テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.05.23

「公海」って一体どんな場所?

 2023年の3月、国連の加盟国政府のあいだで、ある条約案が合意されました。「国連海洋法条約」に基づき、これまで1%程度に過ぎなかった公海の保護区域を2030年までに30%にするというものです。保護区を拡大させ、世界各国が協力して公海の自然環境を守っていくことを目的としています。

 そんな話題の公海ですが、そもそも公海とは何か、よく耳にする「領海」や「排他的経済水域」との違いは何か、実はよく分からないという人もいるでしょう。

 海に囲まれた日本に住むからこそ、公海と、そのほかの海域との違いについて理解しておきましょう。

4つの海域:公海、領海、接続水域、排他的経済水域

 「国連海洋法条約」とは『海洋法』という国際法の中で定められた、海洋の利用、開発、規制などについて各国が守るべきルールのことです。“海の憲法”とも呼ばれています。

 その「国連海洋法条約」の中で、世界に広がる海は以下の4つに区分されています。

・公海
・領海
・接続水域
・排他的経済水域

 領海、接続水域、排他的経済水域とは、おおざっぱに言えば「沿岸国の影響力(法律)が及ぶ範囲」を明確に示したものです。その国の領土に近ければ近い海であるほど、影響力が大きくなります。

「領海」とはその名の通り、沿岸国が領有する海のこと。地上と同じように、領海内ではその国の法律(日本であれば日本国憲法)を遵守しなければなりません。ただし、沿岸国の安全や秩序を脅かさないのであれば、外国船であっても領海内を通行する権利があります。
 しかしながら、密漁や密輸を行っている不審船と判断された場合、国はその船長らを逮捕することができます。

 領海の範囲は、基準となる海岸線(基線)から12海里(約22km)です。

「接続水域」とは、基線から24海里(約44km)、つまり領海から12海里外側の海域です。どの国の船でも基本的に自由に通行できますが、沿岸国側は、領海に近づこうとする不審な船に対して警告を鳴らす、監視するといった、一定の警備体制を敷くことができます。船が警告に従わない場合、その船は処罰の対象になります。領海を侵されないための、予防的海域というイメージです。

「排他的経済水域」とは、基線から200海里(約370km)の範囲の(領海を除いた)海域とその海底、地下を含む海域のことです。通称「EEZ(Exclusive Economic Zone)」とも呼ばれます。
 EEZではどの国の船でも自由に通行できますが、“経済”水域の名の通り、経済や保全活動に関わることに関しては、沿岸国にのみ権利があります。具体的には、石油やガス、鉱物などの天然資源の採掘や、海洋の調査、保護などです。

 そのため、外国船がEEZ内で漁業や採掘、海底調査をしたい場合は、沿岸国の許可が必要となります。許可なく操業した場合は、取り締まりの対象となります。

 そして「公海」とは、領海~EEZ外の、特定の国に属さないすべての海のことです。

 世界中のどこの国の船でも自由に航行、漁業、上空飛行、海洋調査が可能。海底電線やパイプラインの敷設、人口島の建設も、同様に自由に行えます。ただし、公海を航行する場合は自国の国旗を掲げ、自国の法律に従うという国際上のルールは存在します。

 公海の範囲は、世界の海の約2/3、地球の表面のおよそ半分を占めるといわれます。

「自由」な公海を「無法地帯」にしないために

 公海はすべての国に開かれた海域です。しかしどの国にも属さず、監視の目が行き届きにくいために、海賊の横行や密輸、違法投棄、人身売買などといった犯罪行為の温床になりやすいエリアでもあります。

 また、漁船が公海の豊かな水産資源を求め、魚を乱獲してしまうという事態も起こっており、公海上での漁業の在り方が問題視されています。

 すべての国が公海を自由に利用し、そして平等に恩恵を受けるためにも、公海保全のための法整備は急務となっています。前述した国連海洋法条約による公海の保護区域の拡大は、そうした公海航行の安全、持続可能な海洋利用、海洋環境の保護の面で、非常に注目されているのです。

<参考サイト>
・領海等に関する用語(海上保安庁)
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/zyoho/msk_idx.html
・海洋の国際法秩序と国連海洋法条約(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaiyo/law.html
・国土を知る / 意外と知らない日本の国土(一般社団法人国土技術研究センター JICE)
https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary03
国連が公海の保護条約協議へ、「海洋版パリ協定」(ナショナルジオグラフィック)
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/122600139/
・海洋保護の歴史的条約、草案に各国が合意 10年間協議の末(BBC NEWS JAPAN)
https://www.bbc.com/japanese/64858798

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」

東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?

東洋思想を研究する中で、50年間追求してきた命題の解を得たと田口佳史氏は言う。また、その命題を得るきっかけとなったのは松下幸之助との出会いだった。果たしてその命題とは何か、生涯の研究となる東洋思想とどのように結び...
収録日:2024/09/19
追加日:2024/11/21
2

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

次の時代は絶対にアメリカだ…私費で渡米した原敬の真骨頂

今求められるリーダー像とは(3)原敬と松下幸之助…成功の要点

猛獣型リーダーの典型として、ジェネラリスト原敬を忘れてはならない。ジャーナリスト、官僚、実業家、政治家として、いずれも目覚ましい実績を上げた彼の人生は「賊軍」出身というレッテルから始まった。世界を見る目を養い、...
収録日:2024/09/26
追加日:2024/11/20
神藏孝之
公益財団法人松下幸之助記念志財団 理事
3

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う

ポスト冷戦の終焉と日本政治(1)「偽りの和解」と「対テロ戦争」の時代

これから世界は激動の時代を迎える。その見通しを持ったのは冷戦終焉がしきりに叫ばれていた時だ――中西輝政氏はこう話す。多くの人びとが冷戦終焉後の世界に期待を寄せる中、アメリカやヨーロッパ諸国、またロシアや同じく共産...
収録日:2023/05/24
追加日:2023/06/27
中西輝政
京都大学名誉教授
4

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

遊女の実像…「苦界と公界」江戸時代の吉原遊郭の二面性

『江戸名所図会』で歩く東京~吉原(1)「苦界」とは異なる江戸時代の吉原

『江戸名所図会』を手がかりに江戸時代の人々の暮らしぶりをひもとく本シリーズ。今回は、遊郭として名高い吉原を取り上げる。遊女の過酷さがクローズアップされがちな吉原だが、江戸時代の吉原には違う一面もあったようだ。政...
収録日:2024/06/05
追加日:2024/11/18
堀口茉純
歴史作家
5

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事