行するばかりです。一過性のものと顔をそむけず、考える時期が迫っているのではないでしょうか。

<参考サイト>
2019年 国民生活基礎調査の概況:貧困率の状況│厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf
貧困と繁栄の共有 2020│世界銀行
https://www.worldbank.org/en/publication/poverty-and-shared-prosperity
世界の貧困に関するデータ│世界銀行
https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/01/08/open-data-poverty
1年を振り返って:14の図表で見る2019年│世界銀行
https://www.worldbank.org/ja/news/feature/2019/12/20/year-in-review-2019-in-charts
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
2

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの

徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために

10年の修行で自我を手放し宇宙と一体化する境地に達すると、自分中心からホリスティックな視点に変わり、物事の表と裏の共通点が見えてきて、その本質がつかめるという田口氏。人生は常に新たな命題を解き明かし続ける旅である...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/08
3

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方

戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題

保守的な軍国化によって、内戦への機運が高まっているアメリカだが、MAGAと極左という対立図式は表面的なものにすぎない。その根本に横たわっているのは白人とユダヤ人という人種の対立であり、それはカーク暗殺事件によって露...
収録日:2025/09/24
追加日:2025/11/06
東秀敏
米国大統領制兼議会制研究所(CSPC)上級フェロー
4

人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質

人間とAIの本質的な違いは?記号接地から迫る理解の本質

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(5)AIに記号接地は可能か

昨今、めざましい発展を遂げているAI技術。流暢にチャットをやりとりする生成AIはしかし、本当の意味で使っている言葉を理解することができるのだろうか。言語学習の根本にある「記号接地」問題から、人間とAIの本質的な違いに...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/14
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ

ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ

編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論

「人的資本経営」という言葉が、よく聞かれるようになりました。端的にいえば、「人材=コスト」ではなく「人材=資本」として捉え、人を大切にしていこうという考え方です。

「人を大切にする」というのは別に新しい...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/11/06