社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
「子どものスポーツ格差」――体力二極化問題を考える
近年、「格差」という言葉が一つのトレンドワードになっています。その切り口はさまざまで、教育格差や医療格差から、保育格差、夫婦格差、キャリア格差、健康格差、定年格差、マンション格差、沿線格差、都道府県格差、そして葬式格差まであります。
その一つに「スポーツ格差」があるのですが、皆さん聞いたことがありますでしょうか。経済格差は教育格差につながるというのはよく言われていることですが、同様にして経済格差はスポーツ格差にもつながるということです。
今回はスポーツ格差とは何かについて『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(清水紀宏編著、大修館書店)を参照しながらご案内いたします。なお、編著者の清水紀宏氏は筑波大学体育系教授で、専門分野はスポーツ経営学です。
それが2018年には13.5パーセントに下がり、少々改善はされましたが、それでも7人に1人という割合です。さらに驚くべきは「ひとり親世帯」に絞って統計をとってみると貧困率は58.7パーセント。これはOECD加盟諸国中でトップ(最悪)でした。
子どもの貧困にかぎらず、日本の格差は世界でトップクラスといっていいほど広がっているのです。
先述の清水氏はスポーツ格差のことを次のように定義づけています。
「子どもが生まれ育つ家庭・地域・学校など生活環境の条件が原因となって生じる、1:スポーツ機会へのアクセス、2:運動・スポーツ習慣(スポーツライフ)、3:運動・スポーツ活動への意欲、4:体力・運動能力水準等、スポーツ活動によって獲得されるアウトカム、にかかわる許容できない不当で不平等な差異。」
この「許容できない不当で不平等な差異」とどういうことなのでしょうか。
たとえば、人格形成に大きな影響を与えるようなことがあるとしたら、「許容できない不当で不平等な差異」といっても大袈裟ではないでしょう。実はスポーツにはそのくらいの影響力があります。
身近な例を挙げると、みなさんも経験のあることだと思いますが、「スポーツができる」ことは学校のクラスの人気者の一つの条件になっています。これは統計でも明らかになっています。
一方、スポーツが好きではない、スポーツが不得意な子は、相対的に学校生活への満足度が低く、友人関係も築きにくく孤独に過ごす傾向にあるということも明らかになっているのです。また、学力の低い子は体力・運動能力も低い傾向にあるということが明らかになっています。
ということで、学校生活への満足度と学力という、この二点だけとっても、スポーツとの関わりが「許容できない不当で不平等な差異」になりうることが納得できるのではないでしょうか。
財源について清水氏は、スポーツ振興くじ(toto)の助成金の費目に「子どもスポーツ援助金」のような枠を新設することを提案しています。スポーツ振興くじの趣旨と照らし合わせてみても、これはかなり現実的な提案なのではないでしょうか。
いま日本ではスポーツ・ベッティングの導入も議論され始めています。スポーツ・ベッティングは直訳するとスポーツへの賭け事という意味になりますが、欧米ではかなり盛んになっており、政府内にはこれを財源にして部活動の費用に充てるという案も浮上しているようです。
もちろんどんな方法をとるにしても、メリットとデメリットがあります。具体的にどんな解決策が相応しいのかは慎重に検討していく必要がありますが、清水氏の主張しているように、スポーツ格差の影響が、つまり体力の格差がその人の人生にどれほど多大な影響を与えているのかという点は、いち早く、なるべく多くの人に共有されるべきではないでしょうか。そのためにも本書は貴重な一冊になることでしょう。
その一つに「スポーツ格差」があるのですが、皆さん聞いたことがありますでしょうか。経済格差は教育格差につながるというのはよく言われていることですが、同様にして経済格差はスポーツ格差にもつながるということです。
今回はスポーツ格差とは何かについて『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(清水紀宏編著、大修館書店)を参照しながらご案内いたします。なお、編著者の清水紀宏氏は筑波大学体育系教授で、専門分野はスポーツ経営学です。
日本の貧困率は世界でトップクラス
まずはどのくらい日本の中で経済格差が広がっているのかを確認しておきましょう。これは「子どもの貧困」に着目するとよくわかります。子どもの貧困率は2003年の時点で13.7パーセントでした。それが2012年には16.3パーセントにまで上昇。つまり、子どもの6人に1人が生活困窮状態に陥っていることになります。1学級で考えると、およそ6人の割合です。それが2018年には13.5パーセントに下がり、少々改善はされましたが、それでも7人に1人という割合です。さらに驚くべきは「ひとり親世帯」に絞って統計をとってみると貧困率は58.7パーセント。これはOECD加盟諸国中でトップ(最悪)でした。
