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DATE/ 2021.10.26

店舗を持たない「ゴーストレストラン」とは?

増加中のゴーストレストランとは?

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、外食の機会を減らした方は多いですよね。そして、その代わりにデリバリーを利用する機会が増えた方も多いでしょう。外食・中食市場の情報サービスを行うエヌピーディー・ジャパンのレポートによると、2019年との同月比で今年5月のイートインの売上は52.3%減、デリバリーの売上は159%増となっており、多くの人が外出を避けて自宅で食事を取っていることがわかります。

 このような状況のなかで急増しているのが、ゴーストレストランという飲食店です。デリバリーやテイクアウトの利用者のみを対象にした営業形態で、イートインには非対応のため、客席はありません。アメリカで生まれたビジネススタイルといわれ、日本では2019年頃から話題に上るようになりました。

 デリバリーの場合、ウーバーイーツなどのオンラインデリバリーシステムを利用するので、利用者がゴーストレストランのお店を直接見ることはありません。つまり、アプリに掲載された情報がすべてです。実態がわかりにくいお店なので、“ゴースト”と呼ばれるのですね。

経営側にはメリットが多い

 イートイン利用客が激減したコロナ禍の時代だからこそ、注目が集まるゴーストレストラン。急増の背景には経営側のメリットが多いことも上げられます。それは主に次の3点です。

 初期費用を安く抑えられる:ゴーストレストランは設備としてキッチンさえあれば開業できます。客席はないのでテーブルセットもインテリアも必要ありません。そしてスタッフは調理担当者さえいれば問題なく、接客担当者は必要ありません。さらに、オンラインデリバリーシステムに登録すれば利用者が検索して見つけてくれるので、宣伝する必要もないのです。客席があるレストランを開くよりも初期費用がかからないので、開業のハードルが低くなります。

 場所代を安く抑えられる:お客を直接迎えるレストランは、繁華街や駅前などの人通りが多い場所に店舗を出さないと来客数が伸びませんよね。このため、高額な場所代を払って一等地を確保しなければなりません。しかし、アプリを通して注文が入り、そのたびに配達員が料理をお客に運んでくれるゴーストレストランは、店舗がどこにあっても売上への影響がほとんどないのです。このため、場所代が安い住宅街などに出店しても無理なく営業できます。

 ひとつのお店で複数のジャンルを同時に扱える:ゴーストレストランの台頭前から、ピザやお寿司のデリバリーショップはありますが、それらのお店が同じ店舗で別のジャンルの料理をつくることはありませんでした。一方のゴーストレストランでは、ひとつの店舗で複数のジャンルの料理をつくっていることがよくあります。こうして各ジャンルにお店を登録すれば、いろいろな料理をつくるひとつの店舗として登録するよりも検索されるチャンスが増えるのです。

本当に専門店なのかはわからない

 複数のジャンルの料理を扱うゴーストレストランでは、お米でリゾットとお茶漬けをつくったり、リゾットとサイドメニューのスープに同じコンソメを使ったりと、食材をうまく組み合わせてメニューを開発しています。このような業務の効率化は立派な企業努力といえますが、一方で複数のジャンルの料理を同じ調理担当者つくっているにもかかわらず、「専門店」を名乗るゴーストレストランが増えており、社会的に問題があるとの指摘も出ています。

 「特定の料理を専門的に扱っている」と掲げることは、その料理に関してはクオリティが高く味がよいと表明することになります。しかし実際には専門店ではないので、本物の専門店ほどのクオリティは出せないでしょう。そうすると、商品やサービスの品質などを偽って表示することを規制する景品表示法に違反するとも考えられるため、規制しないと社会問題に発展する可能性もあるのです。

 専門店を名乗るゴーストレストランのなかには、業務用に開発された冷凍食品を解凍しただけの料理を出すところもあるようです。近年の冷凍食品は高品質のものが増えていますが、だからといってわざわざ専門店で食べるものとは違いますよね。

 ゴーストレストランは食べログなどの口コミサイトには載っていないことも多く、利用してみないとなかなか正体が把握できません。すべてのゴーストレストランがあやしいわけではありませんが、初回は期待しすぎず、お試し感覚で注文するくらいがちょうどいいかもしれませんね。

<参考サイト>
ゴーストレストランって? 「1つのキッチンで25店分」 コロナ禍で急増中│東京新聞ウェブ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/79006
話題のゴーストキッチンは何が問題か? 冷凍食品を温めた料理も│日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/plus/00006/070800003/
5月の外食・中食市場/売上26.3%減、デリバリー159%増で20年5月に次ぐ伸び│流通ニュース
https://www.ryutsuu.biz/strategy/n070873.html

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テンミニッツTV編集部
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