テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2022.07.17

タクシーの燃料は「ガソリン」じゃない!?

 タクシーと一般車両はいくつかの違いがあります。タクシーは自動ドアだったり、料金メーターがついていたりといった点はもちろん一般車両にはないポイントです。しかし最も大きな違いは燃料にあります。日本のタクシーのおよそ8割(17万台程度)はガソリン車ではなく、LPG(LPガス)を燃料としています。これはなぜなのでしょうか。

LPGはコストが安くて環境に優しい

 LPG(LPガス)とはLiquefied Petroleum Gasの略、つまり「液化石油ガス」のことです。家庭用にも普及しているプロパンガスもLPガスの一種です。これは原油のほか天然ガスからも取り出すことのできる、気体燃料のプロパンやブタンなどを液化させたもの。さらにこれを気体にして供給するのがLPGステーションです。

 これが燃料として採用される最も大きな理由はコストです。LPガスもガソリンと同様価格変動しますが、ガソリンよりも安価で、おおよそガソリンの6割程度です。なぜ安いのかといえば、LPガスにかかる税金が、ガソリンよりも低く設定されているから。LPガスは一般家庭でも広く利用されていることから、税率を高く設定できないということが関係しているようです。

 また、ガソリンや軽油に比べてLPガスはCO2の排出量も少ないことから、環境にも配慮したエネルギーと考えられています。さらにジャパンタクシーなどのハイブリッドシステムと組み合わせれば、環境性能は格段にアップします。また、ディーゼルエンジンで特に問題となる、NOx(窒素酸化物、光化学スモッグや酸性雨の原因)などの排出量も少ないとされています。

 さらに、安定供給という点でも優れています。実際に東日本大震災でガソリンの供給が滞った際でもLPガスの供給は安定していたことから、物資や人の輸送に活躍しました。またLPガス施設は、大地震でも安全な耐震・耐火構造になっているとのこと。

LPGステーションは少ない

 もちろんデメリットもあります。一つ目は、ガソリンに比べてタンクがどうしても大きくなってしまう点です。ジャパンタクシー以前のタクシーにセダンが多かったのは、トランクにタンクを積みやすかったから。また、このタンクは安全対策として6年ごとに検査があり、必要に応じて交換しなければなりません。交換費用はおよそ10万円程度かかるようです。

 最も大きな問題はLPGステーションの数が少ない点です。ガソリンスタンドは全国におよそ3万店程度ありますが、LPGステーションの数は全国に1500店弱とたいへん少ないです。こういった現状からいつでもどこでもエネルギー補給できるわけではありません。

 また、ハイブリッド化によりガソリンスタンドの需要が減少した状況と同じく、LPGスタンドに関しても需要は減少しています。さらにLPGスタンドはガソリンスタンドのようにセルフ化したり、無人化したりすることが許可されていません。安価で環境にやさしいLPガスですが、今後LPGステーションが増える見込みは今のところなさそうです。

<参考サイト>
タクシーの燃料はガソリンじゃないって知ってた?「LPG」って一体なに?|CarMe
https://car-me.jp/articles/19518
なぜタクシーはガソリンでもディーゼルでもなくLPG対応エンジンを採用したのか!?|ベストカーWeb
https://bestcarweb.jp/feature/column/265204
なぜLPガスだけ緩和対象に!? 燃料費高騰で苦しむ運輸業に見る不可思議な現状|ベストカーWeb
https://bestcarweb.jp/feature/column/427989
排出物質:窒素酸化物(ちっそさんかぶつ)|環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kids/aozora/haisyutu_04.html
JPN TAXI |トヨタ
https://toyota.jp/jpntaxi/
LPガス業界の現況について|一般社団法人全国LPガス協会
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/carbon_neutral_car/pdf/002_06_00.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

トランプ政治と民主主義の危機…カント哲学から考える

トランプ政治と民主主義の危機…カント哲学から考える

編集部ラジオ2025(9)デモクラシーの危機と「哲学」

いま、世界各国で「デモクラシーの危機」が高まっています。これまでの常識を超えたドラスティックな政策を次々と打ち出す第2次トランプ政権はもちろん、欧州各国の政治状況もポピュリズム的な面を強くしています。また、ロシア...
収録日:2025/04/03
追加日:2025/05/22
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
2

日本のインテリジェンスは大丈夫か…行政機関の対応に愕然

日本のインテリジェンスは大丈夫か…行政機関の対応に愕然

医療から考える国家安全保障上の脅威(4)国家インテリジェンスの課題

「日本のインテリジェンスは大丈夫なのか」という声が海外から聞かれるという。例えば北朝鮮のミサイルに搭載されている化学剤について、「エイジング」と呼ばれる拮抗薬投与までの制限時間の観点からはまったく見当違いの神経...
収録日:2024/09/20
追加日:2025/05/22
山口芳裕
杏林大学医学部教授
3

イヌ、ネコ、ニワトリ…弥生時代の役割と縄文時代との違い

イヌ、ネコ、ニワトリ…弥生時代の役割と縄文時代との違い

弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(10)弥生人と動物

われわれにとって馴染み深いイヌやネコなどの動物。縄文時代や弥生時代は、その役割、位置づけはどうなっていたのか。また、現代との違いはどこにあるのか。出土品から見えてくる動物との関係について、当時の食生活にも触れな...
収録日:2024/07/29
追加日:2025/05/21
藤尾慎一郎
国立歴史民俗博物館 名誉教授
4

メタボリックシンドロームを単なる肥満と侮ってはいけない

メタボリックシンドロームを単なる肥満と侮ってはいけない

健診結果から考える健康管理・新5カ条(6)メタボを侮ってはいけない

「メタボリックシンドローム」を単なる肥満と侮ってはいけない。内臓脂肪が蓄積すると、血糖値や血圧の上昇を招き、さまざまな健康リスクを高めることになってしまう。自覚症状のないまま血管障害が進行するリスクの上昇を防ぐ...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/05/20
野口緑
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
5

デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題

デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題

危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化

ショーヴィニズム(排外主義)、反エリート主義、反多元性を特徴とする政治勢力が台頭するなどポピュリズムと呼ばれる動きが活発化する中、「デモクラシーは大丈夫なのか」という危惧がかなり強まっている。アメリカのトランプ...
収録日:2024/09/11
追加日:2025/03/28
齋藤純一
早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授