子どもの貧困にかぎらず、日本の格差は世界でトップクラスといっていいほど広がっているのです。
スポーツ格差の「許容できない不当で不平等な差異」とは何か
以上の日本の格差状況を踏まえた上で、本題の「スポーツ格差」について考えてみましょう。先述の清水氏はスポーツ格差のことを次のように定義づけています。
「子どもが生まれ育つ家庭・地域・学校など生活環境の条件が原因となって生じる、1:スポーツ機会へのアクセス、2:運動・スポーツ習慣(スポーツライフ)、3:運動・スポーツ活動への意欲、4:体力・運動能力水準等、スポーツ活動によって獲得されるアウトカム、にかかわる許容できない不当で不平等な差異。」
この「許容できない不当で不平等な差異」とどういうことなのでしょうか。
たとえば、人格形成に大きな影響を与えるようなことがあるとしたら、「許容できない不当で不平等な差異」といっても大袈裟ではないでしょう。実はスポーツにはそのくらいの影響力があります。
身近な例を挙げると、みなさんも経験のあることだと思いますが、「スポーツができる」ことは学校のクラスの人気者の一つの条件になっています。これは統計でも明らかになっています。
一方、スポーツが好きではない、スポーツが不得意な子は、相対的に学校生活への満足度が低く、友人関係も築きにくく孤独に過ごす傾向にあるということも明らかになっているのです。また、学力の低い子は体力・運動能力も低い傾向にあるということが明らかになっています。
ということで、学校生活への満足度と学力という、この二点だけとっても、スポーツとの関わりが「許容できない不当で不平等な差異」になりうることが納得できるのではないでしょうか。
スポーツの無償化のために
スポーツ格差が想像以上に由々しき事態であることはわかりました。では、スポーツ格差を改善するためにはどうすればいいのか。清水氏は「スポーツの無償化」を提案しています。ただし、こうした提案に対しては「財源はどうするんだ」という声が必ずあがります。財源について清水氏は、スポーツ振興くじ(toto)の助成金の費目に「子どもスポーツ援助金」のような枠を新設することを提案しています。スポーツ振興くじの趣旨と照らし合わせてみても、これはかなり現実的な提案なのではないでしょうか。
いま日本ではスポーツ・ベッティングの導入も議論され始めています。スポーツ・ベッティングは直訳するとスポーツへの賭け事という意味になりますが、欧米ではかなり盛んになっており、政府内にはこれを財源にして部活動の費用に充てるという案も浮上しているようです。
もちろんどんな方法をとるにしても、メリットとデメリットがあります。具体的にどんな解決策が相応しいのかは慎重に検討していく必要がありますが、清水氏の主張しているように、スポーツ格差の影響が、つまり体力の格差がその人の人生にどれほど多大な影響を与えているのかという点は、いち早く、なるべく多くの人に共有されるべきではないでしょうか。そのためにも本書は貴重な一冊になることでしょう。
<参考文献>
・『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(清水紀宏編著、大修館書店)
https://www.taishukan.co.jp/book/b593444.html
<参考サイト>
筑波大学 体育・スポーツ経営学研究室
https://tsukuba-sport-management-lab.jimdofree.com/
・『子どものスポーツ格差 体力二極化の原因を問う』(清水紀宏編著、大修館書店)
https://www.taishukan.co.jp/book/b593444.html
<参考サイト>
筑波大学 体育・スポーツ経営学研究室
https://tsukuba-sport-management-lab.jimdofree.com/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
収録日:2022/04/12
追加日:2023/07/23
横井小楠が説く「世界の幸せのお世話係」こそ日本の使命
徳と仏教の人生論(4)克己と天壌無窮
西郷隆盛が悟った「克己」、『日本書紀』に出てくる「天壌無窮」、これらの重要性をはじめ、東洋思想における欲望と肉体の関係については、まさに宇宙との対話につながる論理である。また、儒・仏・道・禅・神道の5つの東洋思想...
収録日:2025/05/21
追加日:2025/11/01
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キ...
収録日:2017/04/04
追加日:2017/06/13
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
「習近平中国」「習近平時代」における中国内政の特徴を見る上では、それ以前との比較が欠かせない。「中国は、毛沢東により立ち上がり、鄧小平により豊かになり、そして習近平により強くなる」という彼自身の言葉通りの路線が...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/09/25


