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「気候崩壊」を防ぐために今、私たちができること
近年、毎年のように「異常気象」という言葉を耳にするようになりました。日本のみならず世界中でその被害は甚大です。異常気象という言葉が、数ヶ月程度の期間の気象状態を指すのに対して、数十年といった長い期間で変化することを「気候変動」といいます。異常気象の3分の2が気候変動の影響で起こるといわれています。
さらに、気候変動に対して「気候崩壊」という言葉もあります。2019年、イギリスの新聞『ガーディアン』は、気候変動という言葉はもう使わないという方針を打ち出しました。おそらくは「事態の深刻さが正しく伝わらない」と考えたのでしょう。その代わりに使用されるようになったのが気候崩壊、あるいは「気候危機」「気候非常事態」です。それくらいに差し迫った状況にあるということです。
今回はこの差し迫った状況について、『気候崩壊 次世代とともに考える』(宇佐美誠著、岩波書店)をもとに考えてみたいと思います。著者の宇佐美誠先生は京都大学大学院地球環境学堂教授で、専門は法哲学、政治哲学、法政策学。本書は、渋谷教育学園渋谷中学高等学校での特別講義をもとに執筆されたものです。
ただし、地球史におけるすべての気候変動が自然によるものと考えるのは、やはり間違いです。とりわけ、20世紀以降の急激な気候変動は、「人間が原因」だとされています。いや、「だとされています」と書くと誤解を生む可能性もあるので、ハッキリと書いたほうがいいでしょう。20世紀以降の急激な気候変動は「人間が原因」です。もっと具体的にいうと、最大の原因は人間が排出する「温室効果ガス」です。
国別の二酸化炭素の一人当たり排出量(2018年)を見てみると、先進国の中ではオーストラリアやアメリカ、カナダなどに続いて、日本が上位に位置しています。このまま放っておけば、気候崩壊というべき状況は必ずやってくるということです。
例えば、毎年のように日本列島を襲撃する台風ですが、地球の平均気温が1度上がると、大型の台風やハリケーンなどが25~30パーセントも増えるそうです。ちなみに、人口が1千万人以上のアジアの都市は、2005年には暴風のために3兆ドルの被害を受けました。それが2070年には350兆ドルに膨らむといわれています。つまり、このままではこれからおよそ50年後に100倍以上の経済的損失をこうむるというわけです。
また、「ティッピング・ポイント」というキーワードもあります。「転換点」ともいわれるもので、「小さな変化が突然、大きくてもはや止められない変化になるような時点」のことをいいます。たとえば、南極の氷床、とりわけ西南極氷床は1992年から1997年の間に年間490億トンの氷が溶けてなくなりました。しかしながら、その10年後の2012年から2017年にかけては、なんと年間2190億トンに跳ね上がりました。
さらにティッピング・ポイントを超えれば、ドミノ倒しのように氷がますます溶けていくということです。その結果、海面も上昇します。ある推計では「数百年から1千年の間に、海面が3メートルも上昇するだろう」とされています。
氷床が解ければ、気温が上がります。気温が上がれば、熱帯林で乾燥化が進みます。乾燥化が進めば、山火事が起きやすくなるでしょう。ことわざの「風吹けば、桶屋が儲かる」のように、気候崩壊は次々と想定外の勢いで連鎖的に起こります。それだけではありません。乾燥化や砂漠化が起これば、深刻な水不足に悩まされることになります。水不足は食糧不足に直結します。
これは決してずっと先の未来の話ではありません。シリア人がヨーロッパに殺到した難民問題の背景には、気候変動による環境悪化があったとされています。そして、難民が増加すると同時に水や土地の争奪が起こり、特にアフリカでは戦争や内戦が激しくなることも強く懸念されています。
わかりやすい例を挙げると、「排出権をどう分配するか」「将来世代への配慮をどのように考えるか」「そもそも誰に責任があるのか」などがテーマになります。そもそも「気候正義」は、学問の名前となる前に環境活動家のデモや集会で使われていた言葉でした。
環境活動家といえば、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが今ではとてもよく知られています。こうした市民運動は世界的な広がりを見せています。2016年にオーストラリアの小さな市から始まった「気候非常事態宣言」は、2020年にはついに日本の衆議院・参議院でも宣言が行われるにまでいたりました。
宇佐美先生はこのように書いています。「私たちにできることは、まず、科学的事実を調べて正確に知ること。次に、事実に基づいて自分自身の意見を作ること。そして、自分の知識や意見を周りの人に話すこと」
コロナ禍の今、いずれもインターネットを使えば誰にでもできることです。本書を読んだ後、ぜひ実践してみてください。
さらに、気候変動に対して「気候崩壊」という言葉もあります。2019年、イギリスの新聞『ガーディアン』は、気候変動という言葉はもう使わないという方針を打ち出しました。おそらくは「事態の深刻さが正しく伝わらない」と考えたのでしょう。その代わりに使用されるようになったのが気候崩壊、あるいは「気候危機」「気候非常事態」です。それくらいに差し迫った状況にあるということです。
今回はこの差し迫った状況について、『気候崩壊 次世代とともに考える』(宇佐美誠著、岩波書店)をもとに考えてみたいと思います。著者の宇佐美誠先生は京都大学大学院地球環境学堂教授で、専門は法哲学、政治哲学、法政策学。本書は、渋谷教育学園渋谷中学高等学校での特別講義をもとに執筆されたものです。
20世紀以降の急激な気候変動は「人間が原因」
