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「宇宙での犯罪」は誰が裁くのか?
2019年8月、世界初となるの「宇宙犯罪」疑惑が報じられました。報じられた内容は、日本・米国・ロシア・カナダ・欧州の15カ国が協力して建設した国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中のアメリカ人女性宇宙飛行士が、離婚訴訟中のパートナーの銀行口座に不正にアクセスした疑いに、米航空宇宙局(NASA)が調査に乗り出したというものでした。
今後も宇宙での殺人や傷害、さらには窃盗や詐欺など「宇宙犯罪」が発生する可能性はあります。では、「宇宙での犯罪」は誰が裁くのでしょうか。またそのための根拠となる法律はあるのでしょうか。
根拠となる法律は、“宇宙の憲法”とも称される「宇宙条約」です。
「宇宙条約」(正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」)は、「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」により作成され、1966年国連総会で採択、1967年発効された、宇宙に関する基本条約です。(1)平和利用、(2)宇宙利用、(3)宇宙活動自由、(4)領有禁止、(5)国際協力、(6)他国利益尊重――の6つの基本原則を支柱としています。そして、6つの基本原則に法秩序の創設のための諸条項と国際協力の諸条項とを組み合わせた国際法です。
さらに「宇宙条約」はユニークな条約で、多国間条約で唯一、民間人の行動の結果に国家が直接責任を負うと規定されています。つまり、宇宙はどの国であっても領有権などの主張はできないものの、宇宙活動における責任は国家に一元的に集中されることが原則となっています。
ただし、宇宙空間にあっても、各国が建設した施設内部はその国の主権が及びます。そのため、例えば国際宇宙ステーション(ISS)内に日本が設置した日本実験棟「きぼう」の中で犯罪が起これば、犯人や被害者の国籍を問わず、日本の刑法によって裁かれるこが基本となります(ただし、ISSの主権は多国間であるため、実際はさらに複雑になることが予想されます)。
「宇宙5条約」(2017年1月現在)
【「条約名」採択年/主な条約内容/日本の加盟年/加盟国・機関数】
(1)「宇宙条約」1966年/宇宙の探索・利用全体の基本原則を規定/1967年/105・0
(2)「宇宙救助返還協定」1967年/避難した宇宙飛行士の救助・返還などを定める/1983年加入/95・2
(3)「宇宙損害責任条約」1971年/宇宙活動における損害の過失責任などの規定/1983年加入/94・3
(4)「宇宙物体登録条約」1974年/人工衛星等の国際登録に関する規定/1983年加入/63・3
(5)「月協定」1979年/自由競争による月や天体資源等の開発や利用、所有を禁止する/未署名/17・0
「宇宙5条約」はどれも重要な国際ルールですが、残念ながら各国の国内法と矛盾や衝突などバラツキが生じることがあったり、加盟国が少なかったり、さらには開発が進む宇宙において不足な点が発生しているなど、課題点が多々あります。
国家間だけでなく民間での開発も活性化している宇宙において、宇宙犯罪の責任所在や法的根拠を考えること、ひいては宇宙での法律や国際ルールを世界全体で議論しながら周知・改良していくことが求められています。
今後も宇宙での殺人や傷害、さらには窃盗や詐欺など「宇宙犯罪」が発生する可能性はあります。では、「宇宙での犯罪」は誰が裁くのでしょうか。またそのための根拠となる法律はあるのでしょうか。
宇宙の憲法「宇宙条約」
“「宇宙での犯罪」は誰が裁くのか?”という問いに対する答えは、「基本的には罪を犯した人の国籍に基づく」となっています。例えば、日本人が宇宙で罪を犯した場合は日本の法律で裁かれます。つまり、冒頭で紹介した世界初となるの「宇宙犯罪」疑惑の被疑者はアメリカ人であったため、アメリカの法律で裁かれることになります。根拠となる法律は、“宇宙の憲法”とも称される「宇宙条約」です。
「宇宙条約」(正式名称は「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」)は、「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」により作成され、1966年国連総会で採択、1967年発効された、宇宙に関する基本条約です。(1)平和利用、(2)宇宙利用、(3)宇宙活動自由、(4)領有禁止、(5)国際協力、(6)他国利益尊重――の6つの基本原則を支柱としています。そして、6つの基本原則に法秩序の創設のための諸条項と国際協力の諸条項とを組み合わせた国際法です。
さらに「宇宙条約」はユニークな条約で、多国間条約で唯一、民間人の行動の結果に国家が直接責任を負うと規定されています。つまり、宇宙はどの国であっても領有権などの主張はできないものの、宇宙活動における責任は国家に一元的に集中されることが原則となっています。
