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『学級経営の失敗学』から学ぶ身近な「失敗」との向き合い方
もうすぐ桜の季節です。桜といえば、入学式を思い浮かべる方も少なくないでしょう。新しい学校生活に期待や不安を抱えながら、新年度を迎える子どもたち──しかし、その期待と不安を抱くのは、子どもたちだけではありません。子どもたちを受け入れる学校の先生たちも同じ思いのなか、新入生への対応や、新学級をどう運営して行くかといった課題に取り組んでいます。そんな先生たちに向けて書かれた一冊が、『学級経営の失敗学』(村上仁志著、明治図書出版)です。
「学級経営」というと、一般企業ではたらく多くの社会人には、何やら縁遠くて「自分は先生じゃないし……」と思われるかもしれません。しかし、「学級経営」には縁遠くとも、「失敗」は非常に身近なもの。たとえば、ペンケースや定期券を忘れたといった小さな失敗から、大事な商談での痛恨の失言、業績を左右するような巨大なミスまで、これまでの生活を振り返ると、わたしたちの人生はいろいろな「失敗」に彩られているといえるのではないでしょうか。
しかし、いつまでも「失敗」を引きずってはいられませんよね。本書で語られる「失敗学」とはどんなものか、何が学べるのか、みていくことにしましょう。
そんな村上先生は、本書の冒頭で「学校の失敗でこんなことはありませんか?」と問いかけています。そこには、「必要連絡を忘れていた」「子どもの名前を間違えて呼ぶ」「周りの先生のよくない話をしていて本人に聞かれてしまった」といった失敗例が並びます。教育に携わっていない方でも、少し思い返すだけで「私も…」と身に覚えがあるという方はいるのではないでしょうか。「上司や後輩への連絡不備」「取り引き先の担当者の名前を間違える」「うっかり聞かれてしまった同僚(上司)への愚痴」……などなど、人によっては思い出すだけで負のスパイラルに入ってしまうかもしれません。つまり、本書では「学級経営」という具体例を用いてはいますが、多くの人にとってとても身近な「失敗」との向き合い方を示しているのです。
しかし、村上先生は一言「全部大丈夫な失敗です」と言い切ってくれます。ならばどうして、こうした失敗は「大丈夫」なのでしょうか。
「本書を手に取った人は、これらが失敗だと気づいているはずです(認知)。気づくことから、改善の行動は始まります」
しかし、そういわれても、失敗を糧にするというのは、事態が大きかったり、長期にわたって失敗をくり返していたりするほど、勇気も根気も必要になります。自分に向き合い、知識や情報をアップデートしていくことは、成長すればするほど難しくなるものです。そこで村上先生はこう続けます。
「これら全ての失敗を行動経済学、臨床心理学、教育社会学などの学問の知見をもとに、背景の把握を行うことで新たな成長につなげましょう」
失敗を解決しようとしても、その考える道筋が間違っていると事はうまく運びません。起きてしまった失敗に対して、漠然と「次はこうしよう」と考えることはあるでしょう。しかし、いわゆる〝かん〟で失敗から学ぼうとしても、正しい学術的な知識がなければ〝改善しているつもり〟で終わってしまうかもしれません。知識を身につけることは、考え方の裏付けを取ることです。「失敗」を一つの情報として受け止め、分析と改善を行う。それが〝失敗学〟なのです。
こうした問題を提示するとともに、どこに失敗があるのかということをさまざまな心理現象をもとに説明しています。ハロー効果、ハインリッヒの法則、デビル効果などから、その「失敗の背景」を探ることができます。どうして失敗したのかがわかれば、次はそれをどう改善して行くか、です。
心理学的なアプローチを取る本はさまざまありますが、本書は決して論文のようなテイストではなく、実際に教壇に立たれている先生の経験と、学術的な知識が融合することによって、より実践的な問題解決への道を示しています。
「失敗学において一番気をつけることは、失敗によってあなたが心身の不調や悩みを抱えることです。あなたの心身が一番大切です」
本書のなかでは、失敗に対する技術的なアプローチだけでなく、ネガティブ思考との付き合い方や、カウンセリングのすすめなど、心をどうしたら整えることができるのかといったことにも触れています。
人は誰しも「失敗」を経験するもの。大人になると、子どものころに完璧に見えていた大人はじつはそうでもなく、それぞれがそれぞれの年齢で新しい失敗を繰り返していたことがわかります。
「失敗は成功の母」という言い方もありますが、本書を読んでいくうちに【「失敗」は「過程」であり、「結果」ではない】ということに気づくはずです。学校の教員のみなさんはもちろん、失敗に悩み、失敗を恐れた経験のある方にも、ぜひ一度手に取っていただきたい貴重な一冊です。
「学級経営」というと、一般企業ではたらく多くの社会人には、何やら縁遠くて「自分は先生じゃないし……」と思われるかもしれません。しかし、「学級経営」には縁遠くとも、「失敗」は非常に身近なもの。たとえば、ペンケースや定期券を忘れたといった小さな失敗から、大事な商談での痛恨の失言、業績を左右するような巨大なミスまで、これまでの生活を振り返ると、わたしたちの人生はいろいろな「失敗」に彩られているといえるのではないでしょうか。
しかし、いつまでも「失敗」を引きずってはいられませんよね。本書で語られる「失敗学」とはどんなものか、何が学べるのか、みていくことにしましょう。
身近な失敗がなぜ「大丈夫な失敗」なのか
