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DATE/ 2024.11.22

運転中に発生する「危険な錯覚」とは

 トンネルに出入りする瞬間、夜間の直線道路、連続するカーブ、運転中これらの状況でヒヤッとした経験のあるひともいるのではないでしょうか。ここに挙げたのは運転中の「錯覚」に関連する危険なポイントです。今回は運転中に気を付けるべき「危険な錯覚」について取り上げます。

「蒸発現象」と「溶け込み現象」

 夜の直線道路を歩行者が横断している場合、通常はライトで照らし出して確認することができます。ただし、このとき対向車のライトと自身の車のライトが交錯すると、その交錯地点(道路中央付近)の歩行者は突然見えなくなることがあります。これは「蒸発現象」と呼ばれるものです。

 特に雨で路面が濡れていると車のライトは乱反射します。こうなると歩行者の足元の部分まで見えなくなる可能性があります。またこの「蒸発現象」は強い光の交錯によって起こるので、ライトを点灯したまま停車している車がいても同様の問題が起こります。夜間、特に道路が湿っている時は、直線であっても注意が必要です。

 また、暗い場所から急に明るい場所に出ると、目の前が真っ白になることがあります。これはトンネルから外に出た時や、地下駐車場から地上に出た時などに起こります。このときには、白い車や銀色の車は消えたように感じます。これも蒸発現象の一種です。一方これとは逆に、晴天の明るい場所からトンネルに入った直後などは視界が真っ暗になり、黒や濃い色の車が消えたように感じることがあります。こちらは「溶け込み現象」と呼ばれます。

 このように一定の条件が揃えば「蒸発現象」「溶け込み現象」が起きます。この危険を回避するには、まずは自身の車が見えない状態にならないように意識することが大事です。トンネルに入る前から早めにテールランプを点灯する、テールランプはトンネルを出た後も少し長く点灯させておく、といった追突回避策が有効です。

「水平(平衡)感覚の狂い」と「曲方指向」

 カーブを曲がる時、車は遠心力で外方向に傾きます。このとき遠心力に対する不安から、車の傾きと反対方向に体を傾けてしまうことがあります。また、くねくねと曲がった山間部を走る場合、カーブが連続して何度も体を傾斜させることになります。このことで体の平衡感覚に狂いが生じることがあります。この状態でカーブを抜けて、直線道路に入ると道路が傾いているように感じます。

 このとき、傾きを戻そうと誤ったハンドル操作をしてしまうことで事故が発生しています。回避するにはカーブを曲がる時にスピードを落とすこと。遠心力は速度の2乗に比例して大きくなります。つまり、同じカーブでも速度が2倍であれば遠心力は4倍になります。カーブでは減速して、体が傾かないように意識しましょう。

 またカーブを曲がる時に、車が自然と内側に寄ってしまうということもあります。人間は広く見える方へ寄っていく性質があり、カーブの内側が広く見えるからです。このことを「曲方指向」といいます。これはカーブの大小にかかわらず起きる現象。このことでセンターラインを越えてしまうことがあります。カーブは内側が広く見える、という意識を常に持っておきましょう。

視覚吸引作用

 人は意識を向けているものに集中し、その方向に近寄ってしまう傾向があります。このことから、車線変更してくる車のウィンカーに意識を取られて無意識にその車に近づいたり、ナンバープレートやステッカーに意識を取られたりして、つい接近してしまうということもあるようです。

 また、こうして車同士が近づいてしまった場合、さらに接触を意識して相手の車を凝視してしまうこともあります。こういった場合には、少し前方の白線を意識して直進性を保つといいようです。また自身の車のダッシュボード上の小物が落ちそうになって意識を取られることもあります。運転中に何かを凝視することは危険のもとです。ともかく凝視している対象からいち早く視線を外し、周囲に視線を配ることを意識しましょう。

コリジョンコース現象

 自身の運転する車と、90度に交差する道を走る車が同じスピードで走っているとき、相手の車は止まって見えます。この現象は「コリジョンコース現象」と呼ばれるものです。お互いに停車しているように見えるのでそのまま交差点に侵入し、事故が起こります。比較的見通しのよい田畑が広がる交差点などでおきることから「田園型事故」や「十勝型事故(北海道の十勝地方で多発したことから)」などと呼ばれます。

 原因は、人の視野角のうち「中心視野(対象物の色や形を正確に判別できるエリア)」が、正面から左右35度以内に限られているという点が大きいようです。人間の視野角全体は100度程度ありますが、残りの36度から100度の範囲は「周辺視野」と呼ばれ、見えてはいても認識しづらい場所です。直角に交差する道路で2台の車が同じスピードで接近する時、お互いの角度は45度を保っています。この角度は「周辺視野」に位置するので正確に把握できません。また角度が一定なので、相手の車がちょうどフロントピラー(窓柱)に隠れた状態で近づいてしまうこともあります。

 こうして発見が遅れます。また見通しのよい平地ではスピードを出していることも多いことから、非常に危険な事故となります。このことから「コリジョンコース現象」が起こりやすい場所では「交差点あり」の標識が設置されていたり、路面に「交差点注意」と記されていたりする場所もあります。また場所によっては「減速帯(道路上の凸凹)」も設置されているようです。

 この現象を避けるためには、まずは見通しが良いからと過信せず、意識的に目線を違う方向に動かしましょう。また、信号のない交差点に近づいたら必ず減速しましょう。たとえ車がいないと思っても、交差点では減速し、しっかりと周囲の安全を確認するという習慣を身につけておくことが有効です。

<参考サイト>
蒸発現象|群馬県警察
https://www.police.pref.gunma.jp/koutuubu/01kouki/jiko/douro/jouhatu.html
[Q]錯覚で起こる運転中の危険な一瞬とは?|JAF
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-accident/subcategory-counterplan/faq159
[Q]トンネルで起こる不思議な現象とは?|JAF
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-accident/subcategory-counterplan/faq129
[Q]見通しのいい交差点に潜む危険「コリジョンコース現象」とは?|JAF
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-accident/subcategory-counterplan/faq161
山道運転で注意! カーブによる目の錯覚|GAZOO
https://gazoo.com/column/daily/16/03/01/
コリジョンコース現象とは?見通しの良い交差点の事故に注意!|ZURICH
https://www.zurich.co.jp/car/useful/guide/cc-collision-course/
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