テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.12.27

「認知症介護」で最も大事なこととは

 親の様子が最近なんだかおかしい。くどくどと何度も同じことを念押しするかと思えば、そわそわ立ったり座ったりをただ繰り返す。ひょっとしたら認知症なのではないか。そう気づいたとき、いきなり施設への入所を考える人はまずいないでしょう。親と同居にせよ、別居にせよ、子どもなら親ができるだけ長く慣れ親しんだ自分の家で暮らせるように、家族で介護したいとまず考えるのはごく自然なことです。

 しかし、一口に「在宅介護」といっても、なかなか容易なことではありません。そこで、元・国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 長寿医療研修センター長である遠藤英俊氏に、どのようなことに注意しながら認知症患者の在宅介護をすればよいのかについて、お聞きしました。

「介護者」ではなく「被介護者」を真ん中に置く

 家族で介護する場合、ついつい介護者(介護をする人のこと)の都合や目線となる「ファミリーセンタードケア」になりがちですが、そうではなくあくまでも被介護者(あるいは要介護者、介護を受ける人のこと)を中心とした考え方「パーソンセンタードケア」で行うべきだ、と遠藤氏は言います。

 そのためには、認知症「患者」と上述しましたが、認知症は「病気である」と理解することが重要です。病気ですから、認知症にはさまざまな「症状」があります。それは記憶障害、いわゆる物忘れだけではありません。常に不安がっている。やたら怒りっぽい。ちっともじっとしていられず、多動である。時間の感覚がおかしい。このような「行動・心理症状」(BPSD)と呼ばれる、さまざまな行動や心理状態の異常が、特に認知症発症の入り口から中程度の時期にかけて見られるということです。

 遠藤氏は、これらの行動・心理症状にはなんらかの意味があるはずなので、これらの異常を本人のメッセージとして聴くことが必要だと説きます。たとえば、座っていたと思うとすぐに台所をのぞきこむ、といった場合。これはもしかしたら「ちゃんと食事を出してもらえるか」と心配で確かめにいっているのかもしれません。やたら立ち上がってはどこかに行こうとして、また戻ってくる場合。排せつをしたいが自分ひとりではうまくできない、と不安なのかもしれません。

 このような場合は、本人の行動をよく観察し、何をしたがっているのか、何を気にしているのかを察知して、「もう少ししたら一緒にご飯を食べましょうね」「お手洗いはこっち。なにか手伝おうか」と、適宜声かけをしましょう。このようなことで、本人は一時的にでも不安が軽減されて落ち着きを取り戻すことがあるのです。くれぐれも「じゃまだからじっとしていて」などと、介護者や家族の都合のみで応対しないようにすること、つまり「ファミリーセンタード」ではなく「パーソンセンタード」が肝要なのです。

 また、認知度の低下の程度によっては薬が必要になることもあるかもしれません。薬である程度、幻覚、幻聴、妄想が緩和されることもあるのですが、必ず専門の医師のアドバイスに従いましょう。強い薬は症状にはよく効く反面、身体機能に影響したりすることもあり、デメリットが伴うものです。家族は「クスリのリスク」をきちんと認識すべきで、そのうえで周囲の都合ではなく、本当に本人のためになる薬は何なのか、どの程度のものなのかを考えなければなりません。

一人で頑張らずに仲間を増やす

 介護においては、「介護者ファースト」であってはならないのはもちろんですが、「被介護者ファースト」オンリーで介護者が頑張りすぎるのも問題です。最適な介護を目指すあまり、頑張りすぎて続けられなくなってしまっては、元も子もありません。大事なのは、「○○ファースト」、「○○優先」よりも、大事な人を真ん中に置いて考えようとすること。いつもその周りにいて、真ん中を向いているということが大切なのではないでしょうか。

 介護者が一人で介護を抱え込まないようにするためにも、たとえば、公的サービス、サポートもうまく利用したり、また認知症カフェなどで同じ悩みをもつ人たちと情報シェアをするなど、何人もの「仲間」をつくったりすることも覚えておくといいでしょう。

 介護を受ける親の姿は、何年か先の自分へのメッセージを発信しているのかもしれない。そう思って、大切な人に目を向け、耳を傾けましょう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

なぜ『ホトトギス』に注目?江藤淳の「リアリズムの源流」

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(2)江藤淳の「リアリズムの源流」

文芸評論を再考するに当たり、江藤淳氏の「リアリズムの源流」を振り返ってみる。一般的に日本で近代小説が始まった起源は坪内逍遥だといわれるが、江藤氏はそれに疑問を呈す。そして注目したのが、夏目漱石の「坊ちゃん」であ...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/07/02
與那覇潤
評論家
2

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

ヨーロッパとは?地図で読み解く地政学と国際政治の関係

地政学入門 ヨーロッパ編(1)地図で読むヨーロッパ

国際政治の戦略を考える上で今やかかせない地政学の視座。今回のシリーズではヨーロッパに焦点を当て、地政学の観点から情勢分析をする。第1話目では、まず地政学の要点をおさらいし、常に揺れ動いてきた「ヨーロッパ」という領...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/05/05
小原雅博
東京大学名誉教授
3

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
4

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?

キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか

キリスト教とは何か。「文明の衝突」が世界中で現実化する中、この問題は日本人にとっても重要なものになっている。上智大学神学部教授・竹内修一氏は、「キリスト教とは何か」という問いは、同時に「イエスとは誰なのか」も意...
収録日:2016/12/26
追加日:2017/02/28
竹内修一
上智大学神学部教授
5

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者