ただし、宇宙空間にあっても、各国が建設した施設内部はその国の主権が及びます。そのため、例えば国際宇宙ステーション(ISS)内に日本が設置した日本実験棟「きぼう」の中で犯罪が起これば、犯人や被害者の国籍を問わず、日本の刑法によって裁かれるこが基本となります(ただし、ISSの主権は多国間であるため、実際はさらに複雑になることが予想されます)。
宇宙での基本的な国際ルール「宇宙5条約」
「宇宙条約」は国際宇宙法の中の最も重要な法律ですが、各国でも憲法に基づくさまざまな法律が制定されているように、「宇宙条約」の他に国際宇宙法が存在します。特に、「宇宙条約」同様に「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」によって作成され、国連総会で採択された「宇宙5条約」とも呼ばれる条約・協定は、宇宙での基本的な国際ルールとなっています。「宇宙5条約」は、採択年順に以下のようになっています。「宇宙5条約」(2017年1月現在)
【「条約名」採択年/主な条約内容/日本の加盟年/加盟国・機関数】
(1)「宇宙条約」1966年/宇宙の探索・利用全体の基本原則を規定/1967年/105・0
(2)「宇宙救助返還協定」1967年/避難した宇宙飛行士の救助・返還などを定める/1983年加入/95・2
(3)「宇宙損害責任条約」1971年/宇宙活動における損害の過失責任などの規定/1983年加入/94・3
(4)「宇宙物体登録条約」1974年/人工衛星等の国際登録に関する規定/1983年加入/63・3
(5)「月協定」1979年/自由競争による月や天体資源等の開発や利用、所有を禁止する/未署名/17・0
「宇宙5条約」はどれも重要な国際ルールですが、残念ながら各国の国内法と矛盾や衝突などバラツキが生じることがあったり、加盟国が少なかったり、さらには開発が進む宇宙において不足な点が発生しているなど、課題点が多々あります。
国家間だけでなく民間での開発も活性化している宇宙において、宇宙犯罪の責任所在や法的根拠を考えること、ひいては宇宙での法律や国際ルールを世界全体で議論しながら周知・改良していくことが求められています。
<参考文献・参考サイト>
・『宇宙ビジネスのための宇宙法入門(第2版)』(小塚荘一郎・佐藤雅彦編著、有斐閣)
・『国際法(第2版)』(玉田大・水島朋則・山田卓平著、有斐閣)
・「宇宙条約」『日本大百科全書』(池田文雄著、小学館)
・「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」『情報・知識 imidas』(集英社)
・宇宙空間初の犯罪容疑? 飛行士が口座不正侵入か - 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48989290W9A820C1CR0000/
・1 国際宇宙法 - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/10314933/1/1
・「きぼう」日本実験棟/国際宇宙ステーション(ISS) - JAXA
https://www.jaxa.jp/projects/iss_human/kibo/index_j.html
・法的には、誰が建設できるのですか? << 宇宙エレベーター協会
https://www.jsea.jp/about-se/what-is-spaceelevator-08.html/14.html
・『宇宙ビジネスのための宇宙法入門(第2版)』(小塚荘一郎・佐藤雅彦編著、有斐閣)
・『国際法(第2版)』(玉田大・水島朋則・山田卓平著、有斐閣)
・「宇宙条約」『日本大百科全書』(池田文雄著、小学館)
・「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)」『情報・知識 imidas』(集英社)
・宇宙空間初の犯罪容疑? 飛行士が口座不正侵入か - 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48989290W9A820C1CR0000/
・1 国際宇宙法 - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/10314933/1/1
・「きぼう」日本実験棟/国際宇宙ステーション(ISS) - JAXA
https://www.jaxa.jp/projects/iss_human/kibo/index_j.html
・法的には、誰が建設できるのですか? << 宇宙エレベーター協会
https://www.jsea.jp/about-se/what-is-spaceelevator-08.html/14.html
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