さてまず本書を執筆された村上仁志氏ですが、ご自身も小学校の理科の教員として教壇に立つ現役の先生です。一方、子どもたちの心のケアに悩んだ経験から、大学院に通い臨床心理士の資格を取得したという経歴の持ち主でもあり、子どもの表現力を向上させる、漫才や伝統芸能を用いたユニークな教育を行うなど、メディアにも注目されています。そんな村上先生は、本書の冒頭で「学校の失敗でこんなことはありませんか?」と問いかけています。そこには、「必要連絡を忘れていた」「子どもの名前を間違えて呼ぶ」「周りの先生のよくない話をしていて本人に聞かれてしまった」といった失敗例が並びます。教育に携わっていない方でも、少し思い返すだけで「私も…」と身に覚えがあるという方はいるのではないでしょうか。「上司や後輩への連絡不備」「取り引き先の担当者の名前を間違える」「うっかり聞かれてしまった同僚(上司)への愚痴」……などなど、人によっては思い出すだけで負のスパイラルに入ってしまうかもしれません。つまり、本書では「学級経営」という具体例を用いてはいますが、多くの人にとってとても身近な「失敗」との向き合い方を示しているのです。
しかし、村上先生は一言「全部大丈夫な失敗です」と言い切ってくれます。ならばどうして、こうした失敗は「大丈夫」なのでしょうか。
失敗を解決するためには正しい知識が必要
村上先生の語る「大丈夫」は、〝ならば、急いで必要連絡をすればいい〟といった、その場限りのリカバリーの話ではありません。まずは、「失敗が起きた」ということに気づくことが大切だということです。本書の「はじめに」でこう話しています。「本書を手に取った人は、これらが失敗だと気づいているはずです(認知)。気づくことから、改善の行動は始まります」
しかし、そういわれても、失敗を糧にするというのは、事態が大きかったり、長期にわたって失敗をくり返していたりするほど、勇気も根気も必要になります。自分に向き合い、知識や情報をアップデートしていくことは、成長すればするほど難しくなるものです。そこで村上先生はこう続けます。
「これら全ての失敗を行動経済学、臨床心理学、教育社会学などの学問の知見をもとに、背景の把握を行うことで新たな成長につなげましょう」
失敗を解決しようとしても、その考える道筋が間違っていると事はうまく運びません。起きてしまった失敗に対して、漠然と「次はこうしよう」と考えることはあるでしょう。しかし、いわゆる〝かん〟で失敗から学ぼうとしても、正しい学術的な知識がなければ〝改善しているつもり〟で終わってしまうかもしれません。知識を身につけることは、考え方の裏付けを取ることです。「失敗」を一つの情報として受け止め、分析と改善を行う。それが〝失敗学〟なのです。
「失敗の背景」を学ぶことで改善の方向性を見いだす
本書の構成は、序章から1~6章に分かれており、「学級開き、スタートダッシュならず…」「模範的でない自分は、教師失格かも…」「保護者にも同僚にも、助けてもらえない…」といった、先生たちが抱えがちな不安や失敗をテーマに、細かな具体例が記されています。あくまで本書であげられている例は架空のものですが、「生徒が授業中もおしゃべりをやめない」「教科書にこだわり過ぎて授業の幅が広がらない」「SNSでバズった名言を披露したものの生徒から反応がない」など、いかにもありそうな話が盛りだくさんです。こうした問題を提示するとともに、どこに失敗があるのかということをさまざまな心理現象をもとに説明しています。ハロー効果、ハインリッヒの法則、デビル効果などから、その「失敗の背景」を探ることができます。どうして失敗したのかがわかれば、次はそれをどう改善して行くか、です。
心理学的なアプローチを取る本はさまざまありますが、本書は決して論文のようなテイストではなく、実際に教壇に立たれている先生の経験と、学術的な知識が融合することによって、より実践的な問題解決への道を示しています。
「失敗」は「過程」であり、「結果」ではない
一方、村上先生は気をつけることとしてこう話します。「失敗学において一番気をつけることは、失敗によってあなたが心身の不調や悩みを抱えることです。あなたの心身が一番大切です」
本書のなかでは、失敗に対する技術的なアプローチだけでなく、ネガティブ思考との付き合い方や、カウンセリングのすすめなど、心をどうしたら整えることができるのかといったことにも触れています。
人は誰しも「失敗」を経験するもの。大人になると、子どものころに完璧に見えていた大人はじつはそうでもなく、それぞれがそれぞれの年齢で新しい失敗を繰り返していたことがわかります。
「失敗は成功の母」という言い方もありますが、本書を読んでいくうちに【「失敗」は「過程」であり、「結果」ではない】ということに気づくはずです。学校の教員のみなさんはもちろん、失敗に悩み、失敗を恐れた経験のある方にも、ぜひ一度手に取っていただきたい貴重な一冊です。
<参考文献>
『学級経営の失敗学』(村上仁志著、明治図書出版)
https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-440517-2
<参考サイト>
村上仁志先生のホームページ
https://jinta7.wixsite.com/japanesemurakami
『学級経営の失敗学』(村上仁志著、明治図書出版)
https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-440517-2
<参考サイト>
村上仁志先生のホームページ
https://jinta7.wixsite.com/japanesemurakami
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