さて気候変動ですが、実は私たち人間が生まれるはるか昔からありました。ご存知かもしれませんが、かつては地球が凍ってしまった「全地球凍結」や、「無氷河期」といって地球上に氷河のまったくない時代もありました。このように、現在の気候変動も自然によるものなら、今さらあたふたしたところで仕方がないのではないかとも思えてきます。ただし、地球史におけるすべての気候変動が自然によるものと考えるのは、やはり間違いです。とりわけ、20世紀以降の急激な気候変動は、「人間が原因」だとされています。いや、「だとされています」と書くと誤解を生む可能性もあるので、ハッキリと書いたほうがいいでしょう。20世紀以降の急激な気候変動は「人間が原因」です。もっと具体的にいうと、最大の原因は人間が排出する「温室効果ガス」です。
放っておけば、気候崩壊は必ずやってくる
現在の気候変動の原因が人間にあることを強調したのには理由があります。実は残念ながら日本には「気候変動は存在しない」「気候変動は人間のせいではない」と考える気候変動否定論者が少なくありません。しかし、気候変動が人為的であることは科学的な事実です。これを否定するということは、科学を信じていないということになります。著者の宇佐美先生はこのことを非常に危惧しています。国別の二酸化炭素の一人当たり排出量(2018年)を見てみると、先進国の中ではオーストラリアやアメリカ、カナダなどに続いて、日本が上位に位置しています。このまま放っておけば、気候崩壊というべき状況は必ずやってくるということです。
例えば、毎年のように日本列島を襲撃する台風ですが、地球の平均気温が1度上がると、大型の台風やハリケーンなどが25~30パーセントも増えるそうです。ちなみに、人口が1千万人以上のアジアの都市は、2005年には暴風のために3兆ドルの被害を受けました。それが2070年には350兆ドルに膨らむといわれています。つまり、このままではこれからおよそ50年後に100倍以上の経済的損失をこうむるというわけです。
また、「ティッピング・ポイント」というキーワードもあります。「転換点」ともいわれるもので、「小さな変化が突然、大きくてもはや止められない変化になるような時点」のことをいいます。たとえば、南極の氷床、とりわけ西南極氷床は1992年から1997年の間に年間490億トンの氷が溶けてなくなりました。しかしながら、その10年後の2012年から2017年にかけては、なんと年間2190億トンに跳ね上がりました。
さらにティッピング・ポイントを超えれば、ドミノ倒しのように氷がますます溶けていくということです。その結果、海面も上昇します。ある推計では「数百年から1千年の間に、海面が3メートルも上昇するだろう」とされています。
氷床が解ければ、気温が上がります。気温が上がれば、熱帯林で乾燥化が進みます。乾燥化が進めば、山火事が起きやすくなるでしょう。ことわざの「風吹けば、桶屋が儲かる」のように、気候崩壊は次々と想定外の勢いで連鎖的に起こります。それだけではありません。乾燥化や砂漠化が起これば、深刻な水不足に悩まされることになります。水不足は食糧不足に直結します。
これは決してずっと先の未来の話ではありません。シリア人がヨーロッパに殺到した難民問題の背景には、気候変動による環境悪化があったとされています。そして、難民が増加すると同時に水や土地の争奪が起こり、特にアフリカでは戦争や内戦が激しくなることも強く懸念されています。
気候崩壊の問題を解決するための学問「気候正義論」
ではどうすればいいのか。気候変動、気候崩壊という問題を解決するための学問があります。それが「気候正義論」です。気候正義論の特徴として、大きく三つ挙げられます。第一に気候変動という現実問題を哲学的に捉えるということ、第二に社会制度や国際制度として捉えるということ、第三に負担や便益をどのように分配すればいいかを考えるということです。わかりやすい例を挙げると、「排出権をどう分配するか」「将来世代への配慮をどのように考えるか」「そもそも誰に責任があるのか」などがテーマになります。そもそも「気候正義」は、学問の名前となる前に環境活動家のデモや集会で使われていた言葉でした。
環境活動家といえば、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが今ではとてもよく知られています。こうした市民運動は世界的な広がりを見せています。2016年にオーストラリアの小さな市から始まった「気候非常事態宣言」は、2020年にはついに日本の衆議院・参議院でも宣言が行われるにまでいたりました。
私たちにできること
とはいえ、気象変動、気候崩壊に対して、私たち個人ができることはほんのわずかに過ぎないことも事実です。それなら、「私たちが行動したところで何も変わらないじゃないか」、そう思う方もいらっしゃると思います。しかし、諦めるのはまだ早いというべきでしょう。宇佐美先生はこのように書いています。「私たちにできることは、まず、科学的事実を調べて正確に知ること。次に、事実に基づいて自分自身の意見を作ること。そして、自分の知識や意見を周りの人に話すこと」
コロナ禍の今、いずれもインターネットを使えば誰にでもできることです。本書を読んだ後、ぜひ実践してみてください。
<参考文献>
『気候崩壊 次世代とともに考える』(宇佐美誠著、岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b583341.html
<参考サイト>
宇佐美誠先生の研究室のホームページ
http://www.envpolicy.ges.kyoto-u.ac.jp/
『気候崩壊 次世代とともに考える』(宇佐美誠著、岩波書店)
https://www.iwanami.co.jp/book/b583341.html
<参考サイト>
宇佐美誠先生の研究室のホームページ
http://www.envpolicy.ges.kyoto-u.ac.jp/
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